第2話

授業の時間が終わり、日直の挨拶で今日一日の授業が終わる。教室を出る生徒たちを横目に私はゲームをやってる。その後ろから視線を感じ、振り向くと由紀が驚き、大袈裟に反応する。


「わぁ!?」


「どうしたの?」


「いや、脅かそうとしたらこっちの方がビックリしたわ!」


「へぇー、由紀はドッキリが好きなの〜?」


「違うって!!」


いじると由紀の顔は赤くなり、恥ずかしがった。そして彼女はゲームをしているのに気づくと私の隣の席に座り始める。ゲームに没頭してると、後ろから頬にひんやりした缶を当てられ、びっくりして後ろに振り返るとそこには缶ジュースを持っている冬華がいた。


「お疲れ様です、これ差し入れのジュースですよ」


「ありがと冬華」


「びっくりしたよ冬華~心臓が飛び出るところだったよ」


冬華は私たちを見ながら、由紀は冬華の持っている飲み物を取る。


「あれ? 炭酸苦手だっけ? いつもコーラとか飲むのに珍しいね?」


冬華は目を閉じて言う。


「たまにはこういうのも良いかなと思っただけですよ、あと由紀さんのはカフェオレなので安心してください」


冬華は由紀の隣に座っている冬夏を見る。


「皆さん何のゲームをプレイしているんですか?」


冬華は冬夏に質問すると冬夏は冬夏の方に振り向き答える。その冬華の顔は微笑んでいるように見えるが目は笑っていないように見えた。


「人生ゲームです、ラクーンという会社が作ったものなんですよ、冬華さんこそ何をされてたんですか?」


「寝てました」


由紀は「冬華らしい答えだね」と言う。冬華は「まあね」と言い冬夏は自分の席に戻っていく。私達はまたゲームに戻る。



すると大急ぎで、遅刻ーと教室に入る咲菜は「ギリギリセーフ」と手を横に広げながら言って息を整える。


由紀はボケに反応し「はい遅刻ー、グラウンド11週ー!」と先生みたいに言った後、「冗談だって、間に合ったんだしいいじゃん〜」と言った。そんな光景を見て七波は笑いながら「では、私が代わりに出発してきます!」と敬礼しながらボケると由紀と咲菜は「どうぞどうぞ」と手の平を出し、ボケを入れていた。それを見ていた冬夏は静かにクスッと笑ってた。



チャイムが鳴り、授業が始まる。そして先生に言われたことをやっていくが途中で飽きてきた。それは、この授業の内容が難しいことではない、みんなも集中して聞いてないし、退屈だからスマホをいじったり、ノートを取ったりなど各自自由時間を過ごしてるから。


でも、私はそうしなかった、なぜなら……今読んでる本が面白いからだ。タイトルは『死霊術師、赤崎 真』、この本の主人公はとてもカッコよくて、敵が出てきてピンチになっても諦めず、最後まで戦い抜く姿は尊敬できる。



授業が終わり、昼休みの時間になったので私は本を閉じ、机の中にしまい弁当箱を取り出し、蓋を開けると、由紀と咲菜が私に近づいてくる。


「ねえ! 一緒に食べようよ!」


「そうですよ! 皆で食べた方が美味しいですからね」


私は2人の誘いに乗り、4人で食べることになった。私は由紀に「冬夏は?」と聞くと、彼女は冬夏に話しかけに行った。


「ねぇー! 一緒にご飯を食べない? どうせ1人は寂しくて無理なんでしょう?」


「え、いや、あの……」


戸惑う彼女に由紀は無理やり連れてくると冬華が私に「七波さん、大丈夫でしょうか?」と言ってきたので「多分、大丈夫だと思うよ」と答える。


その後、私たちは屋上に向かい、そこで食事をすることになった。そして食事中、冬華が「最近どうですか?」と聞いてきて、私は「普通かな」と答えた。冬夏は「そ、そうなんですか……」と何か言いたげな顔をする。すると由紀が「じゃあさ、今度みんなで遊ぼうよ!」と言い、冬華もそれに賛成した。


「わ、わたしも賛成です」


私はそれを聞き、嫌な予感しかしなかった。だってさ……由紀はそういう時に限ってとんでもない事を言い出すんだもん……。


「なら決まりだね! 冬華ちゃんは何したい?」


「私は何でも良いですよ」


「じゃあ、カラオケとかどう? 私、歌いたい曲あるんだよ」


「由紀さんの歌ですか?」


冬華は少し驚いた顔で言うと、由紀は嬉しそうに答える。


「うん! 私の好きな歌なんだよね〜、ほらっ! これだよ」


冬華はスマホでその曲を聴くと冬華は興味津々で聴いた。


「由紀さん、凄く上手ですね。 私感動しました」


「ありがとー冬華」


冬華は「はい」と言い笑顔を見せる。


すると冬華は私に振り向き、「私、由紀さんの歌声大好きです」と言う。


「へぇー、由紀って歌うまいんだね」


な、何故私に言ってくるのか理解できなかったけど、私は適当に答えた。


「はい、由紀さんの声はとても綺麗で透き通っていて、聴いていて気持ちが良いんですよ」


「ありがとう、冬華」


「いえ、本当のことですから」


由紀は照れながら言う。


「もう、冬夏ったら恥ずかしいなぁ〜」


そんな会話を聞いてると私は、ふと思ったことを口にする。


「2人とも、本当に仲がいいよね」


「え? あー、ま、まあ、そうかもね……」


由紀は目を逸らす。


「確かにそうかもしれませんね」


冬華は微笑みながら答える。


私はそんな光景を見て、胸の奥がチクッとする。それは、この感情が何なのか、まだ分からない。でも……私は、由紀のことが羨ましいのかもしれない。


それから、私たち4人は楽しく昼食を食べた。


そういえば咲菜は会話に入らなかったけど何かあったのかな?



昼休みも終わり、午後の授業が始まった。先生は黒板の前に立ち授業を始めると、私はノートを取り始める。その時、スマホから通知音が聞こえたので画面を見ると『ゲーム開始』というメッセージが表示されていた。


そして画面に表示されるように、カウントダウンの数字が現れ、ゼロになった瞬間に私は眩しい光に包まれた。


「え? なに?!」


突然の出来事に困惑していると由紀は平気な顔で私を見つめる。


「あー、また始まったね」


「またって……」


由紀の一言で、さっきの事が嘘のように感じてしまう。


「これは一体……」


咲菜が呟くと、由紀は答える。


「このゲームの説明は後で説明するよ。今はあのエネミーを倒さないと」


「そうだね」


私は由紀の言葉に同意し、エネミーの方を見る。


そこには、巨大な芋虫のような生き物がいた。


「うわっ! 気持ち悪い……」


私はその生物に嫌悪感を抱くと、由紀が笑いながら言った。


「あっはははは! あれはワームっていう敵だよ。倒す方法は二つあるんだけど、一つは核を壊して消滅させる方法だけど、結構難しいんだよね」


「じゃあもう一つの方法は?」


私が聞くと由紀は少し間を開けてから答えた。


「もう一つは、魔法を使うこと」


「……え?」


私は思わず聞き返した。


「だから、魔法だよ」


「魔法?」


由紀は「うん」とだけ言って、指をパチンと鳴らすと、由紀の手から炎が出た。


「これが、私の力」


「由紀さん凄いです!」


拍手をしながら由紀を褒めると、由紀は照れくさそうに笑う。


「ありがとう七波」


由紀がお礼を言う。


「何してんの、早くエネミーを倒さないと皆が危ないよ」


冬華は二人に注意され、申し訳なさそうな顔をした。


「ごめんなさい、すぐに倒します」


冬華は手を前に出すと、刃渡り50センチある2本のナイフを手に持ち、空気抵抗を減らすため腰を低くしながらワームに向かっていった。


「冬華って、こんな戦い方するんだね」


由紀は驚きながら言う。冬華の戦い方はまるで忍者みたいだと思った。


由紀も負けずと、ワームに向かい攻撃する。


「由紀さん、ワームの動きを止めてください」


「わかった」


由紀は返事をして、ワームに近づく。


ワームは動きが遅く簡単に由紀の攻撃を避けたが、ワームは避けた先に冬華が待ち構えていた。


「甘いです」


冬華はワームを縦に引き裂いた。


ワームは絶命するとバラバラとなって地面に降り注いだ。


「やったね!」


由紀は喜ぶ。


冬華も笑顔を見せたその時だった。


バラバラになったワームが黒いモヤになって消えた。


そして、地面の中から大きな芋虫が現れる。


それはさっきよりも二回りほど大きくなっていた。


「なにこれ……デカすぎ……」


由紀は唖然としている。


「まさかこれは、進化ですか?!」


咲菜も驚いている。


私は状況を飲み込めていない。


「どういうこと?」


由紀は困惑した表情で独り言を言う。


「おかしい、私がやったゲームより難易度が上がってる」


「どいうこと?」


私は由紀に質問をした。


「ゲームにはストーリーがあって、それをクリアして次のステージに行くんだけど、このゲームは違うの」


「えっと、つまり……」


「多分、これは運営が私たちを潰すために作った、難易度が高いゲームって事」


「そんな……」


「この世界で死ねば、二度と現実世界には帰って来れない」


「嘘でしょ?!」


私は焦り始める。


「落ち着いて、まだ死んだわけじゃないから」


由紀の言葉を聞いて少し安心したが、状況は変わらない。


「どうすれば……」


「由紀、貴方の力であの技やるよ」


「あの技ね、了解」


由紀は冬華の背に隠れ、目の前にワームの口が開いて捕食しようとしてくる。


冬華はそれを見てワームを何度を切り裂き、バラバラに降り注いだ後、冬華は大きく後方転換したら由紀は、ゴルフをするように、両手に持った斧の平たい部分をワームに向けて振り下ろす。


