第24話 ダンス・ダンス・ダンス
○ダンス・ダンス・ダンス
「じゃあなあ〜、児珠〜」
正樹と明美は片付けを終えると荷物を抱えて家路に着いた。
「そろそろ僕もお暇するよ」
圭一は児珠に言う。
「お前まですまなかったな。圭一さん」
「ハハハ。もう君には何度も助けてもらって居るんだ。僕の方が年上だろうけど、圭一で良いさ」
「分かった。じゃあ、よろしくな圭一」
「そうだね。児珠くん」
圭一は笑う。
児珠は静かになった教会堂の庭で背伸びをする。
「ふああ〜」
児珠は夜空を見上げると瞬く星たちを見つめた。
(キラキラ光る〜♪・・・)
児珠はメロディーを口ずさむと教会堂の中へと入る。
児珠は祭壇の前に立った。膝を床に着くと祈りを始める。
(お〜い、神のじいさ〜ん)
児珠は心を通して話しかけた。
「なんじゃ〜い?児珠?」
「やあ、じいさん。いつもありがとうな」
「何じゃいコヤツ。気味が悪いぞい」
”フォッフォッフォッ”
神は笑う。
「なあ?じいさん?」
「何じゃ?児珠」
「明美の奴、どうするのかな?」
「一人暮らしのことかの?それとも二人で暮らすことか?」
「明美の気持ちが知りたいよなあ・・・」
「ワシはお前の気持ちが知りたいぞい?児珠よ。フォッフォッフォッ」
神は笑う。
「俺は、明美を一人にしたくは無い。それだけさ」
「ふむ。じゃあ、ワシはこうするとしよう」
「何だよ、じいさん?」
「お前さん、ここを出て行きなさい」
「はあっ!?何でだよ〜?」
「何で?とな?それを聞くのか?」
「だって、俺が居なくなったらさ、誰がじいさんに祈りを捧げるんだよ?実際、じいさんが困るだろうが・・・」
「フォッフォッフォッ。天使たちが居るわい」
「て、天使たちって・・・。人間じゃ無いし・・・」
児珠は苦笑いする。
「祈りはお前さんだけのものでは無いぞよ。児珠よ」
「そりゃあ〜、そうだけどさあ・・・」
児珠は渋る。
「なあに。簡単なことだよ。児珠?」
「何がだよ?じいさん?」
「お前たちが美柑ちゃんの八百屋で暮らせば良いのじゃよ」
「はあ〜?何言ってるんだよ?じいさん」
「美柑ちゃんがここに来てくれたら、ワシは毎日がウハウハだぞい」
”グフフフフ・・・”
神は神らしくも無い下品な笑い声を漏らす。
(おいおい・・・。じいさん・・・)
児珠はため息を吐いた。
「はあ〜」
「どうじゃい?児珠?気持ちは定まったかい?」
「あ・・・。う、うん・・・」
「何じゃい?歯切れが悪いぞい?」
「い、いやあ・・・。一応、ばあさんの意見も聞こうと思ってさ・・・」
「美柑ちゃんなら間違いなくOKじゃよ〜♪」
神はニマニマと笑う。
(う、う〜ん・・・)
児珠は頭を抱えた。
*
明る日の昼休憩に児珠は美柑に切り出した。
「な、なあ・・・。店長・・・?」
「何だい?坊やは?悩み事かい?」
「悩みと言えば、悩みかもだな・・・」
児珠は明美をチラリと見やる。
「何だい?坊やは。まだ明美ちゃんと上手く行って居ないのかい?」
「て、店長・・・?」
明美は顔を赤くする。
「何だか煮え切らない二人だねえ〜。あんた達は・・・。私なんてダーリンと・・・」
美柑が話し出すと児珠はそれを遮る。
「それ、それ、それだよ、ばあさん」
「何だい?坊やは?急に”ばあさん”呼びかい?フフフ」
美柑は笑う。
「ああ。ごめん。店長。ついな・・・」
「それで、話って何だい?」
「み、美柑さん?」
児珠は正座をして姿勢を正して言う。
「何だい?」
「俺の代わりに神に祈りを捧げて貰えませんか?」
「教会堂でかい?ダーリンに?」
「は、はい・・・」
美柑はしばらく沈黙の様子を見せる。
児珠は緊張して”ゴクリッ”と唾を飲み込んだ。
「やあ〜だあ〜。坊やったら〜。乙女を揶揄うんじゃ無いのよ〜」
”バシバシ”っと美柑は児珠を叩く。
「い、痛いなあ・・・」
児珠は、腕を摩りながら苦笑いする。
「祈りどころか、毎朝、毎晩、愛を捧げちゃうわよ〜。ダ〜リン〜♪」
美柑は上機嫌になって踊り出す。
(ば、ばあさん・・・。すっかり桃色だなあ・・・)
児珠は呆気に取られて口を開けたままになる。
「坊や?」
「は、はいっ?」
「話はいいからさ。もう、今日から坊やはここに住んじゃいなさいよ。ねえ?」
「ええーっ!?マ、マジっすか・・・?」
「ええ、そりゃあ〜もう、マジですよ〜。坊やが言い出したことですからね〜」
美柑はウキウキで言う。
「明美ちゃん?」
「は、はい?て、店長・・・?」
明美は急に呼ばれて呆然とする。
