第29話 埠頭
○埠頭
今日は週も真ん中で平日のため、商店街を歩く人の流れはまばらだった。
「坊やたち?」
「なんだあ〜、店長?」
「今日は暇だからさ、あなたたちデートでもして来なさいな」
「て、店長・・・」
明美は俯く。
「おっ、ちょうどいいじゃんか〜、明美〜?」
「な、なにがですか・・・?」
「一緒に服を買いに行こうぜ?」
「お、覚えててくれたんですか?児珠さん・・・」
「当たり前だろう?忘れるわけないじゃん」
児珠は言う。
「じゃあ〜、決まりだね〜?」
「おう。店長、店番よろしくなあ〜」
「ちょ、ちょっと・・・。児珠さ〜ん」
明美は美柑に頭を下げつつ店を出て行く。
「ウフフフ。頑張ってね、明美ちゃん・・・」
美柑は微笑む。
「児珠さ〜ん」
明美は児珠の後を追う。
「おせ〜ぞ、明美〜。ダッシュだ、ダッシュ〜」
児珠は駆け足の手振りを見せる。
「ま、待って下さ〜い」
明美は、急足で行く。
「ゆっくり来いよな、明美〜」
「ぜえっ・・・はあっ・・・。お、お待たせしました・・・」
「待ってねえよ、ぜ〜んぜん」
児珠は笑いながら明美に言う。
「それで?店は商店街の中でいいのか?」
「えっ?あっ。はい・・・」
「何だよ?他に行きたいところがあるのかよ?」
「もしも良ければですが・・・」
「ん?何だよ?」
明美は、デート・スポットにもなっている埠頭のガレージ街を提案する。
「へえ〜。いま港にそんなところがあるのかあ〜。いいぜ、俺も行って見たいな」
「本当ですか?児珠さん」
「ああ、俺も興味ある」
「良かったあ〜」
明美は嬉しそうに胸を撫で下ろす。
「それってバスで行くのか?電車か?」
「バスで行ける筈ですから」
「そうか。了解。じゃあ、行こうぜ?」
「はいっ♪」
明美は声を弾ませた。
明美は埠頭に向かうバスの停留所まで児珠を案内するとバスの時刻表を見る。
「もうすぐ来るみたいですね〜」
「お前、楽しそうだな?」
「こういうお出かけって楽しくないですか?」
「俺は、いつでも楽しいぞ?」
「えっ・・・?」
「明美と居れば、どんな時でも楽しくなるって言ってんの」
「こ、児珠さん・・・」
明美は赤面する。
「何だよ?明美は違ったのかよ?」
「ち、違うと言うか・・・」
「言うか?」
(き、緊張して・・・余裕が無いです・・・)
明美は顔を逸らした。
児珠は明美の様子をそっとしておくと、自身は窓から外を見始める。
(穏やかだな・・・街は・・・)
児珠は平穏な街並みに飽きずにずっと外を眺める。
(児珠さん・・・。こう言うのって、いいなあ〜)
明美は児珠の横顔に見惚れる。
(そう言えば・・・。わ、わたしは、まだ児珠さんに想いを伝えられて居ないのかもしれないし・・・)
明美は児珠を見つめる。
(ちゃんと伝えたいな・・・)
明美は背もたれに寄りかかると目を閉じた。
*
”ブッブーッ・・・プッシャアー・・・”
バスは児珠たちを埠頭のバス停に降ろすと向きを変えて走り去る。
「はあ〜。つい寝ちまったなあ・・・。ふあ〜あ」
児珠はあくびをしながら言う。
「児珠さん」
明美は後ろから声を掛ける。
「おう。バスに忘れ物とか無いよな?」
「はい。児珠さんも?」
「お、俺?俺は大丈夫」
「そうですか?」
「ああ」
児珠は答える。
「おっし。じゃあ、行こうぜ」
「はい♪」
児珠は明美に手を差し出す。
「児珠さん・・・?」
明美は不思議そうに児珠を見つめる。
「お前、すぐに迷子になるだろう?」
「ま、迷子になんて・・・。な、なりません・・・」
明美は、出そうとした手を引っ込める。
「そうかなあ・・・」
児珠は明美の顔を下から覗き込むと、明美の手を握った。
「ほら。行くぞ」
「は、はい」
明美は頷くと児珠に手を引かれて歩き始めた。
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