ベランダの音

天川裕司

ベランダの音

タイトル:(仮)ベランダの音


▼登場人物

●音名椎菜(おとな しいな):女性。25歳。独身OL。

●岡本佳代子(おかもと かよこ):女性。30歳。バツイチ。精神異常。

●川島俊哉(かわしま しゅんや):男性。31歳。サラリーマン。

●尾花栄子(おばな えいこ):女性。26歳。椎菜の友人。占い師。


▼場所設定

●社宅:一般的なイメージでOKです。ベランダ付き。

●岡本宅:子供の遊び道具が沢山置いてあるイメージで。

●街中:どれも一般的なイメージでお願いします。


NAは音名椎菜でよろしくお願いいたします。

場所設定は挿絵のイメージでお願いします。

(イントロ+メインシナリオ+解説:ト書き・記号含む=3701字)



イントロ〜


皆さんこんにちは。

ところで皆さんは普段、街中でどんな音を聴いていますか?

足音、車のクラクション、工事現場の音など、

少し街を歩けばいろんな音が聞こえてきますよね。

今回は、その「音」にまつわる意味怖エピソード。



メインシナリオ〜


ト書き〈社宅の部屋に1人〉


私の名前は音名椎菜。

今年25歳になる独身OL。


私が今住んでいるのは社宅。

でも1人暮らしと言うのは何かと不安が募るもの。


ある夜、1人部屋にいた時。


椎菜「ん、なんだろ…?」


何か…カツン…カツン…と言う音が

ベランダから聞こえる気がする。


この社宅のベランダは、行こうと思えば、

自分の部屋のベランダから隣の部屋のベランダへ

行く事ができてしまう。


ベランダから外へ身を乗り出し、手すりをつたっていけば、

子供でも隣のベランダへ行けてしまう。

腕力のある男の人ならなおさら簡単だ。


この社宅は4階建てで私の住んでるのは2階。


椎菜「誰もいないわよねぇ…」


気のせいだ。


ト書き〈部屋の物が盗まれる〉


そんなある日の事だった。


椎菜「あれ?無い!無いわ!どこ行っちゃったのよ?」


部屋の物が無くなっていた。

少し前、友達からプレゼントされた限定商品。

頭にリボンを付けたクマのヌイグルミだ。


椎菜「あんなおっきなモノ、無くなる筈ないのに…」


ベッドの上に置いてあったあの大きなクマのヌイグルミ。

もちろん私は最近ずっとそのヌイグルミを触っていなかった。

だから無くなる筈がない。


この日から、私の心にまた大きな不安が宿り始めた。


ト書き〈右隣の岡本宅〉


数日後。今日は仕事が休み。

お昼頃、お隣の岡本さんからお茶に呼ばれた。


椎菜「この紅茶おいしいですね」


岡本「そう?沢山あるからお代わりしてね♪」


岡本さんはバツイチ。

旦那に先立たれ、娘も亡くしていた。

2人とも事故。


話題は何となくその話になった。


岡本「本当に寂しいわ」


やっぱりそんな話を聞くと、

こっちも気分が沈んでしまう。


でもふと部屋の中を見回した時…


椎菜「(あれ…?)」


部屋の隅にあのクマのヌイグルミが置いてある。

しかも頭にはあの大きなリボンが。


椎菜「あの、岡本さん?あのヌイグルミは?」


岡本「え?…あーあれ?あれはね、娘がヌイグルミ好きでね、特にクマのヌイグルミが好きだったから、この前お店で買ってきたのよ」


亡くなった娘さんの事が忘れられず買ってきたらしい。


でもおかしい。


あの赤いリボンはおそらく…

いや間違いなく私が付けたリボン。

リボンの端に黒いシミが付いてるから間違いない。


それにこのヌイグルミは限定商品だから

もう売ってる筈がない。


椎菜「(うそでしょ…)」


そう思い始めた瞬間、恐怖が湧いた。

改めて部屋の中を見回すと、

娘さんの私物がそのまま置かれてある。


それがなんだか、

今の岡本さんの心理状態を表しているようにも思えてきた。

つまり精神異常…?


