5 remember

 それぞれに武器を構えて走ってきて体育館に隠れた二人は息を荒げている。

先生「すみません、ぼくのせい、ですね」

スパイ「気にするな」

 手に抱えたメッセージの袋を見つめる。

スパイ「どのみち、目標は達成した」

先生「これが、手渡されたら……」

スパイ「あの学生を苦しめた連中は終わりだ。あの事態も、いつかきっと……」

先生「そうは思えません、もっとひどいことに……」

 スパイは首を振る。

スパイ「だから、君は彼女をそのままにしたのか?」

 そして固まる先生を見つめて、スパイは言う。

スパイ「被害者を増やすわけにはいかない」

先生「じゃあ……加害者になった人は、切り捨てられるしかないんですか」


 そのとき、体育館の扉が開かれ、大勢がなだれ込んでくる。ふたりは急いで逃げ出すが、目の前には突然学生が銃を構えて立っている。

学生「動かないで、先生たち」

 やがてスパイと先生を取り囲まれる。学生は銃を置き、奇妙なスイッチを取り出す。

学生「動けば、ここごと凍結する」

スパイ「そして警察行き、か……」

 スパイは手に持っていた竹刀とメッセージの袋を床に置き、手をあげる。

学生「先生が学生のスマホみるなんて……失望した。ふたりはいい先生だって、いい大人なんだって、思ってたのに……」

 先生も銃を床に置く。だが手をあげることはしない。学生は先生に銃を向ける。

学生「ねえ、手を挙げて、先生」

先生「その、思い出して、もらいたくて……」

 そうして、先生は手に突如として持たれたCDを、学生に差し出す。

 驚く学生に、先生は訊ねる。

先生「大事なもの、でしょ……」

 学生は我に返って首を振り、口を硬く結びながら、

学生「私は、もう、こんなものなんか……」

先生「彼らよりも?」

 驚いた学生は、先生をじっとみつめる。先生はじっと見つめ返す。

 やがて学生は、スイッチを手から落とす。

 すると、周囲にいた人々も倒れていく。そして人々は消え、体育館には3人だけになった。そして、学生はCDを受け取る。そして、座り込む。

学生「私、どうすれば……」

 学生はCDを大事そうに抱きしめる。先生が学生とおなじ目線になるよう、腰を下ろす。

先生「僕には、まだわからないけど……」

 彼は笑う。

先生「まだ、終わりじゃないよ」

 驚いていた学生は、嬉しそうにほほえんで、CDを抱きしめている。

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