第3話

そして残ったのは七波と咲菜だけになった。


寝たフリしながら聞き耳してた私は、2人の会話を聞いていると、咲菜は泣き出す。


(……皆咲菜のこと励ましてるのに私は参加できなかった)


私はそーっと起き上がり、声をかける。


「あのー咲菜ちゃん」


と言っても目と耳も聞こえないから私のこと見えてないと思うけど……


「優しい香り……七波ちゃんかな?」


と少し嬉しそうな顔でこちらを見つめる。


「あ、うん、そうだよ」


「本当に七波ちゃんだよね? どうしたの?」


と微笑みながら言う。


「今日は咲菜ちゃんの誕生日だからみんなでお祝いしようと思って」


「……七波ちゃん、伝えたいことあるけど、ちょっと時間かかるかも」


「大丈夫、ゆっくりで良いよ」


私は微笑んで言った。


咲菜は窓の外を見て呟いた。


「少し、散歩したい」


「あ! 危ないから一緒に行こう」


私と咲菜は病院を出て、近くの公園に向かう。


咲菜はベンチに座り、空を眺めている。


「綺麗だね……」


「そうだね、でも咲菜ちゃんの方がもっと可愛いよ!」


「……」


どう答えればいいのか分からない咲菜は笑顔で下向く。


「――あっ」


目の前にボールが転がって来て私は子供達にボールを返した。


『ありがとう!お姉ちゃん!』


「いえいえ! お安い御用です!」


子供と話すの楽しいなぁと思いつつ、咲菜の方を見ると、咲菜が悲しそうにしていた。


肩を叩くと咲菜は私の方に向いた。一瞬の沈黙が走り、咲菜は口を開く。


「ごめんなさい、何でもないの」


「大丈夫? 咲菜ちゃん?」


私が聞くと、咲菜は下を向いてしまう。


「私、やっぱりここに居たら迷惑かけちゃうよね」


咲菜は涙を浮かべる。


「そんな事無いよ」


私は否定するが耳が聞こえず咲菜は泣き出した。すると後ろから足音が聞こえた。


「あー、咲菜を泣かしたー」


由紀だった。てか何も泣かすようなことはしてないんだけどな……


「咲菜はさ、皆のことが大好きなんだよね、なのになんでいつも1人で抱え込んじゃうかな」


由紀は咲菜の頭を撫でる。


「全く、そんなことで落ち込まないの」


由紀は咲菜の背中をさすりながら励ます。


「……ごめんなさい」


咲菜は申し訳なさそうな顔をし、手を握った。


私も手を握りたかったけど、どうにも勇気がなかった。


「咲菜、大丈夫だよ、私達は友達じゃん」


由紀は優しく笑いかける。


「……」


咲菜は黙ったまま涙を流した。


すると、ゲームマスターが姿を現す。


「やあやあ皆さんこんにちわ」


「……っ!?」


突然の出来事に驚く私達。


「まあまあお話でもしようじゃないか」


「あんたがゲームマスターね……」


由紀は怒りをあらわにするがここは堪えた。


「そうだっぴ、僕はこのゲームのゲームマスターだっぴ、それよりこの世界には君達のチームしか居ないと思ってるよね?」


「……どういう意味?」


冬華は疑問を口にする。


「僕が作り出した世界に他のプレイヤーを入れてあげたんだ、もちろん報酬付きだけどね」


「その報酬って……まさか」


「察しが良いねぇ、そうさ、MPだよ、今までのMP全てだ、つまり今の世界では君たちは僕のために働くっぴ」


「ふざけんなよ、 私達がどんな気持ちで生きて来たか知ってるのか」