バラバラになったワームは、私達の距離より遥か彼方に飛んでいき、消えていった。


「……ふぅ、これで終わりかな?」


由紀は額の汗を拭う。


「……そうですね」


冬華も安堵のため息をつく。


「お疲れ様、二人とも」


私は二人の労をねぎらう。


「いえ、由紀さんのおかげで助かりましたよ」


冬華は由紀にお礼を言う。


「いやいや、冬華のサポートあってこそだよ」


由紀は謙遜する。


「それじゃあ、とりあえず皆のところに帰ろう」


私は提案をする。


「そうですね、皆さん心配していますし」


冬華も賛成してくれた。


「そうだね」


由紀も同意する。


「うん、帰ろっか」


私は笑顔を見せる。


現場から離れようしたその瞬間、地面が少し揺れた。


「地震ですかね?」


冬華は不安げな表情で言う。


「多分、違うと思う」


由紀は否定する。


「えっ、どうしてわかるんですか?」


冬華は由紀に疑問をぶつける。


「このゲームの世界では、地震は起こらないはずなんだよね」


由紀は冷静に答える。


「そうなんだ……」


冬華は呟く。


「うん、この世界にいるエネミーは全て、運営が作り出してますから」


由紀は冬華の疑問を答えてくれた。


「なら、なんで今地震が起きたの?」


「もしかしたら……まさか!?」


地面からワームが飛び出してきた。


「なるほど、そういうことですか」


冬華は納得しているようだ。


「どういう事!?」


私は状況が理解できていない。


「説明は後!! 早くエネミーを倒して!!」


由紀は私の方を向いて叫ぶ。


「わ、わかった!」


「冬華! あのエネミーを足止めして!」


由紀はそう言うと、冬華は返事をして走り出す。


「わかりました」


冬華は、ワームの足元に向かって飛び蹴りをするが、ワームはそれを難なく避けた。


ワームはそのまま由紀の方へ突進するが、由紀は横に飛んで回避した。


「さすがに速いな……」


由紀は冷や汗を流しながら、独り言を言う。


そして、ワームはまた地面に潜る。


「チッ、また隠れて……」


由紀は舌打ちをする。冬華も焦っている様子だ。


「由紀、大丈夫?」


私は由紀に質問をする。


「正直、かなりヤバいかも……」


由紀の顔色は悪い。


「同じく……」


「冬華、とりあえず早くここから離れよう」


「はい……」


冬華は少し焦った顔で返事をした。


由紀は何も言わない。


ワームから逃げるため全力疾走をする瞬間、地面が抉れ、冬華と由紀は足を転けてしまった。


「痛っ!」


「くそ! 罠にハマった!」


私は声を上げる。走り出そうとしても段々と穴に吸い込まれる。まるで蟻地獄に落ちたみたいだ。


「冬華、由紀さん!」


私は二人に声をかけるが、二人はどんどん落ちていく。


「七波、ごめん……」


由紀は私を見て謝ってくる。


「由紀、貴方のせいじゃないよ」


冬華は必死に落ちまいとしている。


私は由紀に手を伸ばす。


由紀も手を伸ばしてくる。


あともう少し……


その瞬間、由紀の手は、ワームによって食べられた。


由紀は悲鳴を上げ、ワームに飲み込まれ、ワームは冬華と由紀を地中に引きずり込んだ。


ワームに飲み込まれた二人を見た私は、何も出来ずにいた。


ただ呆然と立ち尽くしていたのだ。


すると、ワームは動き出し、私の方へ向かってきた。


私は恐怖で動けず、ただ震えていた。


ワームが目の前に来ても、動くことが出来ない。


その時、ワームが私の口を大きく開け、飲み込もうとしてる。


その瞬間、私は目を瞑り、死ぬ覚悟を決めた。


だけど、痛みはない。何故だろう? 恐る恐る目を開けると大きく口を開けたまま止まってる。


私は周りを見渡すと、咲菜が手を伸ばしワームを止めたようだ。


「大丈夫ですか!?」


「うん……」


私は安心感からか涙が出てきた。


「よかった……無事で……」


「ありがとう……助けてくれて」


私は感謝の気持ちを伝えた。


「いえ、当然のことをしただけですから……」


「それでも助かったんだよ?」


「はい……あ、あと10秒でエネミーが動き出しますので七波ちゃん、急いで下さい」


「えっ?」


私は疑問の声を上げた時、ワームが暴れ始めた。


「きゃぁ!!」


私はバランスを崩し倒れそうになるが、何とか耐えた。


「もう時間がないです!早く!」


「わ、わかった!!」


私は走り出し、手から両手剣を再生させ、ワームに攻撃する。


ワームはその攻撃を気にせず、私を飲み込むように襲いかかってきた。


「くそ!間に合わない!」


私は死を覚悟した。だが、その瞬間、ワームの刃が私の真上に止まった。その周りには膜に守られている。


すると、咲菜の大声で、驚き後ろを振り向く。


「七波ちゃん!! 今のうちに!!」


「分かった!」


私は返事をし、両手剣をワームに向かって振り下ろす。


ワームは斬られたことに怒り、今度は私を丸呑みしようとする。


「させないよ!!」


剣からピンクの光を覆い、振り下ろすとワームは真っ二つになり消えた。


「はぁ……はぁ……」


私は息切れをしながら、ワームがいたところを見る。


そこには、ワームだったであろうものが散らばっていた。その横には冬華と由紀が横たわっている。


私は、ワームを倒し終わったことを実感し、力が抜けて膝をつく。


「ははは……やったんだね……」


安堵のため息が漏れ、喜びと達成感に浸った。そしてまた、涙が出そうになっていた。


「お、お疲れ様です」咲菜は私に近づき、手を差し伸べてきた。


「うん、ありがと」


私は笑顔を見せながら手を握り立ち上がる。二人を起こし、状況を説明することにした。


「嘘!? 七波と咲菜があのエネミーを!?」


由紀は驚いた表情を見せる。


「う、うん……」


「すごいよ二人とも!」


冬華も驚いている様子だ。


「いや〜それほどでも〜、でも咲菜が凄い活躍してくれたから咲菜に褒めたほうがいいよ〜、ねぇ咲菜〜」


私は自信なく照れながらも少しだけ嬉しさを感じていた。咲菜に聞いてみると聞こえなかったのか聞き返しにきた。


「……ん? なんか言った?」


その言葉を聞いた途端私は、自分の顔が赤くなるのを感じた。


「ご、ごめん! もしかしてお世話しすぎたかな?」


「……ん? 何て?」


「な、何でもないよ! それよりさっきの技どうやって使ったの!?」


私は誤魔化すように質問をした。


「え? あ、ごめんなさい全く聞こえないです」


「いやいや、冗談だよね? 本当は聞こえてるんでしょ!?」


私は慌てふためく。


「七波ちゃん? 全く聞こえませんよ?」


咲菜は冷静な態度で答えた。


もしかして本当に……


いやいやそんなはずは……


私は苦笑いを浮かべながら言う。


「あ、あはは、やっぱり私の勘違いだよ!


咲菜ちゃん! 早く帰ろ!」


私は咲菜に手を繋げようとすると驚かれ、手を離された。


「えっ!? 七波ちゃん!? 急に何!?」「え、だって手を繋ぐのって普通じゃない?」


「七波ちゃん、最近変だよ。どうしたんですか?」


「…………」


確かに私は最近おかしいかもしれない。今まではこんなに人と話さなかったし、手なんて繋がなかったはずだ。なのに最近は、咲菜の気を使うようになってる。すると由紀は私達に説明をする。


「二人共、クライシスが付いたみたいだね」


「え? それどういうことですか?」


私は不思議そうな顔をして聞いた。


「まぁ簡単に言えば、MPを使いすぎて体に異常が起きたんだよ。だから、二人はもうゲームには参加できないんだ」


「えぇ! じゃあ私達は帰れないんですか!」


私は驚きの声を上げると、由紀は真剣な眼差しで言う。


「大丈夫だよ。ちゃんとした治療をすれば治るから。それに、君達が頑張ったおかげで、ワームを倒すことができた。その報酬として、僕達三人は君達の願いを叶えることができる」


「本当ですか!? 」


「うん、でも治療薬作るのに時間が掛かるから暫く3日ぐらい待ってくれないか?」


「はい分かりました」


私は笑顔を見せて返事をした。


「良かったね七波」


「うん」


冬華の言葉に私も嬉しそうに答える。


「よし、それじゃあ、現実世界に帰ろうか……あれ?」


由紀は自分の手を見て違和感をおぼえる。


「どうしたの? 由紀?」


冬華が聞くと由紀は誤魔化し、元の世界にように伝えた。


「なんでもないよ、さぁ! 現実世界に帰ろう! おーい、ゴミ猫!」


由紀がそういうとゲームマスターが姿を現す。


「なんだい? 僕は忙しいんだっぴ?」


「俺ら、この子たちを現実に戻してあげたいんだが、手伝ってくれないか?」


「分かったっぴ、じゃあまずは、その世界から出ようか」


ゲームマスターが指パッチンをすると、目の前にワープホールが現れる。


そして、皆はワープホールに入り現実世界へと戻った。


そこは見慣れた光景だった。私達は病院にいるようだ。私達は病室から出るとそこには看護師さんがいた。


「あっ!皆さん目が覚めたんですね!」


看護師は安心した様子を見せる。


「どういうこと? 何で病院の中?」


由紀は疑問を浮かべていた。それはそうだ。私達はつい先程、ゲームに入る前学校にいたのだから。


「ここは病院です。貴方急に学校の場所で倒れて意識を失っていたんですよ」


「あの……先生はいますか?」


私は恐る恐る聞いた。もしいなかったらと思うと不安だ。


「あ、今呼んできますね」


彼女はパタパタと音を立てながら走って行った。


由紀は3人の様子を見るため、身体を起こし、周りを見渡すと隣に冬華と咲菜がいる。


「大丈夫か? 2人とも?」


咲菜の体を揺さぶると目を覚まし、目を擦りながら体を起こした。


「うーん……え?」


咲菜はまだ耳が聞こえないのか上手く喋れない。


私は咲菜に近づき、手話で伝える。


(咲菜ちゃん、大丈夫?)


すると、咲菜も私に手話をして返してくれた。大丈夫だよって


私はそれを見て微笑む。すると、由紀は目を大きく開け驚く。


何故なら咲菜の目が赤色に変わっていたからだ。


(咲菜ちゃん……その目は?)


手話で聞くと、彼女は暗いを見せ、こう答えた。


(目開けたら視界がぼやけてきたの)


その言葉を聞いた時、私は理解し、安心するように言う。


(それは目が疲れてきてるだけだよ、安心して)


(違う、本当に視界がぼやけて由紀ちゃんの姿が全く認識できないの)


私はその事を聞き、胸を締め付けられるような感覚になった。


すると、由紀は真剣な表情で質問する。


(それは医師から聞いたの?)


(うん、お医者様は私の視力が低下してるって言ってた。でもこれは一時的なものだって)


咲菜は少し涙声になりながら言った。


私はそれを聞いて、なんて言えば良いか分からず黙っていると、咲菜は続けて話す。


(由紀君、私怖いよ。これからどうなるんだろう? もしかしたらこのまま何も見えなくなるかもしれないし、そうなったら私はどうやって生きれば……)


