第12話 舞
○舞
「ここはどこだろう・・・?」
明美は意識が戻ったかと思うと目の前に不思議な光景を見る。
そこには男女の子供がそれぞれに何かの舞を舞っている。
「そこは違う。やり直し」
一人一人の子どもにそれぞれに指導者が付いているようだった。
男の子には中年くらいの男性が。女の子には青年のような男性が付いて居た。
明美は男の子の様子を見て居た。
「そこは、こうだ。飛和。もう一度」
「はい」
飛和と呼ばれた男の子が舞を舞うと光が煌めき弾む。舞が正しく踊られると光が動き出すようだった。
明美は、その様子に見惚れる。
「るな。そこは、違う」
すぐそばで踊る女の子にも青年から声がかかった。
「はい・・・」
女の子は男の子よりも少しだけまだ幼いようだった。
「るな。飛和の代わりがいつでも務められるようにとお前は訓練しているんだ」
「はい・・・」
「小さなお前にはまだ難しいかもしれんが・・・。頑張れるか?」
「はい」
るなと呼ばれた女の子は健気に頷く。
「兄様。るなが代わりを務めることが無くて済むように私が務めます」
「飛和の気持ちはよく分かる。だが、万が一ということもある。残酷なようだが必要なことなんだ。わかるよな?」
「はい・・・」
「この舞は水中で出来てこその完成なのだ。飛和もまだまだこれからだぞ」
「はい。父様」
「辛い役目だが二人とも頼む」
「はい」
「はい・・・」
その男女の子供たちは、休む暇もなく舞を続けて居た。
明美は、その男の子が舞う姿に何かの遠い記憶を重ねる。
(何だったかしら・・・)
(そ、そうだ・・・。確か夢の中でわたしは誰かと結ばれるはずだった・・・)
明美はそこまでを思い出すと、急速に現代へと意識を引き戻した。
*
「おい!明美?」
児珠は明美の顔を覗き込む。
「うっ・・・」
明美は、うっすらと目を開けた。
「気付いたみたいです!店長」
「明美ちゃん?」
店長の顔が覗き込んで来る。
「て、店長・・・?」
明美は眩しさにまだ慣れない目で美柑の姿を捉える。
「大丈夫かい?私が分かる?」
「は、はい。店長です」
「うんうん。そうかい。良かった」
美柑は明美の額を撫でた。
「はあ〜。良かった〜」
児珠は手足を投げ出して喜ぶ。
「急に意識を失うからさ、何事かと思うじゃん」
児珠は明美を覗き込んで笑う。
「ご、ごめんなさい・・・」
明美は顔を赤らめて言う。
「いや、いいって。いま、救急車を呼ぼうか迷ってたんだ」
「えっ・・・」
「でもねえ〜。ハンサムたちが言うには大丈夫って言うからね」
「て、天使さんたちがですか・・・?」
「ええ、そうです。明美さん」
「お前ら急に出て来るなって」
「すみません。児珠さん。つい・・・」
「まあ、無事で良かったよ。明美ちゃんは、こういうことが良くあるのかい?」
美柑が聞く。
「う・・・・ん・・・・」
明美は答えに困るようだった。
「ち、小さい頃にはよく有ったかもですね・・・」
明美は言う。
「そうなのかい。じゃあ、今日は、長らく久しぶりってことなんだね?」
「はい・・・」
「急にどうしたんだよ?明美?今日に限って・・・」
明美はきっかけとなったことを思い出そうとする。
(た、確か・・・。児珠さんの真剣な眼差しを見て・・・)
明美は、児珠を見つめる。
「ん?何だ?俺に何か用か?」
「よ、用ではないのですが・・・」
「ん?」
「い、いいえ・・・。別に・・・」
「なんだよ?明美?お前、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です・・・。多分・・・」
明美は、何かフラッシュバックしたことを思い出そうとして混乱する。
「今日はお家に帰って休むかい?明美ちゃん?」
美柑が言う。
「おう。それも手だぞ。明美。お前、実は疲れているんじゃ無いのか?」
「い、いいえ・・・」
明美は首を横に振る。
「無理しなくて良いんだぞ。手は足りてるんだしな」
天使たちはニッコリと微笑む。
「は、働きたいんです・・・。わ、わたし・・・」
「明美ちゃんがそう言うなら私は構わないよ」
美柑が言う。
「まあ、俺も別に良いけどさ。無理だけはするなよな」
「は、はい・・・」
明美は起き上がりながら答えた。
