第9話:アイドルになりませんか?

土曜日の駅前は人でごった返していた。


「げげ、待ち合わせ場所もうちょっと静かな場所のほうがよかったんじゃないか?」


駅の入り口の左側に掲示板、そこが生太いくたとの待ち合わせの場所だった。

レイラの前を行き過ぎる男どもの視線がグサグサ刺さって痛かった。

みんながレイラを二度見して行った。


(くそったれ、いちいち見るんじゃねえわ・・・)

(やらしい目で視姦しやがって)


まあ、レイラは自分じゃあまりよく分かってないみたいだけど、男が振り向か

ざるを得ないくらいのいい女ってことなんだろう。

たしかに礼はレイラになってからどんどん綺麗になってきていた。

もともと背も高いし、たぶん今なら5姉妹の中で一番綺麗だろう。


掲示板の前には、レイラとあとふたりほど女子がレイラと同じように立っていた。

彼女たちも彼氏と待ち合わせなのかな?って思ってたら、ひとりのおニイさんが

近ずいて来て声をかけて来た。


「あの・・・お時間よろしいですか?」


「え?・・・待ち合わせしてるんでナンパなんかしても無駄ですよ」


「いえ、ナンパとかじゃなくて私、芸能事務所のものです」


そう言ってお兄さんは名刺を出した。

名刺には「ピュア・カレッジプロジェクト」って書いてあった。


「アイドルになりたくないですか?」


「そんなものになりたくないです・・・まったく興味ないんで・・・」

「待ってる人が来るんで、他、あたってくれます?」

(あっち行け、ボケ)


「そうですか?・・・それだけのビジュアル持ってたらイケると思うんだけどな」


「だからいいですって・・・」


「絶対、イケますって・・・ね?考えてくれないかな?」


「しつこい!!ボケ、カス」

「アイドルになんかなるつもりもないし、そんなヒマね〜っつううの・・・」

「邪魔、邪魔・・・あまりしつこいとケツの穴から指突っ込んで奥歯ガタガタ

言わすぞ!!セクハラ男」


「ど、どうも・・・失礼」


おニイちゃんは、レイラのクチの悪さに目を丸くしてその場から退散した。


「誰がアイドルなんか・・・」


「お待たせ」


「ん?・・・おう、ナマタ」

「ナマタ、来るの遅い〜!!」

「おかげで変なニイちゃんに、からまれちゃったし・・・」


「え?時間通りだけど・・・」


「お、マジだね・・・ごめん、ごめん」


「誰、変なおニイちゃんて?」


「芸能事務所の人・・・アイドルにならないかって・・・」


「へ〜・・・まあ鴨志田さん、スカウトされても不思議じゃないよね・・・」


「ナマタまで・・・アイドルになんか興味ないよ」

「それより、ここ早く離れよう」


「あの、その前にハグしたいんだけど・・・いい?ハグしても」


「え?こんな人通りの多いところで?」


「僕は平気だけど・・・ダメかな?」


「ダメじゃないけど・・・今なの?今じゃないといけない?」


レイラがごちゃごちゃ言ってるスキに生太はレイラを抱きしめた。


「おおお、おい!!」


「暖ったかい・・・いい匂いもするし・・・」


(ああ、それは瑞穂姉ちゃんの匂いだよ)


生太はレイラを抱きしめたまま言った。


「あのさ僕、今朝は朝食食べずに来たんだ・・・鴨志田さんは?」


「私は腹一杯食べて来た・・・けど、いいよ付き合うよ」


「じゃ〜駅向こうのレストランまで歩こうか」


「ナマタ・・・体の調子どう?」


「うん、とくに今んところ大丈夫みたいだけど、こういう病気って、いよいよって

なったら一気に悪化してくんだろうな」


「治してあげられたらね」


「心配かけてごめんね、そう思ってくれる気持ちだけで嬉しい・・・って言うか

鴨志田さんが一緒にいてくれるだけで僕は精神的に救われてるんだよ」


「私さ、まだナマタのことなにも知らないでしょ?」

「いろいろ教えて?・・・家族のこととか」


「家族?・・・お父さんにお母さん、それに僕の三人、兄弟や姉妹はいなくて

で、お父さんは一流企業のCEO・・・お母さんは主婦」


「へ〜すごいね・・・」

「って言うか、もしかしてだけどナマタのお父さんの経営する会社ってあの有名な

為末総合商社?とか?」


「鴨志田さん正解」


「うそ〜ナマタんちって、それってお金持ちって言うか富裕層じゃん」

「雲の上に人だね」

「そか・・・貧困層のうちとはかけ離れてるからちょっと引いちゃうな」


昔で言うなら貧富の差ってことだろう。


つづく。


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