由紀は怒りを抑え、苛立ちながら言う。しかしゲームマスターは気にせず喋る。


「そうだね、確かに酷い事をしてしまった、でもこれは上の者だからね、お詫びとしてアイスクリームの限定版、フルーツミックスクリームをプレゼントだッピ」


と、私達にアイスを渡した。


「いらねぇよこんなもん」


と、由紀は投げ捨てるが、ゲームマスターが拾う。


「食べないなら僕のものだね」


と言って食べた。そして、美味しそうな顔をしながら舌をペロっと出す。


「あぁ、美味しかったよ、さて、そろそろゲームを始めるか」


「待って、まだ話は終わってない!」


私はゲームマスターを止めようとするが、ゲームマスターは指を鳴らすとゲームの世界に飛ばされた。


「ここは……?」


辺りを見渡すと、一面砂漠が広がっていた。周りには砂しかない。


「なんなんだよこれ」


私は困惑していると、ゲームマスターが現れる。


「やぁ、ようこそ! 灼熱の世界へ!」


「はぁ?ここどこだよ」


由紀は怒りを露わにする。


「まあまあ、そんなに怒らないでよ、ほら、まだアイスあげるから」


と、由紀にアイスを渡す。すると、由紀は怒りを抑える為、アイスを舐めた。


「……うまいな」


由紀は落ち着いた様子で言った。すると、咲菜は口を開く。


「あの、ここはどこですか?」


「ここはね、僕の作った世界だよ」


「え?」


七波はその意味が理解できなかった由紀は七波の代わりに聞く。


「言葉通りの意味だよ、君達はもう帰れないんだよな?」


「……嘘ですよね?」


七波は信じられないといった顔をする。


「残念ながら本当だっぴ」


「そんな……」


七波は絶望したような顔を浮かべる。


すると、由紀はゲームマスターを睨みつける。


「お前の目的はなんだ」


「目的なんて無いよ、君達が魔法少女を契約したから手伝ってるだけだっぴ」


「はっ、笑わせんじゃねぇよ」


「そうだね、まあ僕も鬼じゃないしチャンスをあげようかな」


「……っ!?」


私達は驚き、警戒する。


「今から君達には他の最強チームと戦ってもらうっぴ」


「どういう事だ?」


「つまり殺し合いだっぴ」


私達はあまりの事に声が出なかった。


「……私達が負けたらどうなるんですか?」


私は震えながら質問する。


「もちろん君達が死ぬっぴ」


「そんなの無理です!私には戦う理由がありません!」


「なら仕方ないっぴね、君は消えるっぴ」


「待って!私だって戦えるよ!」


私はゲームマスターに向かって叫ぶ。しかしゲームマスターは冷たい視線を向ける。


「はぁ、君はこの世界のバグだから消す必要があるんだっぴ。そもそもサーバーと魔法少女には合わないからね」


「でも、私は皆を救わないといけないんだ!」


「その願いは叶えられないよ、それは僕達何万人の人の魔法少女が共通のこと言ってたけどね、結局は叶えられなくて消えていったよ」


「それでも、私は諦めたくない」


私は必死に訴えかける。すると、ゲームマスターはため息をつく。


「まぁ、頑張ってよ。それじゃあ僕は行くよ」


「待って!」


「あ、そうだっぴ、1つだけ言っておくね、君の能力は最悪な物を当てられたみたいだっぴ」


「……え?」


「じゃあね」


ゲームマスターは指を鳴らすと消えた。


「最悪の能力?」


私は疑問を口に出す。


「確かに変な奴だったな」