明美はそれからというもの、逐一、児珠の姿を目で追った。
(何だろう・・・。この気持ち・・・。何かどこかで・・・)
児珠は時折、明美の視線に気づいて、和かに笑う。
「へへへ〜」
午前中の店番が終わると美柑が二人を昼休憩に呼んでくれた。
「どうだい?明美ちゃん。調子は?変わりはないかい?」
「はい。いつも通りです」
「そうかい。いつもの明美ちゃんなら心配ないね」
「良かったなあ〜。明美」
「ごめんなさい・・・。二人とも」
「謝るなって。別に何も悪いことなんてしていないんだからさ」
児珠は笑う。
「午後はどうするね?続けるかい?」
「はい。続けたいです」
「そうかい。じゃあ、頼むね」
「大丈夫だって。店長。俺が居るし」
「ホホホ。頼もしいねえ〜。坊や」
「また坊やかよ〜。店長〜」
「ホホホ」
店長は笑う。
明美は、なぜだか急に”舞”について聞きたくなった。
「あ、あの。児珠さん?」
「おう。なんだ?明美?」
「児珠さんって、舞はお好きですか?」
「舞って、あれだろ?巫女さんとかが神社でやってるやつとか?」
「は、はい・・・。そういうのですけど・・・」
「う〜ん・・・。好きか嫌いかって言われたら、俺、男だしなあ・・・」
児珠は明美を見つめる。
「巫女姿にはグッと来るぞ。俺」
児珠はニヤニヤと笑って見せる。
「こら!坊や。罰当たりなことを言うて」
美柑が児珠の頭を小突いた。
「へへへ。男のロマンってやつ?」
「スケベじゃのう、お主」
「へへへ」
明美は、思い切って言う。
「こ、今度、一緒に神社に行きませんか?巫女さんの舞を見に・・・」
「えっ?わざわざ?」
「は、はい・・・。ダメでしょうか?」
「いや、いいけどさ。明美ってそう言う趣味があるのか?」
「い、いえ・・・。べ、別に・・・。そ、そう言う訳では・・・」
「じゃあ、なんで?」
「な、なんでって・・・」
明美は児珠の顔を見つめる。児珠は”?”という表情で明美を見つめて来る。
「そのなぜかを知りたくて・・・」
「はあ・・・?」
児珠は首を傾げる。
「坊や、連れて行っておやりよ」
「い、行かねえとは言ってないし・・・俺」
「じゃあ、決まりだね」
「て、店長が決めるんだ・・・。こえ〜」
児珠は美柑のプッシュ力に呆れた。
*
結局、児珠は、美柑の許しを得て、”舞”を見ることができる神社に行くことになった。
「店番も天使さんたちに丸投げをしてしまって・・・」
「いいんじゃね?あいつら他にやること無かったみたいだし」
「そ、そうでしょうか・・・?」
「多分な」
児珠は無責任に言い放つ。
バスを乗り継いでたどり着いた神社は山の中腹にあった。
そこは、奥の院には洞窟があると言う。
”トン・トン・トン・・・・・”
”ピ〜ッヒョロロ〜♪ヒョ〜♪ピ〜ッ♪ピ〜ッヒョロ〜♪”
境内に鼓と笛の音が響いて来る。
「ちょうどいまから始まるのかな?」
「児珠さん。行ってみましょう?」
「おう」
明美は積極的に児珠の手を引いた。
拝殿にたどり着くと巫女たちの舞はすでに始まって居た。
そこには巫女が二人居て、二人で舞を見せて居た。
「明美はこれが見たかったのか?」
「え?」
「だから、舞ってこの舞が見たかったのか?」
「えっと・・・」
明美は、正確には舞が見たかったのではなく、児珠と一緒に見たかっただけだった。けれども、それを明美は児珠に上手く伝えることが出来なかった。
「まあ、いいさ。明美が見たいならさ」
明美はそう答える児珠の横顔をじっと見つめる。
(なんだろう?この感じ・・・?)
明美は拝殿に舞う巫女たちと児珠の姿を交互に見る。
(なんだか引っかかる・・・)
明美は境内に響くもう一つの微かな音に耳を澄ませた。
”サラサラサラ・・・”
(なんだろう・・・?この音・・・?)
明美は、しばらくしてそれが水が流れる音だと気づく。
「こ、児珠さん・・・?」
明美は言う。
「ん?どうした?明美」
「水の音がしませんか?」
「水?」
児珠は境内に耳を澄ませた。
”サラサラサラ・・・”
「ああ。確かに聞こえるな」
児珠は頷く。
「水音を追って行ってみませんか?」
「水音をか?」
「はい」
明美は大きく頷いた。
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