【7話】レナルドの変わりぶり


 レナルドから告白された翌日。

 

 学園に登校したシルフィは、二年A組の教室に入る。

 新たな自席である、最後列窓側の席に座った。

 

 それとほぼ同時。


「おはようシルフィ」


 凛とした声で気持ちの良い挨拶をしてきたのは、隣席のレナルドだ。

 夏の太陽に負けないくらいの、眩しい笑顔をしている。

 

 瞬間、クラスメイトたちの驚愕の視線が、最後列窓側に集中する。

 

 クラスメイトが一斉に驚いた理由は、レナルドの行動にあった。

 

 無愛想で寡黙、誰とも関わろうとしない孤独の一匹狼。

 皆が知っているレナルド・ロクソフォンとは、そういう人物だった。

 

 そんな彼が笑顔で挨拶したとなれば、誰だって驚いて当然だ。

 

「今日も暑いな。こういう時は、冷たいものが食べたくなる。シルフィはどうだ?」


 挨拶に続いて、なんと親し気に雑談まで振ってきた。

 

 それはもう、完全なる異常事態だった。

 クラスメイトの驚きが、さらに大きくなっていく。

 

(ッ~!!)

 

 驚愕の視線の集中砲火を浴びるシルフィは、恥ずかしてくてたまらない。

 こうなった原因であるレナルドを、今すぐどうにかする必要がある。

 

「ちょっと来てください!」


 レナルドの手を強引に取って、そのまま教室の外に出て行く。

 

 

 校舎裏まで連行したところで、シルフィは手を離した。

 

 背中越しに、レナルドが声をかけてくる。

 

「こんなところまで連れてきて、いったいどうしたんだ?」

「それは私のセリフです!」


 ぐるんと反転。

 レナルドと向き合ったシルフィは、くわっと身を乗り出した。

 

「どうして急に話しかけてきたのですか!」

「シルフィは昨日、俺のことを知らないと言っただろ? だから、知ってもらおうと思ったんだ。だが、そのせいでシルフィに迷惑をかけてしまったようだな」


 レナルドが申し訳なさそうな顔になる。

 

「すまなかった」


 誠意のこもった謝罪を受けたシルフィ。

 興奮していた頭が、徐々に冷静さを取り戻していく。

 

「私の方こそ勢いで色々言ってしまって、本当にすみませんでした。……別に、迷惑という訳ではないんです」


 恥ずかしそうに顔を下に向けるシルフィ。

 指を突き合わせて、つんつんする。

 

「私、ずっと目立たないように学園生活を送ってきました。ですからこういう、人から注目されることに慣れていなくて、恥ずかしいんです」

「……つまり、クラスの人間にバレなければ、話しかけてもいいわけだな」


 顔を上げると、レナルドが安心した表情で頷いていた。

 

「二度と話しかけてくるな、なんて言われたらどうしようかと思った」

「そんなことは言いませんよ。でも、どうやって話をするつもりですか?」


 レナルドはかなり目立つ。

 少しでも会話をしようものなら、とたんに注目を集めてしまうだろう。

 

「その方法ならもう考えてある。と、そろそろ朝のホームルームが始まってしまう。今は早く教室へ戻ろう」


 早足で教室へ向かうレナルドの少し後ろを、シルフィはついて行く。

 

(他の人にバレないようなやり方って……レナルド様はどうするつもりなのかしら?)


 答えを聞けないまま教室に戻ることになってしまった。

 疑問に思いながらも、シルフィは足を動かしていく。

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