「いやいやそんな事ある筈ない…!」


とにかく私は気を持ち直し取り乱さず

適当に切り上げて部屋へ戻った。


ト書き〈左隣のお隣さん〉


また数日後。

今度は左隣のお隣さんの宅へ呼ばれた。

彼の名前は川島さん。


川島さんはとても律儀で誠実で、

優しい上に紳士的な人だった。


川島「最近仕事が忙しくてね、家に帰る暇もないんですよ。あ、コーヒーで良いですか?」


椎菜「ええ、お構いなく♪」


彼と喋ってると楽しい。

いろんなジョークで笑わせてくれる。


最近ちょっと落ち込んでるから、

彼と会って少しでも気分を明るくしようと思ったんだ。


川島「うーん、何にもねぇなぁ〜。何かおつまみになるモン探してみたんだけど何にも無いみたいで。ちょっとコンビニ行って買ってきましょうかね?」


椎菜「あ、それじゃ私何か作りましょうか?」


私は冷蔵庫のあり合わせのもので

何か料理を作ってあげようとした。


川島「え?いいんですか?すいませんね」


椎菜「いえいえ♪私こう見えても料理は得意ですから」


と思ってふと包丁を見た時…


椎菜「(え…なにこれ…)」


包丁が赤い。

刃の部分が赤く錆びたようになっている。


川島「あ、すいませんそれ、昨日トマト切ってたんで多分そのせいだと思います。すぐ洗いますから」


そう言って私からサッと包丁を取った川島さんは

その場で包丁をゴシゴシ洗い始めた。


また妙な気分。

「トマトでそんな風にならないだろ…」


とりあえずそれから少し談笑し、美味しい物を食べて帰ってきた。


ト書き〈数日後〉


また数日後。

ここ界隈で連続殺人事件が起きていた。


椎菜「ホント犯人早く捕まらないかしら」


でもこの時ふと又、あの時川島さんの家で見た

包丁の事を思い出してしまった。


椎菜「まさか…いやそんな事ないわよ」


事もあろうか、私はあの包丁に付いた赤みを

血だと思い始めたのだ。


「もしかして川島さんが犯人?」

そう思いつつ、

やっぱりそんな馬鹿な事ある筈ないと打ち消した。


ト書き〈占い師〉


でも不安が消えない。

それから数日後。

私はつい占い師をしてる友人の所へ行った。


彼女は心理カウンセラーもしていて、

いろいろ悩み事を相談できると思ったからだ。


椎菜「ねぇ栄子、何か今の私に役立つ占いとか出来ない?何かアドバイスでもいいんだけど」


栄子「わかった、じゃあやってみるわ」


そして占いの結果が出たようで、

彼女はその意味を私に伝えた。


栄子「…街の音、いや、自転車の警音器の音…鈴の音…その音を字で表現する事が出来れば犯人は判るわ…。でも判ったとしても、きっと、限界があるだろう…」


椎菜「え…」


よく解らなかったが、占いはそこまで。

あとは自分で考えて答えを導き出さなきゃならない。


ト書き〈数日後〉


それから数日後。

信じられない事が起きた。


なんとお隣のあの岡本さんが、

私の部屋に侵入していた犯人だったのだ。

あのクマのヌイグルミはやはり私のヌイグルミ。

理由はやはり、娘さんの為に盗んだとか。


私が会社へ行ってる時に家に入ったんだろう。


あとから聞いた話だが、

やはり彼女は精神異常をきたしていたらしい。


椎菜「まさかあの人が犯人だったなんて…」


私は恐怖が急に身近に来たような気がして、

また怖くなった。


ト書き〈数日後の夜〉


それから更に数日後の夜。

私のもとについに恐怖が訪れた。


その日、私はあの栄子から教えて貰った占いの内容を、

ずっと考えていた。


椎菜「自転車の警音器の音を字で表現できたら犯人が判る?…って一体どういう意味なんだろ。それに『限界があるだろう』って一体何のこと?」


よくよく考えてみると、いろいろ解らない。


音は耳で聞くもの。

音や絵を字で表す事なんて普通出来ない。


考えれば考える程、こんがらがっちゃった。


その時…カツン…カツン…(ベランダの音)


またベランダの方から何か音が聞こえた。


椎菜「え…?ま、また…?」


最近聞こえてこなかったから

もう忘れようとしていたあの音。

それがその夜、またはっきりと、

クリアに聞こえてきたのだ。


そしてまたそーっとベランダの方へ近づき、

カーテンを開けて見たところ、

ドア越しに人影のようなものが静かに立っていた。



解説〜


はい、いかがでしたか?

では簡単に解説します。


今回、注目すべき点は「音」です。

そしてその音を字で表現すればどうなるか?

これがサブヒントになっていました。


占い師の栄子は…


「自転車の警音器の音…鈴の音…その音を字で表現する事が出来れば犯人は判るわ…。でも判ったとしても、きっと、限界があるだろう…」


と言います。


警音器の音と鈴の音は同じに見て構いません。

つまり「リン、リン♪」と言う音です。


その「リン、リン」の「リン」の字を

例えば漢字に当てはめてみると、

「隣(りん)」つまり「お隣」の意味が出てきます。


もちろん他の漢字も想定できますが、

この場合で言えば「お隣さん」の意味が1番的確…と言う事でした。


お隣さんが犯人、

つまり椎菜の部屋の隣に住んでいた岡本が犯人、

と言う事になります。

岡本はその通りに捕まりました。


でも栄子は同時に、

「でも判ったとしても、きっと、限界があるだろう…」

とも言っていました。

これはどういう意味なのか?


これはたとえ犯人が分かっても、

「その犯人による危険を回避できないだろう」

と言う事。


つまり1人の犯人が捕まってももう1人犯人がいる…

そのもう1人の犯人による危険から逃れる事は出来ないだろう…


と言う意味でした。


そのもう1人の犯人と言うのが川島の事。

ラストの場面で、

椎菜の部屋のベランダ越しに立っていた人影は川島でした。


更に椎菜が住んでいる社宅界隈を騒がせていた

あの殺人犯と言うのも実は川島だったのです。


おそらくベランダに立っていたその人影は、

懐にあの包丁を忍ばせていた事でしょう。


「トマトの赤身」なんて言ってたあの赤色は、

文字通りに血の色でした。

川島は平気で嘘をついていた訳です。


つまり今回は、右隣の犯人、そして左隣の犯人と、

犯人が2人いた事になります。


でもこんなの、幾ら占いを聞いたからと言って、

「リン」が「隣(となり)」の音読みの「リン」だなんて、

当てずっぽうと言うか曖昧と言うか、

解る人にしか解りませんよね。


結果オーライの占いそのものに、

栄子があの時言った「限界」があったのかもしれません。


さて、このあと椎菜はどうなったのか?

「危険を回避できない」って事は…


なんとか無事に逃げ切れたら良いのですが。


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=a6sH0RAChOQ&t=63s

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ベランダの音 天川裕司 @tenkawayuji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