第5話 呆れる光景にうんざり
王国の悲劇は、まだ終わらない。民衆からのタコ殴りによって王が瀕死状態となった今、王都は更なる混乱を引き寄せていた。魔王への命乞いを始めたり、魔王を倒したと思っていた勇者へ文句を言い始めたりと、国民達は阿鼻叫喚となっていた。
『魔王様! 私達は降伏します!』
『魔王様に従います! だから命ばかりは!』
『どうか私を助けてください!』
『そもそも勇者は一体何をやってたんだ!』
『あんな王にしてやられるなんて腑抜けてるんじゃないのか!?』
『魔王が復活できるなら勇者も出来るだろ! もっかい俺たちを助けろよ!』
初めは聞き流していた三人も、次第にうんざりし始めていた。王国の、人類の危機が迫っている中で出てくる言葉が身勝手なものばかりだからである。国のためにと頑張ったアルスがどんどんしおれていってしまう。
「……呆れた連中じゃな。皆自分の事しか考えておらん」
「あの王を支持していた国ですからね……」
「考えてみたら、危ない事や面倒な事は全部俺任せだったなぁ……。恩も別に感じてないんだろうなぁ……」
「あぁ……、アルスがかつてない程の遠い目を……よしよし」
呆然とするアルスをミリアが宥める。ラミアもアルスの事が少し哀れに思えたのか、少し気を使い始めた。
「あ、アルスよ。他に恨みのあるものがいるのであれば、あの王みたいに吊るし上げる事ができるが、他にはいるか?」
「あー、いるにはいるんだけど……」
「どうかしたんですか?」
ラミアはアルスの気を晴らさせるために提案をしたのだが、アルスの歯切れが悪い。何をためらっているのだろうかとラミアとミリアは考えていたが、彼の思っていたことは予想とは違っていた。
「いやまあ……どうせこの後全員死ぬんだよなーと思ったら、なんかどうでも良くなってきて……」
「お主……、この短時間ですっかり情が無くなってしまったようじゃな……」
「情を引きずってしまうよりはいいんじゃないでしょうか?」
最早アルスにとって、国のために云々という気持ちは完全に消滅していたのだった。その上で何か復讐をしてやろうという気持ちもどこかへ消えてしまってたのである。好きの反対は嫌いでなく、無関心なのである。
「もうとっとと全員焼き払っちゃってくれ……」
「私も気持ちはわかります……。もう見るのも嫌になってきました」
「そこは儂も同意見じゃ。既に手筈は整ってきておるし、そろそろ終いにしようかの」
これ以上映像を見続けても面白い事はない。そう判断したラミアは、王国に終止符を打つことに決めた。
「いよいよメインイベントですね!」
「メインイベント?」
「ああ、最後の一手じゃな」
これからラミアがする事を知っているミリアは目を輝かせて、知らないアルスは首を傾げる。それはな、とラミアは得意げに発表した。
「儂の復活の儀式が整うのじゃ。儂が王国の上に登場した後、究極魔法メテオで王国を纏めて塵にしてやろうぞ!」
「やっぱり粛清と言えば隕石ですよね!」
「待って、俺そんな怖い『と言えば』聞いたこと無いんだけど」
王国が完全に消し飛ぶまで、あと数分。未だ命乞いを続ける国民の声は、一切届かぬまま儀式は滞りなく進んでいく。
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