由紀はゲームマスターの事を思い出す。


「あの、私の能力ってなんですか?」


咲菜は不安そうに尋ねると由紀は答える。


「あー多分だけど、相手の能力をランダムで奪う的な感じだと思うぞ」


由紀は推測を言うと、由紀は続ける。


「あと、あいつ最後に私達の事をバグとか言ってたな」


「バグ?どういう意味でしょうか?」


私は首を傾げる。すると、由紀は口を開く。


「確か、プログラムに異常のあるデータのことだよ!パソコンで例えるとウイルスみたいなものかな?」


「なるほど」


私は納得した様子で言うと、由紀は気配を感じた。


「待て、何か来る」


由紀は七波を守るように構える。すると、黒い影が私達の前に姿を現した。その姿はまさに死神と呼ぶに相応しい姿であった。


「由紀……」


「わかっている」


由紀は剣を構える。


「よし、来い」


すると、敵はいきなり襲ってきた。


「はやっ」


由紀は敵の攻撃を間一髪避ける。


「……くそ、こいつは速いな」


由紀は呟きながら攻撃を避ける。しかし、避けきれず肩をかすってしまう。


「っ!?」


由紀は顔を歪める。


「大丈夫!?」


私は心配になり声をかける。すると、由紀は私を見て微笑む。


「ああ、これくらい平気だ」


由紀は傷を押さえながら言う。


「……ごめん」


七波は謝る。すると、由紀は気にするなと言う表情をする。


「それより、何処だ?敵の場所は?」


由紀は周りを見渡すが誰もいない。しかし、七波は気配を感じとり指を指す。


「上に何が居る!」


由紀はその方向を見ると上から敵が降りてきた。


「お前か」


由紀は敵を睨みつけると、敵も由紀達を見る。そして、武器を構えた。


「由紀さん!」


「大丈夫だ」


由紀は七波の呼びかけに応えると、敵に向かって走り出す。すると、敵も同時に動きだす。しかし、由紀の方が早く敵に近づき斬りかかるが、相手はそれを弾いた。


「なに!?」


由紀は自分の攻撃を防がれ驚く。


「由紀ちゃん! 一旦下がってください!」


由紀は後ろに飛び退くと、敵は由紀の方に向かって走る。


「危ない!!」


七波は叫ぶが、由紀は敵の攻撃を斧で受け止める。


「ぐぅ……」


はっきりとその姿を捕えた。研ぎすぎて眩しいくらいの刀。髪型は


、ぱっつんで軍服を着ていて、その軍服には赤い返り血がついている。顔立ちは幼さが残っていて中学生ぐらいだろうか?


「由紀ちゃん!! 離れて!!!」


七波の声に反応して由紀は後ろに下がると、敵はそのまま地面に突き刺さる。


「うぉっ……あぶねぇ」


由紀は冷や汗を流しながら呟く。


敵は起き上がり七波達を見る。


「由紀ちゃん!」


七波は由紀に声をかけるが、由紀は七波を安心させるように微笑む。


「大丈夫だ、心配するな」


由紀は七波にそう言うと、敵と向き合う。


お互い鋭い眼差で相手を見ている。


「……」


由紀は何かを考えていた。


(こいつの動き……確かに速いが、私の方が断然早い)


由紀はそう思うと、敵が先に動いて攻撃してくると思ったが刀をしまい構える。


「え?」


私は思わず声を出してしまう。由紀は不思議そうな顔をする。降参だろうか? いや、そんなわけがない、何かしらの罠を仕掛けてるかもしれない。由紀は警戒しながら様子を伺っていると、敵は口を開く。


「そなたはあやつの者か?」


敵は喋り始める。


「何を言っている?」


由紀は意味が分からず困惑している。


「うーん、確か名はラクスだったかな?」


「……」


由紀は無言のまま敵を見つめている。すると、敵は口を開く。


「やはり……貴様らか……」


「何がだよ」


由紀は苛立った表情で言う。


「……あやつを復讐せねばならぬんだ」


敵は低い声で呟く。


「もしかしてゴミ猫のことか?」


由紀は質問すると敵は驚いたような顔をする。


「知っておるのか!? よし! よし!来たー!!」


敵は嬉しそうに叫びだす。


「どうしたんだ……?」


由紀は迷惑そうな顔をしながら言うと、彼女は我に返り首を横に振る。


「おっと失礼、名を名乗らないとな、我が名は奥川 夜林と申す 。名は?」


「由紀」


由紀は短く答えると、夜林は微笑む。


「由紀殿か、良い名前だな」


「そりゃどーも」


由紀は呆れた表情をする。


「あちらの二人は?」


名前を聞かれ、私は元気に自己紹介をする。


「はい! 私は血矢七波です! 好きな食べ物はショートケーキで、趣味はゲームです! 特技は……」


「あー分かった分かった、この人は血矢七波」


由紀ちゃんが遮り代わりに名前を言うと、夜林さんは納得してるような感じになった。


「それでは皆様、どうぞお願いいたします」


夜林はそう言いながら刀を抜くと、由紀は斧を構える。


「ちょっと待って、何もしてないのに斧を構えないでくれ、刀の手入れをしたいだけだ」


由紀は武器を下げると、胸ポケットから布を取り出し、本当に刀の手入れをした。


由紀は夜林を見ながら思う。


全く理解できない……。


見た目は普通の女の子に見えるが、雰囲気が明らかに違う、いや凄まじいオーラが放ってる。


不審な行動を取ってないか警戒しながら様子を伺うが、特に変わったことはしていない。


だが油断はできない。咲菜と七波はいつでも動けるように身構えている。


由紀はどうやって倒そうか戦術を考えてた。


考えているうちに、夜林は由紀達に向かって歩き出す。


攻撃していいように斧を盾にする。


すると夜林は四角い正方形を手に差し出したのだ。


「角砂糖食べる?」


由紀達は唖然としていた。


夜林は不思議そうな顔をする。


由紀がやっと口を開いた。


「毒は入ってないか?」


由紀ちゃんが質問する。


「失礼なー、入っとらんよー」


「じゃあいただこうかな」


由紀は夜林が渡した角砂糖を食べる。


由紀は食べ終わると口を開く。


「上手いな」


由紀は感想を言うと、夜林は嬉しそうな顔をしながら微笑む。


「それは良かった。さて、由紀殿、仲間にもなったし、あやつを討伐するぞー」


「いや、まだ仲間にも……」


「さぁ! いざ出陣!」


夜林は話を聞いていないようだ。


由紀はため息をつく。


そして、夜林は刀を抜き走り出す。


由紀は呆れた表情をして斧を構えた。


由紀は夜林を見て、疑問を抱いた。


こいつは何故こんなに楽しそうなんだ? エネミーと戦うことが楽しいのか? そんなことを考えてる間にも、夜林は方向音痴なのかエネミーの場所から反対側に走り出した。


由紀は慌てて追いかける。


夜林は刀を振り回す。


すると、風圧で敵がバラバラになり消滅した。


由紀は夜林に追いつくと声をかける。


その光景を見た私は、驚きを隠せなかった。


あんなに強いんだ……


夜林は刀をかっこよく鞘に納めるが掠れてしまって焦りだす。近づくと私達の方に振り向く。


「由紀殿、お疲れ様」


夜林は微笑みながら言うと、由紀ちゃんは呆れた表情をする。


「あんた強いな」


「それほどでもないよ」


夜林は謙遜しながら答える。


「人間ではないだろ?」


由紀ちゃんの言葉に、夜林さんは目を見開く。


「えっ!? なんで分かるの!?」


「刀捌きが尋常じゃない程凄かった、それに……」


由紀ちゃんは夜林さんの方をじっと見つめる。


「雰囲気が違う、まるで別人のようだった」


