【12話】二人で料理


 ロクソフォン家を訪れた翌日。

 

 授業中の今、シルフィとレナルドはいつものように筆談をしていた。

 

”昨日は本当にありがとうございました。おかげで小テストも安心して受けられます”

”礼を言うのは俺の方だ。昨日はシルフィといっぱい話せて嬉しかった”


 それはシルフィも同じ気持ちだった。

 

 だから、私もです、と書こうとしたのだが、ペンを持つ手が止まってしまう。

 気持ちをストレートに伝えるのが、どうも恥ずかしかったのだ。

 

 そうして止まっていたら、レナルドのペンが再び文字を書き始めた。

 

”そういえば、数学以外の教科は大丈夫なのか?”

”ほとんどは問題ありません。でも各教科、苦手な部分が少しだけあります”

”もし良ければ、数学以外の勉強も教えようか?”

”お願いします!”


 シルフィにとって、何とも嬉しい申し出だった。

 

 昨日の教えぶりからして、他の教科も分かりやすく教えてくれるだろう。

 そうなれば、成績アップ間違いなしだ。

 

”今日から放課後は毎日、俺の家に来るといい。そこで勉強しよう”

”はい!”


 ペンを躍らせながら、シルフィはすぐに返事を返す。

 テンションの高さが文字に表れている。

 

 勉強を教えてもらえることはもちろん嬉しいが、テンションが上がっている一番の理由はそこじゃない。

 

 放課後の時間をレナルドと過ごせること。

 さらには、筆談でなく声に出しての会話ができること。

 

 それらが、どうしようもなく嬉しくてたまらない。

 今後のことを考えるだけで、シルフィの顔は綻んでしまうのだった。

 

******


 学園では筆談。

 放課後はロクソフォン家で勉強、そして会話。

 

 そんな充実した一週間を過ごし、今日は休日。

 

 シルフィは、ロクソフォン家を訪れていた。

 

 彼女の腕には、バスケットがぶら下がっていた。

 中には、料理作りに使う食材が入っている。


 先週した約束通り、今日はレナルドと一緒に料理づくりを行う予定だ。

 二人で作った料理を、昼食として食べるという流れになっている。

 

(楽しみだわ!)

 

 レナルドがいるゲストルームを訪ねると、彼は笑顔で迎えてくれた。

 心なしか、少しだけ眠そうだ。

 

「おはよう、シルフィ。今日は料理を教えてくれるんだよな。それが楽しみで、昨日はあまり眠れなかった」

「ふふ、実は私もです」

 

 にこやかな雰囲気で挨拶を交わす。

 ゲストルームを出た二人は、キッチンへと向かった。

 

 広大な部屋の中には、高級そうな器具がいくつも取り揃えてある。

 何となく想像はしていたが、やはりキッチンも豪華だ。

 

「どんな料理を作るんだ?」

「サンドイッチにしようかと思っています」


 手に持っていたバスケットを机の上に置き、フタを開ける。

 野菜、ハム、卵、色とりどりの食材が顔を出した。

 

 特に難しい手順を要さないサンドイッチは、今日の趣旨にピッタリな料理だった。

 

「最初に、パンに挟む食材を、ほどよい大きさにカットしていきます。まずは私がやるので、レナルド様は見ていてください」

「分かった」


 慣れた手つきで、シルフィは食材をカットした。

 その際に、注意点などを細かく説明していく。

 

 シルフィの説明を、ものすごく熱心に聞くレナルド。

 真剣な表情で、相槌を打ってくれる。

 

(説明のし甲斐があるわね)


 レナルドのやる気に触発されたシルフィは、説明にさらなる熱が入っていく。

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