第5話

「あれ、青じゃん」

「ん?」

 いつもの散歩の途中で、青が声をかけられて足を止めた。

「おお、みどりちゃん。奇遇やな」

 みどり。青の友人の1人だ。いろいろと青に迷惑をかけられているはずなのに、根気よく一緒にいる、稀有けうな性格の持ち主だ。

「なにして……、ってぽちの散歩か」

 そう言って、みどりは、しゃがんで俺をでる。

 よしよし、良い撫で方だ。

「ぽち。気持ち良さそうやな。……、みどりちゃん。私も撫でるか?」

 なんでだよ。

「なんでさ」

 ツッコミが被った。俺と一緒で、苦労しているようだ。

「そういや、私は、ぽちの散歩中やけど、みどりちゃんは何してたん?」

「私? バイトの帰りだよ」

 そんな他愛のない会話をしながら、散歩をした。

 その途中のことだった。

「ねぇ、なんで青って、関西弁なの?」

「へ? なんでって……、関西出身だからやけど」

「でも、青の家族は、そこまで関西なまり強くないよね?」

 訛りか。犬にもあるんだろうか。俺は、関西とやらに住んだことがないから、よく分からないな。

「そうなんやけど……。これは、海よりも深い理由があるんや」

 絶対に浅い理由だ。

 青がこういう事言うと、たいていしょぼいことは、予想がつく。

 みどりは、神妙しんみょうな面持ちになる。無駄な決意だから、もっと気楽にしていいぞ。

「私な? 小学生の頃に関西からこっちに引っ越して来たんや」

「うん」

「友達出来るか、不安でいっぱいだったんや。んで、初めての登校日や。関西弁であいさつしたら……、人気者になった。関西弁ってだけでな」

「……………………え? まさか、それから人気者になれるかもしれないから、ずっと関西弁?」

 神妙な面持ちで、青は、頷いた。

「……、理由浅っ。海じゃなくて水たまりじゃん」

 な? 俺の思った通りだろ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る