「大丈夫、心配すんなって! 俺はお前を絶対に守るからさ!」


由紀は咲菜の肩に手を置き、笑顔を見せた。それを見た冬華は現実的なことを言う。


「無理だよ由紀、だって、その手で治療できる状態じゃないでしょ?」


「うるさい! やってみないとわかんないでしょ!」


由紀は必死に否定するが、現実は残酷だった。


「由紀ちゃん……」


咲菜が由紀の服を掴もうとすると少し怒りを抑える。


「咲菜ちゃんごめん、ちょっと待ってくれ」


由紀は深呼吸をし気持ちを整えて、ゲームマスターに聞く。


「私が負けたらこの子達を解放してくれるんだよな」


由紀はゲームマスターにそう確認すると、ゲームマスターは困った顔で答える。


「解放するのは、その子達が現実世界に戻ったらだっぴ、魔法少女に解約という手続きは存在しないっぴ」


それを聞くと由紀は下唇を強く噛み、悔しさを抑えながらゲームマスターに言う。


「分かった、じゃあ私らが勝ったらその子達を返してくれるんだな」


「もちろんだぴ! 約束は破らないっぴ!」


ゲームマスターは親指を立てて笑顔で言う。


「チッ、はよ帰れゴミ猫……」


由紀は小声で悪態をつく。


ゲームマスターは言う通りに目の前から消え。


「冬華、咲菜のことは頼んだぞ。私はあいつを倒すために行ってくる。だから私が帰ってくるまでは咲菜のそばを離れないでくれ」


「何いってんの!? あんたが戦う必要は無いでしょ! そんな体で戦ったら死んじゃうよ!!」


冬華は由紀に抱きつき、泣きながら訴える。


「大丈夫だよ、私を信じろって」


由紀が笑顔で言い返すが冬華は首を横に振るばかりだ。


「ダメだよ! 絶対だめ! お願いだから止めて!」


冬華は由紀にすがりつく。


「離してくれないか?  私にはやるべきことがある。それに、今ここで逃げたら一生後悔する気がしてならないんだ。私はあの化け物を倒して咲菜を救う、だから、手を出さないでくれ」


由紀は冬華の手を振りほどき、咲菜の肩を掴み、真剣な表情で伝える。


「必ず帰ってくるから」


すると、咲菜も不安そうな顔で由紀を見つめる。


由紀は咲菜の頭を撫でると、部屋から出ていくと冬華はベッドから離れ、由紀の後を追いかける。


「由紀、ほんとに行くの?」


「ああ、私は行くよ。咲菜ちゃんを頼む」


由紀は笑顔で答える。


「嫌だよ、こんなのおかしいじゃん……由紀が死んだらどうするの……」


由紀は少し考え込むと、冬華に優しく微笑みかける。


「大丈夫だ、私は死なないさ。それより、私の分まで生きて、咲菜のことを守ってくれ」


「嫌だ! 私も一緒に戦う!」


冬華は涙を拭い叫ぶ。


「駄目だ! これは私の戦いなんだ! 邪魔しないでくれ!」


由紀は冬華の腕を強引に振り払う。


「由紀……本当に死ぬつもりなの?」


冬華は心配そうに見つめる。


「大丈夫、安心しろって。私は死なない、だから信じて待っていてくれ」


由紀は笑顔で言うと、急にビンタをしてきた。


「痛っ! いきなり何すんだよ!」


由紀が頬を押さえながら怒ると、冬華は目に涙を浮かべていた。


「由紀のバカ!! 何で自分勝手なことばっかり言うの!?  さっきの戦いを見たのなら、由紀だって戦っちゃいけないことくらい分かるでしょ!!」


「あぁそうだな! でも仕方がないだろ! あいつが咲菜ちゃんが病気なってる以上、私が救うしかないんだよ!」


由紀は怒鳴り返すと、冬華は呆れ、涙を流す。


すると咲菜は目と耳も聞こえないのに何かを感じ、大声で注意された。


「喧嘩はやめて! 由紀ちゃん! 冬華ちゃん! 私のために争わないで!」


「……えっ? 咲菜?」


「え?」


由紀と冬華が唖然としていると、咲菜は話し続ける。


「私ね、由紀ちゃんのこと好きだったんだ。いつもお姉さんみたいで、優しくて、強くてカッコよくて、憧れの人だったの」


咲菜は照れたように笑う。


「……何言ってんの? 咲菜ちゃん」


由紀は困惑しながら呟く。


「だからね、お願いがあるの」


咲菜は真剣な表情になり、伝える。


「もう私のために助けなくていいの!!」


由紀はハッとしたような顔をし、俯いた。


「由紀ちゃん」


咲菜は由紀の手を握り、微笑む。


「ごめん、私が間違ってたよ」


由紀は笑顔で答え、立ち上がる。


「手が震えてるんだね、もう大丈夫だよ」


「ごめん、私も正直怖いよ」


由紀の言葉を聞き、冬華も由紀の手をぎゅっと握る。


「ありがとう、冬華」


由紀は笑顔で答える。


残りの咲菜の人生、由紀達は咲菜の為に手紙と、誕生日9月27日であと5日の準備する。


由紀は誕生日ケーキの買い出しに出かける。


冬華は咲菜の好きなお人形を買いに病室から出た。

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