第6話 下心ありで口説かれた
何とも無理難題だ。アーサはうーん、と律儀に悩む。
「このカフェテラスはダメなの?」
「一週間に五十個もオレンジタルトは出ないだろうよ。せいぜいが十個だ」
「じゃあ、パーティやランチミーティングで出すよう働きかける」
「一週間以内に大きなパーティはないし、ランチミーティングに出るような教師の数は限られている」
「この間の試食会みたいなのはだめなの?」
「あれは全部持ち出しだ。売ったわけじゃない、俺たちが買い取るのはなしだ」
アーサの矢継ぎ早の質問に、カルロとレヴィルスはしっかりと答える。そんな条件の中、どうやってオレンジタルトを五十個も学内で売るか——いつの間にか真剣に考えていたたアーサは、一つ案を出した。
「なら、
カルロとレヴィルスがぴくりと反応した。アーサはすぐに説明を始める。
「女子寮では個人のお茶会が毎日あるわ。そのお茶会で使うお菓子は、
その仕組みは男女の寮ではそれほど変わらないが、やはり女子学生のほうが毎日のお茶会を好む傾向にある。そういうときは、必ずお茶請けのお菓子やケーキが用意されなければならず、女子学生たちは持ち回りでお茶会担当を決めて、熟練の女性教師が兼任する
ともかく、
「一週間、お試し価格で卸すことを条件に、
アーサは得意げに人差し指を立てて見せる。別に計算が得意なわけではないが、品物がどこでどう消費されるのかを推測することなら、世界各地を巡って商人たちの動向を見てきた経験が活きる。
カルロは腕を組み、レヴィルスは手を叩く。
「八十点だな」
「及第点だね」
「何でそんなに偉そうなの」
二人揃って上から目線である。お眼鏡にはかなったようだが、アーサは不満だ。アーサは、遠慮して損したとばかりにぱくぱくオレンジタルトを口に放り込む。アザレア・アンド・マーガレッテのオレンジタルトに罪はない。早く食べてやらないといけないのだ。
それを待ってから、カルロとレヴィルスは席から立ち上がる。
「さて、
「私も行くの?」
「一緒に仕事をするのさ。僕たちの仕事ぶりを見てもらう、というのは信用に繋がるだろう?」
「だから、私はどう足掻いたってあなたたちより格下の家の人間なんだから、エドワルドのタッチェル伯爵家みたいに私の訴えなんて簡単に揉み消せるでしょ! そんな力関係があって、どうして使い捨てにされないと思えるのよ」
オレンジタルトを食べ切っておいて言うのも何だけど、とアーサはほんの少し後ろめたかったせいで目が泳いだ。
ただ、そんなことは関係なく、カルロとレヴィルスは平然とこう答えた。
「結婚したい女を使い捨てになんかするか」
「末長くお付き合いしたいからね」
まだ言うか。アーサは恥ずかしいやら何やら気持ちを押し込めて、必死に反論する。
「だからさ! 私が無能だったら全部ダメじゃない!」
「それはあり得ない。お前以上の逸材は俺たちの手の届く範囲にはいないと断言できるからな」
「僕たちはいくら家の後ろ盾があろうと、所詮は
二人は揃ってにっこり笑う。アーサは知っている、商人は仕入れ値が無料のものならいくらでも使うのだ。
ここまで褒められて、必要とされて、ついでに美味しいものを食べさせられて断ります、ということは、アーサにはできなかった。
「ずるい」
アーサはフォークを置き、先を行く二人の後ろをとぼとぼとくっついていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます