2日目 変わらない世間
この場所に来てから2日目。
『あの日』から変わらず動く気力は最低限の分しか、湧いてこなかった。
まだ日が浅いということで、お客様が来る間の接客……アルバイトとしての仕事は来なかった。
その間は2階の自室にいるが、どうも今の自分にとってはこれがとても心地良いものになっているらしい。
(どうしちゃったんだろう……でも)
きっと下に行けば、誰かしらの「笑顔」は見れてしまうだろう。
それを見てしまえばどうなるか、フラッシュバックするかもしれないし突然気を失う可能性だってある。
昔からそういった性格だった訳では無いが、人というのはここまで変わってしまうようだ。
(それにしても、静かだ)
最初は少し古い建物かと思っていたが、中は改装をしているらしく下の喫茶店の音は何も入って来ない。
音楽を鳴らしていない部屋は、雨の音意外は全て無音。
嫌いでは無いが、物足りなさもあった。
「テレビ……そういえば、あったな」
家主である
きちんとアンテナと繋がっており、リモコンで電源を付ければ今すぐ見れるとのこと。
何もしない自分に嫌気がさしたのか無意識で付けていた。
特に見たい番組がある訳では無いため、とりあえずで開いた番組を見ることにした。
テレビではMC、アナウンサー、芸能人やゲストの人。
『あの日』以前とほぼ変わらない状態で、内容が進んでいた。
……内容以外は。
『これまでピりついていた国々が、一斉に平和条約を結ぶ。これって、何かの偶然でしょうか?』
『そもそもとして、国としての限界が近かったのでしょう。自国での生産が厳しいだけでなく、各国からの非難も限界が来ていた。と考えるのが妥当でしょう』
『平和へと近づいたと考えると、良い傾向だと思いますね』
「偶然、か……」
きっとこの名前も知らない専門家らしき人が言う考えも、正解の一つであることは間違い無いのだろう。
そんな詳しい知識がある自分には、それに対抗する手段も説明も持っていない。
けど、自分だけが知っている唯一の事実を知っていた。
「違う、これは必然だった。だって、
恋人の……元恋人の優姫は、確かに『あの日』飛び下りて死んだ。
詳しい理由や原理は知らない。
死ぬ前に伝えてくれたのは、『私が死ぬことで、この世界は幸せになるの』ということだけだった。きっと自分がどうやっても変えられなかった未来。
「なんで、どうして……ぐすっ」
それは突然だったかもしれない。だが心当たりが無いかと聞かれたらノーと答える。
『幸せ』という単語は、呪いの言葉のように彼女を縛っていた。
常に『誰かの幸せ』を願う子が、自分の力では無く命を差し出した結果がこれである。
世界はあの日から、万人の幸せのために動いていった。
まずは大きなことに作用し、そこから小さな出来事を変えていく。
例えば、争っていた国々が突然戦争を辞めたり、今こうして安心できる場所を手に入れているように。
きっと誰にも気づかれずに少しずつ歪んでいき、その先のどこかで誰かが気付いても『幸せな世界』の前では、止めようにも止められない。
(そして、それを分かっていながら見ろ、と……)
この世界が地獄なのか、それとも優姫に出会った自分に与えられた罰なのか。
それとも誰よりも『幸せ』という曖昧で、とっても素敵なものを何者よりも欲した彼女に対する神様からのプレゼントか。
自殺を止めていなかったから、『世界は幸せになれた』。
なんだかそう言われている気がした自分は、外は明るいが再度寝ることにした。
君が死んで幸せになった世界 遅延式かめたろう @-Suzu-or-Sakusya-
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