第4話 サクッと王をつるし上げ
――オワコン王国に、激震が走った。
パレードの最中に魔物が大量に王都に攻め入ってきたのである。それも魔王軍幹部数名を引き連れて、だ。
もう戦いは無いだろうと武装を解除していた兵たちは呆気なく倒され、国民達も成す術無く蹂躙されていく。
平和が保証されたと思った矢先に、人々は絶望の淵に立たされてしまった。大勢の人間が現実を受け入れられず正気を失っていく。
村や町は全て消し飛び、残すは王城のみとなった。全てが崩壊するまで、そう時間はかからないであろう。
ここまで、たった半日の出来事である。
『陛下! 襲撃が王室まで来てしまいます!』
『馬鹿な馬鹿な馬鹿な! 一体どうしてこんなことに! 魔王は倒されたはずなのに何故!?』
『わかりません。勇者の力が無い今では、対抗する術が……』
『冗談じゃない! 儂は間違ったこと等しておらん! 何とかするのだ!』
『そ、そんな……』
王都の混乱は、まだ続いている。
「愚かだなー」
「愚かですねー」
「愚かじゃなー。お、こりゃ美味じゃ!」
絶望に満ちている王国の様子を、三人は近くに生えていた青い大きな木の実を齧りながら呑気に傍観していた。何の実かはわからないけれど、美味しいらしい。
先程から画面に映し出されている国の混乱に頭を抱える王は、長としてあるまじき狼狽ぶりだった。アルスの知っている王とは、まるで違う人物かのように見えていた。
「俺が最初に会った時の王はそれっぽかったのって、体よく送り出すための演技だったんだよな……」
「ふん、いくら言葉巧みにのし上がろうがいつか高いツケを払わされるのがオチじゃ。魔族に唯一対抗しうる勇者を切り捨てる等、先見の目が無さすぎる。やつに王の資格は無い」
「なんかラミアのほうが王っぽい事言ってるな」
「王様の素質がありますね!」
「お主ら儂が魔王だという事を忘れておらぬか……?」
あまりにも気さくに話しすぎたせいで、アルスとミリアはラミアとの距離感が極端に近くなっていた。ラミア自身もそれを拒んでいるわけではなく、軽口を叩くほど気を許している。
そんな会話をしている間に、王は身を潜めようと逃走を始めた。このまま逃がしてしまっては面白くないと思ったラミアは、とある事を思いついてニヤリと笑った。
「よし、この愚王を国民の前でつるし上げて罪を白状させてやろう」
「それはいいですね!」
「そんなこと出来るのか?」
「部下を通じて念話をすれば、儂の声を聴かせる事が可能じゃ」
ラミアは念話で部下と連絡を取り、王の居場所を伝えて捕らえさせる。王座に座っているばかりで全く鍛えていなかった王は、魔王の部下に立ち向かう力や度胸も無くあっさりと捕まった。
項垂れる王を民衆の前に連れ出して、ラミアは拡声の魔法を使って全員に伝わるよう大音量で告発を始めた。
『聞けい者ども! この愚かな王がアルスを殺して勇者の血統を途絶えさせたおかげで、復活を遂げた儂ら魔王軍を止められる者はいなくなった! 魔王ラミアから愚かな王に感謝するぞ!』
『何だって!? 勇者は王に殺されただと!?』
『魔王が生きてるじゃない!? どうなってるのよ!?』
『おい説明しろ!』
ラミアが真実を話してしまったことで全員が王に疑いの目を向ける。王は顔が真っ青になりながら、か細い声で弁明しようとする。
『お、落ち着け皆の衆……。これは魔王の戯言で……』
『魔王の、って……じゃあ本当に魔王は倒せていないんじゃないか!』
『私たち、このまま魔王に滅ぼされるしかないって事!?』
『ふざけるなー! あの王を許すなー!』
『ひ、ひえぇーっ!』
王の言葉は完全に墓穴を掘っていた。火に油を注いでしまった王はすぐさま民衆たちから抑えつけられ、タコ殴りにされていた。王への暴力を止めるものは誰もいない。
「おーおー、予想通りの展開じゃな」
「一瞬で王の威厳が消えましたね!」
「そ、そうだな。皆の怒り様が凄まじい……」
アルスからすれば、自分の死を悲しんでくれなかった民衆も似たようなものだと感じていた。だから王がボコボコにされている様子を見ても、なんだかやるせない気持ちに満たされていた。
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