「雰囲気? 私はいつも通りだよー」


「確かに雰囲気は違うが、喋り方は同じだし、見た目も一緒だから同一人物だと思うんだけどな」


由紀ちゃんが話すと、夜林さんは笑顔のまま黙る。


沈黙が流れると、夜林は急に刀を抜いた。


切ったのはエネミーではなくハエだ。


「ごめんね」


夜林は謝ると、由紀ちゃんは何も言わずに斧を構える。


「お前、戦うつもりか?」


「違う違う、ハエがいただけ」


「なんだ……」


由紀ちゃんは斧を下ろすと、夜林はほっとした表情をした。


「あ、あのー夜林ちゃんだよね? もしかして同じ学年の?」


「えっ!? 凄い!そうだけどよく分かったね!」


「いやーだって可愛いし有名じゃん」


「そうなんだー」


夜林は照れくさそうにする。


「でもなんでこんなところにいるんだ?」


「実は道に迷っちゃってさー」


「やっぱり、私よりドジなのかもしれないね」


「いやーそれほどでもあるかも」


夜林は頭をかきながら答えた。


「いや、褒めてないぞ」


私はツッコミを入れると、夜林さんはしょんぼりした。


由紀は夜林の様子を見て安全だと判断すると、夜林の方へ歩き出す。


「まぁ別に危険な人物ではないからどうぞ、よろしく」


「うわ! 七波殿! これは危険な匂いが漂います! 一緒に城に戻ろうではないか!」


「それどう意味だ?」


夜林がふざけ出すと由紀は少しピリピリし始めた。


「本当だ! 少し危険な匂いがプンプンします!」


七波も夜林に釣られふざけ出す。


「お前ら、後でランニング11週な」


由紀は怒り気味で2人に言うと、夜林は慌てる。


「嘘でしょ!?  由紀ちゃんは鬼なの!?」


「おい、誰が鬼だ」


由紀は夜林を睨むと、夜林は涙目になりながら言う。


「だって……由紀ちゃんは怖いもん……」


由紀はため息をつくと、七波は夜林の頭を撫で慰める。


「よしよし、いい子だね〜可愛いね〜」


「わんわん!」


夜林は犬と戯れる。


夜林さんは動物が好きなのか、さっき出会った時とは打って変わって幸せそうだ。


由紀ちゃんはそんな様子の夜林さんを見ながら話しかける。


「ところで、その姿は魔法少女ではないけど、なんで変身してるんだ?」


「あ! それはね!」


夜林さんが話そうとすると、遠くで何か物音がした。


由紀ちゃんが警戒すると、砂の中からエネミーが出てきた。


由紀ちゃんはすぐに斧を構えようとするが、夜林さんはそれを制止する。


「大丈夫だよ由紀殿」


夜林さんはエネミーに向かって歩いていく。


「おぉ! あれはスライムですね!」


「知ってるのか? 由紀ちゃん」


「もちろんですとも! 私も昔はよく倒したものです!」


「へぇー」


由紀ちゃんが感心していると、由紀ちゃんの横を誰かが通る。


「ふぅー危なかったー」


夜林さんは刀を鞘に納めると、正体は巨大な蛇だった。


「いやー助かったよ、ありがとう」


「いえいえ、どういたしまして――あ! しまった! 私の可愛いスライムちゃんがどっかに行っちゃった〜」


小さくて癒やしのスライムが突然消え、夜林は落ち込んでしまった。


由紀も七波も夜林の行動が理解ができなく困惑する。


そんな状況の瞬間、目の前にゲームマスターが現れる。


「やあやあ、調子はどうだっぴ?」


「順調だよ」


「ふーん、あれ? おかしいなー最強のプレイヤーなのに仲間になっちゃったっぴ?」


「まぁそういう日もあるって」


「僕の予想を遥かに超えた行動だっぴ、まぁいいけど」


「あ! 下手人だ! 覚悟しろ!」


夜林は刀を抜き、斬りかかる。


「いやー! ごめんなさいっぴー!」


「待てこら!」


夜林は逃げ回るゲームマスターを追いかけ回す。


由紀は呆れながらその様子を見ている。七波は夜林の様子を見て、期待の人物だと判断した。


「見てて気付いたけどやっぱり夜林ちゃんは凄いね」


「確かに、あいつの身体能力は人間離れしてるな」


「そうじゃなくて、性格だよ」


「え?」


由紀は夜林の方を見る。


