第3話大罪聖女
大罪人だといわんばかりに
通りがかった商人らしき男にレナードは尋ねてみることにした。
「なあ、あの修道女はいったいどうしたというんだ?」
「ん?あんた旅のひとかい?あれは大罪聖女のアナスタシアだよ」
「聖女なのか!?」
―――聖女。
それは人族が崇拝する女神フィリアの代弁者であり、救済者。
清らかなる心をもって、
それが...磔にされているだと!?
「なんでも、魔族の子供をかばったとかでな。散々異端審問官に痛めつけられてたよ」
「いい女だったのになぁ~あんなボロボロになっちまって」
「聖女は正教会の絶対的存在ではないのか...?」
「魔族のガキなんぞかばう奴は清くもないだろう...実際抵抗したわけだし」
「ひたすら防御の結界をはってガキを守ってたが勇者様ご一行が現れてさ」
「勇者がここにきたというのか?!」
「ああ...それで結界も消し飛ばした後はガキを目の前で惨殺!聖女は勇者さまに散々殴られてあのザマってわけだなあ...聖女だからかさすがに犯されなかったらしいが」
...狂っている。人族が...いや、"ここまで"おかしかったか!?
待て待て...なんだ?なにか変だ...。
まるでこの商人を含めて倫理観が著しく欠如してしまっている...。
「もうじき死ぬだろうが、体拝むんならいまのうちだぜ!それじゃあな旅の人」
商人はそう言うと去っていった。
レナードは教会の門をくぐると、聖女の下まで歩み寄った。
「...おい、生きているか?」
「...........どちらさま、でしょうか....」
「申し訳ありません...目が、みえませんので....」
レナードは聖女の顔をみると戦慄した。
彼女の両目はどちらとも潰されていたのだ。
美しい金髪だったであろう髪は血でどす黒くなっており、
唇は裂け、顔面の至る所が
「...あの、もし...私の願いをきいてくださるのであれば...」
「醜い体ではございますが...好きにしていただいて構いません...」
「子供たちを...どうか、埋葬してはいただけないでしょうか...」
「子供たち...それは魔族の子のことか?」
「はい...あの子たちに罪はありません...どうか...魂が迷わぬように...」
辺りを見回すと、教会の外壁にまるでゴミ捨て場かのように子供達の遺体があった。
手脚はちぎられ、子供の顔は絶望のまま最期を迎えていた。
「ぐっ...う....ぐうぅ...」
レナードは胃の内容物を吐き出した。
―――これが、正教会の教えか...!?
何と...むごい事か....この感情を表す言葉など魔族の言葉にはない....!
レナードは自分を奮い立たせ、近くにあったスコップを掴むと穴を掘り始めた。
子供達...5人分の穴を掘り、そこに子供たちの遺体をいれ土をかぶせた。
そして聖女の下へと戻り埋葬したことを報告した。
「あぁ...ありがとうございます...名も知れぬ心優しき御方...」
「あなた様にフィリア様のご加護が...あらんことを...」
「馬鹿な...自分をこんな目に、子供をあんな目にあわせたのはその女神だぞ!」
「そんな奴の加護などいらん!」
「...!?あ、あなた様は...もしかして...魔族...ですか...」
「わかるのか...?」
「魔力の流れで...はい。そして...あなたはとても優しい方ですね...」
「俺は優しくなどない...」
「ではどうして...泣かれているのですか...」
聖女にそういわれ、俺は自分の瞳から滴が垂れていることに気づいた。
「辛い...思いをなされたのですね。でも...人は....悪い人ばかりではありません...」
「だから...お願いです...人を憎まないで...」
―――これが聖女なのか。
自分がここまでの残虐な行いをされてもなお、折れぬとは...。
「それはできぬ。俺は、何よりも自分自身を憎む!!」
「神が赦そうとも俺は赦さぬ...!この命が灰となるまで戦い続ける!!」
「なんて...悲痛な叫び...」
教会の門が開き、何人かの兵士たちが現れた。
そしてその兵士たちは魔族と人の子を連れてきていた。
「ん...?教会の使用人か?ご苦労なことだな」
「今からこいつらを処分するんで、そしたら死体を埋めておいてくれ」
「な、処分...だと?!」
「ああ。魔族のガキはもちろんだが、この人族の子供も親がいらんとさ」
首輪をつけられた子供たちは泣きじゃくり、そのたびに兵士に殴られていた。
その声をきいた聖女が声を振り絞るかのようにして叫んだ。
「あぁ...!お願いです...!!どうか、その子たちを見逃してあげて...」
「あ?黙れ、この薄汚い異端者め!お前の指図などうけるか!!」
そう言うと兵士は子供の一人を蹴り飛ばし、その首を跳ね飛ばした。
子供の首は勢いよく鎖で縛り付けられた聖女の体に当たった。
「うぐっ...そ...そんな....いやぁああ....!!」
聖女は泣き叫んだ。
それを見て兵士たちはゲラゲラと腹を抱えて笑っていた。
「はは!泣き叫ぶこいつをみていたら、ムラムラしてきやがったぜ」
「ゴミになる前に一発仕込んどくか?」
兵士たちはゲスな笑みを浮かべて聖女に近づいてくる。
レナードはこの状況をもはや看過することはできなかった。
兵士の前に立ちふさがろうとしたとき、聖女はレナードに頼みごとをしてきた。
「...さい。私を...殺して...もう....私は...」
「そんなことができるか!待っていろ、今...」
「いいのです...もう...私にはもう信仰心も...何もかも....ありません...」
「殺して...」
その時、心の奥底で響くような声が聞こえてきた。
―――彼女の胸を、剣で貫きなさい―――
...なんだと!?なぜ、そんなことを!!
俺に殺せというのか!!
―――いいえ、彼女は死にません―――
―――再臨するのです―――
...再臨だと...?
俺のように生き返るとでもいうのか?
―――時間がありません―――
―――さあ、突き刺しなさい―――
もはや聖女に生きる力も意思も残されてはいなかった。
レナードは意を決して剣を抜き、彼女の胸を刺した。
...くっ...これでいいのか...?
「がはっ...ありがとう...ござ...い......」
聖女はそれによってこと切れたようにガクっと首を垂らしてしまった。
兵士たちは驚き、レナードを責め立てた。
「お、おい!お前いまから楽しむって時になにしやがる!?」
...くそ!なにが再臨だ!!
ただ彼女を殺しただけではないか....!!
レナードが歯を食いしばり、自らの行いを悔やんでいると"それ"は起こった。
聖女の肉体はガタガタと揺れ始め、磔にしている鎖がガシャガシャと激しく音を立てる。
「ァ...ア....アアァアアアア"ア"ア"!!!!」
聖女が断末魔のような悲鳴をあげたかと思うと、
黒い翼が天より降り注ぎ彼女をつつみこんでいく。
まるで蝶が
「おおおい、なんだなんだ!?」
兵士たちは動揺して、緊急事態を鳴らせる警笛を吹いた。
それを聞いた兵士たちが続々と教会の敷地内へとやってくる。
聖女を包み込んだ黒い翼の塊が、グチュ...グチュという音を鳴らしたかと思えば、
パカっと卵が割れるかのように中が開いた。
現れたのは、蝋のように真っ白い肌をした聖女であった。
金髪だった神は真っ黒い髪となり、瞳は紅くなっていた。
15時を知らせる教会の鐘が鳴り響き、それはまるで生誕を祝うかのようであった。
「あぁ....
兵士の一人が叫ぶと各々が武器を構え、弓兵が一斉に聖女だったものに矢を射かける。
だがその矢は彼女には届かず全て地へと落ちていく。
「フフ....フフフフ....アハハハハハ!!!」
聖女は妖艶に笑うと、自らを縛り付けていた鎖が意思を持ったかのように兵士たちに襲い掛かる。
それは兵士たちの鉄鎧をいとも簡単に砕き、肉塊へと変えていった。
「
<<<
兵士たちの足元が黒い沼のようになり、そこから血まみれの赤子が出現し引きずり込んでいく。
その沼はどんどんと町中に広がっていき宴の準備をしていた町人たちをも呑みこんでいく。
町中から断末魔の悲鳴があがっていく。
「あぁ...
聖女は詠唱もなしに浮遊の魔法を常に発動させていた。
そんなことができる存在はこの世界では見たことがない。
呆気に取られているレナードに聖女は近寄り、巻いていたターバンを外した。
「ええ...やはり...キレイな黒髪ですね...」
「お前は...さきほどの聖女か...?」
「もちろんです...名はアナスタシアといいます...彼らには...」
聖女は赤子たちに抱えられ黒い沼に消えていく兵士たちを見た。
「大罪聖女などと...言われておりました。お姿がみれて、嬉しいです騎士様」
「...その姿は、もはや魔族だな...それにしても異質ではあるが」
「私は生まれ変わる際に聞きました...真なる神の啓示を...」
「それによれば魔族は本来いくつもの姿を持っていたのだそうです...そう...」
そう言うと聖女は背中から黒きドラゴンのような翼を生やし、
頭部からは漆黒の角が二本生えてきた。
「デーモンロード....と、いうのだそうです...美しい響きですね」
―――なんだそれは?まるで神話の悪魔ではないか!
もしや我ら魔族の
「騎士様も真なる神...ダハーカ様の祝福を受けられているご様子」
「共に参りましょう...この世界の
...
......
...........
こうして、【大罪聖女】アナスタシア/デーモンロードが仲間に加わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます