【13話】その笑顔は反則です

 

 そんなやり方で調理を進めていき、無事にサンドイッチは完成。

 結構なクオリティに仕上がっている。

 

「信じられない。まさか、俺がこれを作ったというのか」


 驚いているレナルドがおかしくて、シルフィはクスクス笑う。

 

「レナルド様の覚えが良かったからですよ」


 それはお世辞でも何でもなかった。

 

 少し説明するだけで、レナルドはすぐに理解し実践してしまう。

 スポンジのごとき、凄まじい吸収力を持っていた。

 

 しかし、レナルドは首を横に振った。

 

「それはシルフィの教え方が上手かったからだ」

「ふふ、ありがとうございます」


 小さく笑うシルフィ。

 

 シルフィの教え方は足りない部分が多く、レナルドに遠く及ばないだろう。

 それは、説明していた自分が一番よく分かっている。

 

 しかし、お世辞でもそう言ってくれるのは嬉しかった。

 

「私、お皿を準備しますね。どこにありますか?」

「そこの棚に入っている」


 レナルドが示したのは、壁に建付けられている吊り戸棚だった。

 少々高い位置にあるので、単純に腕を伸ばしただけでは届かない。背伸びする必要がありそうだ。

 

「俺が取ろうか?」

「いえ、大丈夫です。ちょっと頑張れば届きますから」


 吊り戸棚の扉を開ける。

 つま先を立てたシルフィは、腕を伸ばして二枚の皿を掴む。

 

 危なっかしいながらも、なんとか皿を取り出すことに成功。

 

 しかしそこで、体のバランスを崩してしまう。

 

「あ……」

 

 背中から倒れ込みそうになるシルフィ。

 

 だが床に体を打ちつける前に、後ろからレナルドが体を支えてくれた。

 シルフィの両肩を持ち、しっかりと支えてくれている。

 

「大丈夫か!」

「は、はい!」

 

 心臓がバクバクと脈打つ。

 レナルドの顔をまともに見られない。

 

(どうしよう……! レナルド様、かっこよすぎだわ)

 

 ピンチに颯爽と現れ、助けてくれたレナルド。

 一連の行動がかっこよすぎて、どうしようもなくときめいてしまう。

 

「顔が赤いが、どうした?」

「何でもありません! それより食事の準備を続けましょう」

「……あぁ、そうだな」


 少し戸惑っていたが、レナルドは納得してくれた。

 

 棚から取り出した皿にサンドイッチを載せ、食堂まで持っていく。

 横長の食卓テーブルに、二人は対面で座った。

 

「では、いただこうか」

「はい」

 

 サンドイッチを口に運ぶレナルドを、シルフィはじっと見る。

 どんな反応をするか気になっていた。

 

 レナルドは驚いたような反応をした後、感嘆の息を漏らした。

 

「美味しい……本当に美味しい」

「良かったです」


 ホッと安堵の息を吐く。

 本心からそう言ってくれているみたいで安心した。

 

「今まで食べてきた食事の中で、これが一番美味しい」

「またまた。どうも、ありがとうございます」


 さらっと受け流すと、レナルドは「俺は本気だぞ」と言葉に力を込める。

 

「シルフィに出会えて、俺は本当に幸せ者だ」


 レナルドがにこやかに笑った。


 その笑顔は反則だった。

 シルフィの顔がバーッと赤くなっていく。


 先ほどのこともあり、またもや彼にときめいてしまった。

 お世辞だと分かっていても、意識せずにはいられない。

 

「どうしたシルフィ? また顔が真っ赤になっているぞ」


 対面からの問いに、シルフィは何も答えられない。

 そんな余裕が、今はどこにも残っていなかった。

 

 

 昼食後は、いつものようにレナルドから勉強を教えてもらう。

 しかし顔に熱が集まってしまい、シルフィはどうも集中できなかった。

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