「下ネタ直喩噺」

ぜっぴん

「下ネタ直喩噺」

 おお、お前久しぶりだな。

 随分顔が変わっちまったなおい。

 まあ俺はなんら変わりゃしねえからよ。お前と違って家庭もないしよ。

 どうした、こんな、ブティックを練り歩いて。

 ええ? 妻に土産を? もう買った?

 あんだよお前上機嫌によ。

 なんだなんだよ、そうさっさと帰ろうとするなせっかく再会したんだから語ろうじゃねえかよ。

 いやいやそんな長いこと話さないって。

 まあまあ…


 ─椅子に座る 


 込み入った話をしようよ。込み入った話をよ。

 ほら久しぶりにあったし、で、どうなのあっちの方は。

 なに? 下ねた嫌い? あんだよいっばしの男が何を言ってんだよ。

 いいよ。じゃああまり直接には言わないように下ネタの話しよう。


 …あの、どうなの、性行為のほうは。

 うん? 下ネタ嫌い? 直接的だ?

 いや難しいな、ちょっともう一回から聞いて、いくよ


 …あの、あれほら、最近どうなってんの、金玉の使用量は。

 何? 下ネタ嫌い? 違う話にして欲しい?


 …あれだな、あの、チン毛の方はどうしてんだ。

 え? 下ネタ嫌い? せめて遠回しにしろ?

 あんだよ、生意気に言うに事欠いてよ。

 遠回しでしょ、陰毛とかは? だめ? 生食器周りの毛の事だよ? ちりっちりの。あそれが直接的?


 じゃああれは、あの…肛門の周りの方はどうしてんの?

 あだめ? 下ネタ嫌い、むしろ深ぼってる?

 いい加減きしょい?


 何なんだよ、遠回しにだろ、そうだな…


 …あれだよ、あの、ガーデニングの方どうしてる?


 あ丁度いい!? おおおっけおっけ。

 じゃあちょっと聞かして。


 うん、うん、うわ、あああれだ。手つかずだ。ああもう鬱蒼としてて。あああちこちに。はあ、外来種の如く。うん、困り果ててる。うん、あ、セイタカアワダチソウ。ああもともと日本にはいなかったけど、あもう来るやいなや繁殖しまくったくせに、ほっとくと勝手に全滅する。うん?、あ生態がきしょすぎる。ああ、はあそっかそっか。


 そうか、そんな事になってんのね。はあ、

 ていうか、あれだね。あんな帰ろうとしてたのに今やもうゆっくり話しちゃってるね。ゆっくり、陰毛の話してるもんね。

 ああ遠回しにね。おっけおっけ。


 あ俺の方を聞かせろと。なるほどね。まあかわんないとは思うんだけどね。

 俺の方が鬱蒼としてるかな。うん、もう原生林。自然保護区だね。

 説明して見せてほしい?

 説明…つったらもう直接的に言うことになると思うけど、

 遠回しに? そうか。そうだな…


 ─咳払いをしながら座り直して向き直る


 えー、古今東西老いも若きも、男性の体にはどうにも欠かせない要素として、まるで相棒のようなもんが体についております。

 かくいう私も生まれてこの方付き合い続けて、早々四捨五入でもう四半世紀が回る頃でございましょう。

 ちっちゃな頃のそれといえばさながらバニラアイスを塗ったような白く透き通った肌に枝豆がひっついた様なもんでしたが、今といえば殆ど真っ黒い芋が生えてるようなもんです、それがまた妙に誉れみたいもんでして、不思議と芋としてよりいかついほうが本人としては嬉しいもんなんですね。

 かくいう私のもんというのは、先程も言った通りで、もう、原生林なんですな。それが奥へ奥へと雑木林が続いてるんです。

 雑木林に踏み入り、茂みを分け入って4、5時間ほど進んでみますと、

 ぶち当たるのは、見上げんばかりの大男の彫像が如く、荘厳なエンマの後ろ姿がさながらといったたたずまい。

 突如立ち込める匂いは、けものを腐したような、それでいてなにか青臭い匂い。

 この「青臭い」が示す意味とは、生い茂る草木花々の雨ざらしか、思春期の童貞の青臭さなのかは、果たして検討がつかぬのがとどのつまり。

 活き活きとした葉をたたえ、その丈夫な幹でもって堂々そそりたつは、一重にわたくしの外国人の血による所の、いわば土壌の恵みといったところか。

 さながら齢千年、屋久島は縄文杉の出迎えでございます。

 その土壌の上、ここへ太陽の光をさんさんと浴びせてみれば、私の縄文杉はたちまち鮮やかな朱色の花を丸い輪郭の内一杯に咲かせる。するとみてくれがまさに大きなキノコを見上げているようだ、だのと見たものは皆口々に言ってくれんですね。

 生命力を瑞々しくその幹へ蓄え、強く大地へ根を張りますから、故にこの杉、前へ横へ揺らすごときにはまるでびくとも致しません。

 しかし、ただ一つとしてこの杉を枯らす方法があるのです。それは、たったの片手を使うのみ。

 1781年、産業革命の父というべきかの偉人、ジェームズ・ワットが開発致しましたところにあられる、ピストンの上下運動により強い回転運動を作り出す技術は、ご存じの通り目覚しい発展の歴史へと大きな一歩を踏み込む事となりましたが、奇しくも激しい上下運動といえば我々にも心当たりのある話でございます、果たしてこの一致が偶然が否かは、もはや誰にも分かりません。

 さてまずは縄文杉の横っ腹に軽く手を掛けささっとしごいて三こすり半。

 するってーと瞬く間、大地を唸らせるほどの痙攣を伴いながら朱色の葉っぱははらはらと散って落ちていく、続いて 頂点からかぁーっと入道雲が上がったかと思いきやすぐに空へ飛んで行き、あたり一面に真っ白な雪を降らせたら最後、

 屋久島の「一本杉」が「しだれやなぎ」へと姿を変えるという寸法でございます。


 というのが俺のもんの紹介だがお前さんはどんなもんだい。


 ─もうひとりもやり始める


「てやんでいべらぼうめ、さっき答えた通りだろうがべらぼうめ、だまって聴いてりゃ悦に浸りやがって、てめえのもんと世界遺産をいっしょにするんじゃねえよ」


「そんなこと言っててめえがわけのわからねえ説明をさせるもんだから俺も必死に言葉選んだんだろうがちくしょうがてめえ」


「てやんでい、てやんでいべらぼうめてめえ。怒った。俺はもう帰るぞ」


「おいおいまてまてまてまて、てめえ人が帰るなって言ってんのにそう簡単につけ離すんじゃねえよ。さっきてめえもゆっくり話そうとしてたじゃねえか」


「さっきと今じゃ話がちげえんだよ」


「どう話が違うってんだよ」


「そらてめえ決まってんだろ。てめえが「杉が柳に変わる」なんて話をするもんだから、俺の「気が変わっちまった」んだよ」


 ─正面を向き直す


 ご存じ、「しだれやなぎ」の一席でございます…

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「下ネタ直喩噺」 ぜっぴん @zebu20

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