【6話】告白の理由


 突然の告白を受けたシルフィは、頭が真っ白になっていた。

 

「驚かせてしまったか」

「えっと……はい」

「すまない。だが、安心してくれ。俺の願いは『告白させてくれ』だ。『告白を受け入れてくれ』ではない」


 得意げに、ドンと胸を張るレナルド。


 混乱しているシルフィは、彼の言っている意味がよく分からなかった。

 だからとりあえず、思ったことを口に出す。

 

「あの……どうして私に告白したのですか?」

「君のことが好きだからだ」

「ですが、レナルド様に好かれるような心当たりが、私にはありません」


 これまで、彼との接点はまったくないと言っていい。

 強いて言えば、二年連続で同じクラスだったことくらいだろうか。

 

 しかし去年も今年も、まともに関わった覚えがない。

 ちゃんと言葉を交わしたのは、今日が初めてだった。

 そんな人物に好意を抱かれていたなんて、到底思えない。


「君からしたらそうだろうな。だが俺は、シルフィを初めて見た時、心を奪われたんだ。一目惚れというやつだな」


 レナルドは恥ずかしそうに笑う。

 

「それからは、ずっと君を目で追ってきた。でも、この気持ちを伝えられなかった。君には婚約者がいたからな。だから俺は、この気持ちをずっとしまってきた。……だが、もうその必要はない」


 真剣な表情になったレナルド。

 まっすぐにシルフィを見つめる。

 

「シルフィ、君のことが好きだ。俺と婚約してほしい」


 シルフィの顔がボンと赤くなる。

 

 こんなストレートに好意を伝えられたのは、生まれて初めてだ。

 しかもその相手は、絶世の美丈夫ときた。

 

 これで動揺しないというのは、いくらなんでも無理だった。

 

(おおおお、落ち着くのよ私!)


 必死で言い聞かせ、今の状況を整理する。

 すると、とある疑問が浮かんだ。

 

「レナルド様は、イレイシュ様と婚約しているのではありませんか?」


 昨日、レナルドとイレイシュは横並びになって王都の街を歩いていた。

 誰が見たって、あれは仲睦まじいデートだ。

 

 さらには、席替えした後の、殺意がこもったイレイシュの視線。

 レナルドの隣に座るシルフィが、きっと許せなかったのだろう。

 

 どう考えても、二人は婚約しているとしか思えない。

 

 しかしレナルドは、首を横に振った。

 

「俺とイレイシュは、何の関係もない」

「でも昨日、デートしていましたよね?」

「あれは単なる取引だ。あの女は日頃から、デートしろとうるさくてな。金輪際俺に関わるな、そういう条件で一度だけ買い物に付き合っただけだ」

「では席替えの後、殺意がてんこ盛りの視線を私へ向けたことは?」

「正確な理由は分からないが、俺が関係しているのだろう。あの女には明日、俺から厳重に注意する。迷惑をかけてすまない」


 レナルドが嘘を言っているとは思えなかった。

 真剣な瞳を見れば分かる。

 

 しかしシルフィは、完全に信じることはできないでいた。

 信じていた人に裏切られた経験が、彼女を臆病にしていた。

 

「でもイレイシュ様は、私なんかよりずっと可愛いです。この国の男性なら、私よりイレイシュ様を選ぶはずです」

「……その、怒らないで聞いてほしいのだが、俺は昔から人よりズレているところがあると言われてきた。だから、普通の人と好みのタイプが違うんだ」

「じゃあ、私の好きなところを今から百個言ってみて下さい」

「それくらい造作もない。千でも一万でも言える」


 レナルドの口元がニヤリと上がる。


「まず、キリっとした目元が美しい。銀の髪はたおやかで上質な絹のようだ。それに、食事姿が可愛いくて――」

「すいません、もうめて下さい!」


 まさか、本気で言うとは思わなかった。

 このまま聞いていたら恥ずかしくて死にそうだったので、シルフィは慌てて止めた。

 

「俺の本気は伝わったか?」

「はい。……でも、もう少し時間をくれませんか? 私、レナルド様のことを全然知りません。そんな状態で、答えを出したくないんです。せっかく告白してくれたのに、申し訳ございません」

「謝らないでくれ、シルフィ」


 怒ってもいい場面なのに、レナルドの声はどこまでも優しかった。

 

「俺のことを真剣に考えてくれてありがとう。君の好きなところが、これでまた一つ増えた。答えを聞かせてくれるのを、楽しみにしている」


 そう言って、レナルドは校舎裏から去って行った。

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