第11話上手に焼けました~!
翌日。
朝の陽光が淡く街を照らす中、レナードとアナスタシアは旅立ちの準備を整えていた。
レナードは装備を新調し鋼の剣を腰に携え甲冑を身に着けその上からローブを羽織った。
アナスタシアはアンクのネックレスを握りしめ、戦いの予感に心を引き締めていた。
穢れ山への道のりは容易ものではない。
レナードは周辺の地図をテーブルに広げた。
ハルヴィナから北へ向かう山道は岩がごつごつと転がり、急な斜面が続く。
旅の途中で馬の足元を慎重に選ばなければならず、その道程は疲労を伴うものになるだろう。
馬に乗って二日間の旅が必要であり、その間に数々の試練が待ち受けていることは明白だった。
「そして...そう、ここだ」
レナードが指示した森を見てアナスタシアが口を開いた。
「ナヌークウッドの森...古い精霊たちの住まう森ですね...」
「ああ。迷わぬようにしなければ...精霊を刺激すればどんな目にあうかわからん」
レナード達は決意を新たにして、宿屋を後にした。
ハルヴィナの北側の
「我も一緒に行かせてくだされ、レナード殿!」
衛兵隊長ラインハルトが力強く言った。
その顔には決意が滲んでいた。
レナードは一瞬考え込んだが、すぐに首を横に振った。
「ラインハルト、君の気持ちはありがたい。しかし、万が一のことがあれば、この都市を守る者が必要だ。防衛の指揮をとってほしい...それは君にしかできないことだ。頼めるか?」
ラインハルトは渋々とした表情で頷いた。
「ううむ...そう言われては引き下がるしかない...。しかし、必ず無事に戻ってきてくだされ!我らの守護者である貴殿が戻らねば、この都市の未来は暗いのです」
レナードは微笑み、ラインハルトの肩に手を置いた。
「心配するな、必ず戻る。そして、君の力がこの都市を守ると信じているぞ」
ラインハルトは深く息を吸い込み、レナードとアナスタシアを見つめた。
「ご武運を...。真なる神のご加護がありますように」
レナードは頷き、アナスタシアも静かに礼をした。
背後にラインハルトの祈りを感じながら、街を後にした。
彼らの前には穢れ山への険しい道のりが広がっていた。
...
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ハルヴィナを出発してから数時間が経過した頃、レナードとアナスタシアは険しい山道を進んでいた。
周囲には高くそびえる木々が茂り、その静けさが不気味な雰囲気を醸し出していた。
突如、木々の間から巨大な影が現れた。
「気をつけてください!」
アナスタシアが警告の声をあげる。
その声に応えるように、巨大な熊のモンスター【ガオル】が轟音と共に姿を現した。
ガオルは鋭い爪を振りかざし、唸り声を上げながら二人に襲いかかった。
その目は血のように赤く、獰猛な獣の本能が露わになっていた。
「ガオルか...!」
レナードは馬を飛び降り瞬時に剣を抜き、ガオルの攻撃をかわしつつ反撃の準備を整えた。
彼の剣が光を反射し、一閃の元にガオルの前足を切り裂いた。
ガオルは怒りに満ちた咆哮を上げ、再び攻撃を仕掛けてきたが、アナスタシアの魔法の光がその動きを封じた。
レナードは全力を込めて剣を振り下ろし、ガオルの胸を貫いた。
巨大な獣は苦しみの中で倒れ、その動きが止まった。
「今夜の夕食はガオル焼きかな...?」
レナードがいたずらっ子のような笑みをアナスタシアに向けると、
彼女は若干引いたような表情を浮かべていた。
「うっ...これを食すのですね....。これも試練でしょうか...?」
「あんまり脂はなく筋肉質だが栄養満点だぞ。全部は無理だがいくらか肉を切っていこう」
「恵みに感謝します神よ...そしてこの獣が安らかに眠らんことを...」
...
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その日の夕方、二人は安全な場所を見つけて野営を張った。
レナードはガオルの肉を慎重に切り分け、焚き火で焼き始めた。
香ばしい匂いが漂い、疲れた体に心地よい刺激を与えた。
「おいしそうな匂いがしてきます...!」
「はは、そうだろう。よくこうやって野営をするときはモンスターの肉も料理したものさ。日持ちする食料ばかりではないからな...」
「そういえば、ぶどう酒がありましたね!」
「ああ、確か...」
レナードが荷物袋から水筒を取り出すと、不意にそれを開け飲んでみた。
「ああっ...!何を...」
―――ん?これは酒じゃない...ただのぶどうの果汁を水で薄めたものだぞ?
「もしかして昨日飲んでいたものも、これか?」
「はい...お酒が、そう、あまり得意ではなくて...」
「そうか...」
「うっ!...嘘は良くないですね。実は悪酔いをしてしまうのです...」
「悪酔い...?」
「えーっと...その、はしたなく乱れてしまうのです....」
「はは、なんだそんなことか。ここには誰もお前を見定めるものはいない。どれ...」
そう言うとレナードは少しだけエールをぶどう汁にまぜてみた。
そしてそれを彼女に渡した。
「うう、どうなっても私は知りませんからね...」
彼女はゴクゴクとそれを飲んだ。
「どうだ?」
「...エールをぶどう汁にいれるのはあまり、合わないですね...」
それを聞いてレナードは笑った。
アナスタシアはそれでも飲み干してしまった。
焚き火の炎が揺れる中、二人はガオルの肉を楽しんだ。
噛みごたえのある肉は、疲れた体にエネルギーをもたらし、その味は格別だった。
周囲の静寂と焚き火の温もりが、二人の心を癒してくれた。
「もう、ナヌークウッドの森は間近ですね...」
アナスタシアが焚き火を眺めながら呟いた。
「そうだな、ひとまず順調といったところか...」
夜が更け、星がきらめく空の下、二人は互いの温もりを求めて寄り添った。
すると突然アナスタシアがレナードを押し倒し馬乗りになった。
しかもその姿はデーモンロードへと変貌を遂げており、紅い瞳を輝かせていた。
「ど、どうした!?」
「んふふ....レナード様がいけないのですよ...今宵は寝かせません...」
そう言うと彼女は蛇のように長くなった舌でレナードの耳をなめまわした。
「―――!!」
――なるほど、これが悪酔いということか。
ならば受けてたつしかないな!
野営地の静寂に包まれ、人目を気にすることなく二人は愛情を深め合った。
やがて静寂はアナスタシアの獣の如き声で打ち破られることとなった。
焚き火の光が微かに二人を照らし、情熱的な抱擁と共に互いの存在を感じた―――
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