「夜林ちゃんはきっとこの世界では誰よりも優しく、そして強い」


「……」


「だって、あんなに楽しそうなんだもん」


由紀と七波の視線の先には、追いかけられてるゲームマスターを必死に捕まえようと走る夜林の姿があった。


「うわーん、許してぴー!」


「待ちなさーい!」


「夜林ちゃんはいつもああなのか?」


「うーん、出会った時はかなり礼儀正しくて可愛らしい子だったんだけど……」


七波と由紀は夜林の様子を眺めていると、ゲームマスターは七波と由紀に助けを求める。


「そこの二人! 助けてっぴー」


「あ! 逃げるなー!」


「夜林ちゃん落ち着いて、ほら、一旦深呼吸しよう」


「すぅーはぁー」


「落ち着いた?」


「うん、なわけあるかー」


ゲームマスターを捕まえ、刀で切り裂くが強固な体で効いてないようだ。


「痛いっぴー」


「硬すぎるー」


「夜林、とりあえず刀を納めよう」


由紀が刀を降ろすと、夜林は刀を鞘に納める。


「さっきはごめんね」


「気にしないで」


「それより、夜林さんはこのゲームのことよく知ってるみたいだけど、何か理由があるのか?」


「あ! それなら私も聞きたいです!」


「そうだね、実は私は――」


夜林は妖怪討伐のために、この世界に送り込まれた。


だが、その世界には、神は居らず、代わりに管理人と呼ばれる存在がいた。


そして、夜林が召喚された場所は、魔物が多くいる場所で、夜林は絶望していた。


最初は5人ほどいた仲間が、一人また一人と消えていく恐怖。


夜林は死を恐れていた。生きる方法を考え、夜林はゲームをすることにした。


「それが、このゲーム」


「へぇー」


「なるほどな」


「この子は、意外とどうしようもないドジだからいつもテスト赤点だっぴ」


「なっ! なんで言うんだよ!」


「いいじゃん別にー」


夜林は顔を赤くしながら、刀を振り回している。


「そっか、テスト赤点かーなら私が徹底指導しよう!」


「えっ!? あ、かたじけない!」


「由紀ちゃんは教えるより、自分が勉強したいだけだよね」


「バレたか」


「じゃあ、今度勉強会する?」


「いいぞ」


「やった!」


七波は嬉しそうに笑っている。


由紀はゲームマスターに向かって話す。


「ほんじゃあゴミ猫、エネミー倒し終わったら何時でも現実世界に帰れるようにしてくれよな」


「わかったっぴー!」


「んじゃ、行くか」


「おう」


「はい」


3人は歩き出す。


ゲームマスターは手を振って見送る。


「ばいばいだっぴー」


由紀達は、雲一つもなく灼熱の砂漠地帯に辿り着く。


由紀と七波は、辺りを見渡した。


「暑すぎて溶けそう」


「由紀ちゃん大丈夫? 飲み物飲む?」


「ああ、ありがとう」


由紀は七波の持っていたペットボトルのお茶を飲むと、由紀は七波の頭を撫でる。


「由紀ちゃん?」


「いや、何でもない」


由紀は微笑むと七波は頬を膨らませて怒る。


「もー! 子ども扱いしないで!」


「悪いな」


由紀は笑いながら謝ると、夜林の様子がおかしい。


夜林は何もない先の方を見て震えている。


「由紀殿……何か来ます……」


「何が来るんだ?」


由紀が夜林に聞くが返事はない。すると、砂煙を上げこちらに迫ってくる者がいる。それは、大きな斧を持った巨人だった。その巨人は由紀達を見ると、ニヤリと笑う。


由紀は夜林と七波を庇うように前に立つ。


「お前は何だ!」


「我か? 我が名はジャイアントオーガ! 貴様らの肉を喰らいに来た!」


「なんだって!?」


「由紀ちゃん! 逃げよう!」


「いや、ここは私がやる! みんなは下がってくれ!」


「由紀殿……死ぬつもりですか?」


「私は死なないさ」


「そんなことできるわけがないです!」


「由紀さん! 私も一緒に戦う!」


「駄目だ! これは私の戦いだ!」


そう言うと由紀は巨人に向かって走り出す。


夜林は叫ぶ。


「近づくな!!!!!」


由紀が斧を振ろうとすると、巨人の腕が飛んでくる。それをギリギリでかわすと、由紀は地面に着地する。


「危なかったぁー」


だが侮れなかった。次は足を狙ってきて蹴り飛ばされる。


「ぐあっ!?」


地面を転げ回る。私は由紀の所に向かい安否を確認する。


「由紀ちゃん!!」


必死に叫ぼうとするが由紀は気絶している。


「由紀ちゃん!!由紀ちゃん!!!」


何度も叫んでも全く目が覚めない。


ジャイアントオーガはまたもや笑みを浮かべ、段々と近づいてくる。


その時、夜林の脳から一瞬の痛みが走った。過去の記憶を思い出したのだ。


「仲間の仇だ!」


夜林は怒りに任せて、刀を振り回す。


ジャイアントオーガが斧を振る前に腕を切り裂き、腹を切りつける。


「グオオォオ!」


しかし、ジャイアントオーガは怯まずに攻撃してくる。


夜林は攻撃を紙一重で避けていく。


「こいつ……強い!」


ジャイアントオーガは斧を大きく振りかぶると、夜林に向かって振り下ろす。しかし夜林の疾風な剣さばきで斧は弾かれる。


ジャイアントオーガは体勢が崩れる。夜林はその隙を逃すはずもなく、ジャイアントオーガの首目掛けて切り上げる。首は切断されて頭と体は崩れ落ちた。そして光に包まれ消えていく。


刀の血を飛ばし、鞘を静かに納める。


夜林が由紀の方を見ると、七波は必死に呼びかけていた。


「由紀ちゃん起きて!由紀ちゃん!!」


私は由紀を抱きかかえると、傷一つない肌をしている。夜林は安心したのか由紀の口に梅干しを詰め込むと由紀は目を開けた。


「……うぅっ……!なにこれ!すっぱい!」


由紀は勢いよく飛び起きた。


「よかったぁー! 由紀ちゃん!」


「由紀殿大丈夫ですか?」


「ああ、何とかな」


由紀が無事で良かったと心の底から思った夜林であった。


夜林達は休憩していた。


すると由紀は、夜林の方を向く。


「夜林」


「はい?」


「助けてくれてありがとうな」


「いえいえ、お礼には及びません。当然のことをしただけでございます」


「ふむ……」


由紀と夜林と会話してる間、ずっと私のこと見てますよね? 何か言いたいことがあるんでしょうか。由紀ちゃんならまだしも私には何を言いたいかわからないですし。


由紀ちゃんに聞いてみる。


「何で私を見てるの?」


「いや、梅干しを七波が食べたらどんな反応するかなーって」


由紀ちゃんはイタズラ好きだったんですね……。でもそのくらいなら怒らないよ。


夜林は私に近づき手を差し出した。握手を求めているらしいので手を出そうとしたら、急に引っ込めた。


「冗談ですよ」


そう言うと七波は頬を膨らませ、怒ったように夜林を指さした。


「酷い夜林ちゃん!」


「ごめんごめん」


そう言って謝った。


すると七波は笑顔になって許してくれた。


心強い仲間ができて夜林も安心できたのだろう。


任務が終わったことに気付いたゲームマスターは話しかけてきた。


「ミッションクリア!おめでとうございます!これで皆さんの絆はさらに深まったと思います。それでは転送します」


目の前が真っ白になったと思うと視界は良好になり、夜林達がいた場所は、元いた場所に戻っていた。


起き上がると私達はさっきの公園のベンチに横たわってたみたいだ。どうやら戻ってこれたようだ。


辺りを見回すと見慣れた街が見えるので多分戻ってきた。しかし、周りを見るといつもの風景とは少し違った光景があった。


「おーい! 皆!」


後ろから声がしたのは冬華だった。


心配してくれたのだろうか。


「大丈夫でしたか!?」


「ああ、何とかな」


「皆病室に居ないから心配しましたよ!もう!」


「あはは、ごめんなさい」


「全く、さあ早く病室に会えるよ」


「はいはい」


冬華の怒りで少し疲れ気味の由紀達は病院に向かった。


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魔法少女パブリック 八戸三春 @YatoMiharu

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