第2話
お昼の感覚が抜けきれない中、午後の授業をなんとか乗り切り、家に帰宅した。勉強をしようと教材を開いても東条のことが気になって手もつかず、鈴村はベッドに寝転んだ。
(近くにいた時、すごくいい匂いしたな・・・)
ふわっと漂った東条の香りを思い出し、また胸がきゅっとなる。この感覚がなんなのかまだ分からない。苦しくて辛くてどうしようもない。
(明日からどんな顔して学校に行けばいいんだ・・・)
余計なことを考えまいと眠りにつこうと目を瞑るも、ドキドキしてなかなか眠りにつけずにいた。
(全っ然眠れなかった・・・)
気づけば朝になっていた。学校に行きたくないと初めて思った。勝手に意識してるだけ。そう思ってもあの時のことを思う度、また胸が苦しくなる。
(別に、告白されたとかそんなんじゃないんだし・・・そうだよ。)
あれこれ考えていると学校に行く時間が迫っていた。気持ちの整理もできていないまま鈴村は家を出た。
靴を履き替え、教室に行くと東条は既に来ており、クラスメイトと喋っていた。
目を合わせることもできず俯いたまま自分の席へと向かった。
「おはよ。」
「お・・・はよ・・・」
東条に声をかけられて言葉がつっかえてしまう。自分だけが意識していると思えば思うほど更に目を合わせられない。何を話したらいいのかも分からず沈黙が続く。
「あのさ、鈴村。」
「へ?!あ、なに?」
下から顔を覗き込まれて思わず声が裏返ってしまった。恥ずかしさと緊張で目が泳いでしまう。
「大丈夫か?昨日からすごく顔赤いけど」
「だ、大丈夫だよ?」
心配そうに顔を見つめられて更に顔に熱が溜まる。視線を合わせたくなくて俯こうとしたが東条に頬を掴まれてしまった。
「やっぱ、熱でもあんじゃねえの?」
「っ・・・」
そう言って東条はぐっと顔を寄せてきた。思わず目をきゅっと閉じるとコツンとおでこに東条のおでこが当てられた。一瞬何が起きたのか分からなくて固まってしまった。
「熱は・・・ないな。」
「へ・・・あ・・・その・・・」
ようやく状況が理解でき、顔を真っ赤にして教室から思わず飛び出してしまった。どこに行くわけでもなくただひたすらに走った。気づけば人通りもない階段に来ていた。
(なんでこんなにドキドキして胸が苦しいんだろう。)
ドキドキして鳴り止まない胸を撫で下ろしながら深呼吸をする。もう少しで授業が始まってしまう。教室に戻ろうとした時聞き慣れた声で呼ばれた。
「冬?お前冬だよな?俺のこと覚えてる?」
「夏希・・・くん?」
声の方を向くと、昔からの幼なじみの春野夏希がいた。前髪が少し目にかかったウルフカットで前髪から少し見えるつり目。昔とは全然違う見た目で一瞬誰か分からなかったが面影がある。
「久しぶりだな冬。元気にしてたか?」
「久しぶり。元気にしてたよ。同じ学校だったんだね。」
入学してからそれなりに経ったが、教室からあまり出ずに本ばかり読んでいたせいで他のクラスについてなんにも知らなかった。なので、幼なじみが同じ高校だったことにすごく驚いてしまった。
「まぁな。でもなんでこんな人のいない階段にいんの?もしかしていじめられてたりしてんのか?」
「え?い、いや・・・そういうんじゃ・・・」
心配そうに顔を覗き込まれ、目が合う。
(あれ・・・夏希くんってこんなにかっこよかったっけ・・・)
昔とあまりに違いすぎる幼なじみに戸惑っているとチャイムがなった。
「あ、やば!!授業遅れる・・・教室戻るぞ冬」
「あ、うん・・・」
教室に戻ると既にみんな席についていた。鈴村も席に着き授業に入る。この時東条のことをすっかり忘れていた。久々に会った幼なじみが昔より違って見えた。 すごくドキドキもしたし。
(夏希くん・・・あんなかっこよくなって・・・)
「・・・・・・ら・・・鈴村!!」
「は、はい!」
ぼーっとしていると先生にぽんっと肩を叩かれた。ビクッとなって勢いよく顔をあげる。
「大丈夫か?顔すごい赤いけど。熱でもあんのか?」
「い、いえあの・・・大丈夫・・・です・・・」
授業に集中出来ないなんて、今までこんなことなかった。昔から勉強しかしてこなかった鈴村にとって集中できないことはただ事ではない。その日はどの授業も頭に入ってこず、集中もできなかった。
帰る準備をしているとドアの方から名前を呼ばれた。声のする方を見ると手をひらひらしながらニコニコしてる春野夏希がいた。驚いていると、クラスの女子がキャーキャー言いながらドアの方に近寄る。瞬く間に女子達に囲まれて姿が見えなくなってしまった。
「春野くん。こっちに来るなんて珍しいね!!」
「え、うん。それより冬。いるかな?」
「冬・・・?あぁ、鈴村くんのこと?」
普段、苗字でしか呼ばれないのと影が薄いこともありクラスの殆どは鈴村のフルネームを覚えていないため、春野が鈴村を下の名前で呼ぶことに皆が驚いた。そして、その場にいた女子の視線が鈴村に向いた。
「あ、あの・・・僕・・・」
「冬!!よかった。まだ帰ってなくて」
そう言いながらズカズカと教室に入ってくる春野。思わず後ずさりしてしまった。
「な、夏希くん・・・何しに来たの・・・」
「一緒に帰ろうと思って」
春野とは家が隣同士。とは言え、モテる春野と地味な鈴村が一緒に下校なんてしたら、春野のファン達に何を言われるのか分かったものではないのでなるべく一緒に帰るのは控えたい。
「きょ、今日は用事があって・・・」
「用事?なにすんの?」
断るための口実で発したため、特に予定もない。必死に返答を探していると東条が来た。
「こいつ、今日は俺と帰るから、無理」
「え?」
その言葉に僕だけじゃなく、クラスのみんなも同じ反応をした。
「は?誰お前」
「東条 秋。鈴村のクラスメイトだよ」
その声はいつもより低く、どこか焦っているようにも見えた。
君が恋を教えてくれた 柊 夜月 @Mayut0806
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。君が恋を教えてくれたの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます