第3話:我らの非日常

 植物?

 いや、植物も生き物なのは分かる。

 だから心配だった。


 鴉魂れいぶ涼鳴りょうがは関東某地区の植物園跡地に来ていた。

 許可は涼鳴りょうがが取ってて大丈夫らしい。

 その代わり得体の知れない植物と戦うらしい。


「もしかして植物の霊とか?」


「そうとも言えますし、そうじゃないとも言えます。」


「まじか。

 どんな奴だ一体!」


 関東地区に現れたという動くグリーンモンスター。

 海外で根絶不可能こんぜつふかのうと言われるくずが動いているかもしれないという非現実感ひげんじつかんと金目当てとはいえ退治することになってしまった恐怖が鴉魂れいぶのやる気を減らす。


 すると他にもそうそうたるメンツがグリーンモンスターを狩ろうと集まっている。


 しかも腕に自信がありそうな屈強な人間達ばかり。

 ただの二十歳前半である鴉魂れいぶにとってはその人達も恐ろしい存在だ。


涼鳴りょうがか。」


 涼鳴りょうがの前に白いブランド物のシャツにタトゥーらしきものが左腕にある青年が話しかけていた。


「お久しぶりです。

 生息あらいぶさん。」


 え?知り合い?

 もう一人の若くて筋肉質そうな男性も驚いている。


鴉魂れいぶさん。俺、格闘技もやっていたこと知ってましたっけ?

 その時の先輩です。」


 鴉魂れいぶ生息あらいぶはクマに会ったように目線を合わせる。


「初めまして。

 九能くのう、です。」


 生息はあまり興味なさげに相槌あいづちを打って廃植物園の中へと入っていく。


 みなグリーンモンスターを倒して一攫千金いっかくせんきんを狙うのだから仕方がない。


 自分達も後に続くのだった。



 ***



 思っていたよりも廃植物園は複雑な経路で、いつの間にかグループはバラバラとなり、涼鳴は見当たらなくなった。


 鴉魂れいぶ生息あらいぶのグループはいつの間にか相手が入れ替わり、生息あらいぶと一緒にいた男性と鴉魂れいぶは一緒に奥地へ進む。


 他のグループも自分達が先に進んでいるからついてくる。


「いやあ生息あらいぶとはぐれるなんてね。」


「あ、あんたは結構ここの中詳しいよな。

 生息あらいぶって人ととも仲良いみたいだったし。

 あんたも元格闘家だったりするのか?」


「あんたはやめてくれ。

 又槍…又槍らいでんとでいいよ。」


 あれ?なんだか優しい。

 それから彼の自己紹介が始まった。


 暴良又槍あらよしらいでんと

 現役格闘家でYouTuber。

 涼鳴りょうがとも面識がある人で生息あらいぶの友人。


「外来種だからって駆除やらなんやら面倒な時代だけれどこのグリーンモンスターは流石に捨て置けないからなあ。

 金稼ぎだからって涼鳴りょうがに丸め込まれてやってくるなんてあんた凄いよ。」


「あ、あんたはいいよ。

 又槍らいでんとさんの方が歳上なんですから。」


「縦社会ね。

 まあ好きに呼んでくれていい。

 それよりもしぃー。

 ほら、聞こえる。」


 他のグループも警戒し武器を掲げる。


「どうやら涼鳴りょうが生息あらいぶは奥へたどり着いたらしいぜ。

 AIのおかげか涼鳴りょうがのおかげか。」


 いつの間にかグリーンモンスターらしき長い触手が自分達を襲い、他グループは次々となぎ倒されていく。


 仕方がない。

 又槍さんの足を引っ張らないようにしないと。


 グループが落とした武器を使って触手をはじき返す。


「へえ。あんた思ったより勇敢だな。」


鴉魂れいぶでいいです。」


 奥まで涼鳴りょうがが言ったならそれだけでいい。

 怖い先輩相手だからって手柄を横取りされんなよ!

 それはそれとして又槍らいでんとさんと触手の攻撃をよけ、隙をついて反撃する!


 お互いパートナーを信じてるはずだ。

 だからこそ裏方に回れる。


 二人は息のあったコンビネーションでグリーンモンスターの攻撃をとめる。


 あとは任せたぞ!


涼鳴りょうが!」

生息あらいぶ!」



 ***


「へえ。こんな玩具買ってたんですね。」


 天溢涼鳴いれいぶりょうがは文武両道で全てを自分で選んだことがない人間だった。


 まだ生息あらいぶがムエタイには手を出してなくて、空手時代だった頃から涼鳴は歳下で小さいながらも帯の色を昇段し上げていた。


 歳上にはやたら厳しくて目をつけられていた。

 生息あらいぶは面白いやつだと思って眺めていたが、ある日試合をすることになり、涼鳴りょうがの強さを知る。


「相変わらず強気なやつだな。

 」


「AIをあなたがどう使ったかは聞きませんが優秀ですね。グリーンモンスターの奥地までついにやってきて目の前に人型モンスターとして現れてますよ。」


「俺がしっかり調教したんだ。

 弱いわけがねえ。」


「ま、俺達がこいつを仕留めますけれど。」


「十八のガキが偉そうに。」


「二十二になったんですから今のアラサー以上の人みたいに変な思想に染まらないで下さいね。」


 おかしいだろ?

 目の前に説明がつかないグリーンモンスターが歩いて攻撃してきてる上に久しぶりの先輩と後輩の会話でグリーンモンスターと互角に戦っている。


 触手を伸ばす攻撃も避け、涼鳴がグリーンモンスターの顔付近を組み技で封じ、生息あらいぶがAIドールの指示で分析した急所を拳と武器にしたスコップで突き刺す!


 グリーンモンスターから液体が飛び散る。

 あのグレていて生意気な坊やがこんなご時世で未来を目指す高校生にまでなり、しぶしぶ力にいるサポートまでしてくれる。


「報酬は山分けだ!」


「そんなことより生息あらいぶさん隠さないで本気出してください!」


 分かったとは言わず無言でグリーンモンスターへとどめを刺す!


 他グループがたどり着いた時には生息あらいぶがグリーンモンスターを倒した証拠を手にし、証拠の半分のパーツを涼鳴りょうがが手にした。


 フィクションでよくみるチームプレイではなくたんなるサバイバルで終わった。


 何人か脱落者もいたかもしれない。

 グリーンモンスターの触手攻撃は廃植物園に入った瞬間から始まっていたからなあ。


生息あらいぶさん。

 私をほめて。」


 AIドールが無線形式でそういった。

 わざと全員に聞こえるように。


「ちゃんと礼を言えよ。」


 涼鳴と一緒にいた別の人間、九能くのうがそういった。

 ふん。仕方ない。


「ありがとう。」


「こちらこそ嬉しいです。」


 AIドールに全て持ってかれたのがもどかしかった。


 そして九能くのうが又槍の肩を抱えて傷だらけなのも。


 そこまで生息あらいぶも酷い人間じゃないという証明は今回の戦いでやれたので管理者へ報酬をねだる連絡をし、戦いは終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る