「明美ちゃんもここに住みなさいな。坊やと二人でねん?」
美柑は明美にウィンクをする。
(で、でも・・・)
明美は突然の提案にしどろもどろになる。
「待てって、店長〜」
児珠は美柑に泣きついた。
「なあ〜に〜?坊やは〜?男らしくも無い」
「俺はともかく明美の奴は、女だし・・・。いきなり今日はマズイんじゃねえのか・・・?」
「そうなのかい?明美ちゃん?」
「えっ?は、はい・・・」
明美は可笑しな答え方になってしまう。
「初美ちゃんには私から言っておいてあげるから、ね?」
「う、う〜ん・・・」
明美は迷いがちに言う。
「さあ、そうと決まったら、荷造り、荷造り〜♪」
美柑は80歳を過ぎた”ばあさん”とは思えない機敏さで荷物をまとめに奥へと下がった。
「お〜い、明美〜?」
「は、はい・・・。児珠さん・・・?」
「どうするんだよ?お前は?」
「わ、わたしは・・・」
明美は実際のところを考えてみる。
(確かにわたしが八百屋に住めば、お姉ちゃん達はあの家を売ることが出来て金銭的にも、気持ち的にも楽にはなるわよねえ・・・)
明美は、天井を見上げた。
「無理しなくていいんだぞ、明美・・・」
児珠は言う。
「兄様は、嫌では無いのですか?」
「何が?」
「そ、その・・・」
明美は下を向いて言う。
「わ、わたしと暮らすことです・・・」
「お前が一人にならないなら俺は何でも良いぞ」
「そ、そうでしょうか・・・?」
「何が言いたいんだよ?」
児珠は不思議そうに明美の顔を覗き見る。
(あ、兄様は、女性と暮らすことに慣れているのでしょうか・・・?)
明美は児珠を見つめる。
「もしかして、お前・・・?」
「は、はい・・・?」
「俺に襲われるとでも思ってる訳〜?」
「えっ!」
明美は驚いて顔を赤らめる。
「ばあ〜か。そんなことあるかよ〜」
児珠はケタケタと笑う。
「こ、児珠さん・・・」
明美は拗ねたように言う。
”ガタッ。ガタガタンッ”
座敷の奥から大きな風呂敷包みを持った美柑が姿を現した。
「よいしょ〜っ」
美柑は荷物を床に下ろした。
「はあ〜。重たかった〜」
美柑は腰骨を伸ばす動きをする。
「これかよ?荷物って・・・。持てないだろう・・・?どう考えても・・・?」
「坊やが運んでくれるのさ〜」
「えーっ?お、俺〜?」
児珠は泣きべそをかくように言う。
「何だい?坊やは〜。ここにタダで住まわせてあげるんだから、引越しくらい手伝いなさいな〜?」
「て、手伝わないなんて一言も・・・」
「ウフフ。ありがとうね。坊や」
”チュッ”
美柑は児珠の頬にキスをする。
(う、う・・・ん。俺、フクザツ・・・)
児珠は手の甲でキスを拭った。
*
児珠たちは明美に店番を任せて教会堂へと荷物を移動する。
「ぜえっ。はあっ」
「坊や〜、ファイト〜」
「ぜえっ。はあっ」
美柑はゆっくりと児珠の後を歩いて行く。
「児珠さ〜ん」
天使たちが近づいて来る。
「お〜い。お前たち〜」
児珠は天使たちを呼び止めた。
「あら〜?ハンサムさんたち〜」
美柑もご機嫌で答える。
「お久しゅうございます。マダム」
天使たちは紳士な様子で挨拶をする。
「どうしたんだよ?何か用か?」
「いいえ〜、他でも有りません・・・」
「ああ、じいさんの使いかあ〜?」
「そう言うことですよ。児珠さん」
「じゃあ、残りはよろしく頼むな・・・。よいしょっと〜」
児珠は荷物を通りに下ろした。
「児珠さんは、お店に戻って頂いて構いませんよ」
「そうか。じゃあ、後は頼むな」
「坊や。ありがとうね〜」
「ああ、ばあさんもありがとうな。面倒なことを頼んじまってさ」
「ウフフ。面倒だなんて〜」
美柑はルンルンで言う。
(大丈夫かなあ・・・。天界は・・・)
児珠は見えない世界にある天界に想いを寄せる。
天使たちは軽々と荷物を持ち上げると美柑の手を引いて歩き出した。
*
天界では、神の愛が溢れて桃色に変わって居た。
「天界が桃色に色づくと下界では花が季節外れに咲き乱れるとか・・・乱れないとか・・・」
天界の天使たちが言う。
「そればかりではありますまい・・・」
「天界が桃色に色づくと下界では豊作続きになるとか・・・、ならないとか・・・」
天界の天使たちは口々に言う。
「う〜ん・・・。いまのところ実害は無いようですし・・・」
天界の天使たちは神の様子を見ながらコソコソと話し合う。
「はあ〜♪愛しのマイ・ハニー♪」
神は、喜びのダンスを踊り続けた。
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