第4話

ガン!ガシャン!ガンガンガン!と物凄い音が響く車内でラスティは必死で車を走らせた。両サイドもリアウィンドウも叩き割られ、ガラスの破片が車内に飛び散って散乱している。




「ひえっ!ひえっ!ひええええっ!」




ラスティは悲鳴を上げ続けながらもハンドルにしがみついていた。




「おい!俺の車!壊すなよ!おい!やめろって!」




仲間のバイクの後ろに乗せてもらい、皆に追いついたタカが泣きそうな顔で叫んでいた。が、誰も聞き入れなかった。むしろ、仲間達は面白がってより一層攻撃の手を強めた。




「ひゃっはー!」




「ぎゃははは!」




「おらおら止まれ!止まれつってんだろ!おら!」




ガンガン!とバイク数台が取り囲み、鉄パイプで車体を滅多打ちにする。




「やめてくれー!あー!俺のクルマがー!」




タカが頭を抱えて泣き出した。彼を乗せて走っているバイカーが、飛び散る破片を嫌がってスピードを落とし後ろへ下がった。入れ替わるように、大型4WDトラックの荷台に高く設置された座席にふんぞり返って座っている甲冑姿のリーダーの指図で、自動車が4台でラスティの運転する車を挟んで並走する。リーダーが拡声器で命令を飛ばす。




「前だ前!バカヤロ前をふさぐんだよ!前に出てぶつけろ!」ぶつけて止めろ!




左右から一台ずつスピードを上げラスティの車を追い越した。ラスティの前に出て急ブレーキを踏むつもりだ。が、突然その2台が火を噴いた。ボン!ボン!とルーフ部分から炎が噴きあがりドライバー達は慌てて後ろへ下がって行った。




「うわあーー!!」




「やっべえええ!燃えてるーー!!」




そしてラスティの周辺の車が更に3台、ボン!ボン!ボン!と炎を上げた。慌てふためきスピードを落とした彼らの間に、ハチロクがバイクでズイっと現れた。その手には新たにもう一本、火の付いた火炎瓶が握られていた。




「危ねえ!」




ハチロクを見た周囲の自動車やバイクは慌てて離れた。その空いた隙間にハチロクはバイクを滑り込ませラステイの車に寄り添った。




「ラスティ!こっちだ!」




ハチロクが叫んだ。




「ハ、ハハハ、ハチロクさん!!!」




「ハチロクさん!たすけて!たすけて!」




ラスティはハチロクに気づいて必死に助けを求めた。




「ラスティ!こっちへ飛び移れ!こっちだ!早く早く!うぐうっ!!」




手招きするハチロクが言い終わる前にラスティがピョンっと首に飛びつきヒシとかじりついた。強くしがみついたのでハチロクは声が詰まった。




「苦しい!ラスティ!!」




「ああっすみません!早く逃げましょう!早く早く!」




「よしっ!落ちんなよ!」




ハチロクは手にした火炎瓶をすぐ後ろに付けていた自動車のフロントガラスにぶち込むと、ガシャーンボゥン!と車内から炎と悲鳴が上がり左右に大きく揺れた。周囲の車と衝突し車群は混乱した。ハチロクはアクセルを回し素早くギアを変えると、車群から抜け出した。さっきまでラスティが運転していた車がコントロールを失いフラつくと失速し、後続の車を何台も巻き込み次々と衝突している。火炎瓶を受けた車たちもコントロールを失った事もあって、後続の車達は足止めを食らった形だ。ハチロクはスピードを上げた。煙をあげ混乱するアース天狗党の一団はみるみるうちに見えなくなった。




「よし、奴らを引き離すぞ。」




ハチロクはスピードを更に上げた。




「きゃーーーーっ!!」




「ひえっひえっ!ハチロクさん!怖い怖い怖い!」




ラスティが叫んでいたが50キロほどそのまま突っ走った。カーブの度にラスティが耳元で悲鳴をあげて煩かったが、おおむね気分良く走り進めた。海沿いから離れ、山道を進みまた海沿いに出た。その頃にはすっかり落ち着いたのでラスティには後ろに移ってもらい、鼻歌まじりにバイクを走らせた。




大きな街が見えて来た。有名な港街だ。




「街だ!ハチロクさん!休みましょう!」




「ああ、そうだな。」




ハチロクは街の入口でバイクを止めてラスティと荷物を降ろすと、またバイクを走らせ堤防に乗り上げた。海側のテトラポットの群れの隙間にうまくバイクを落としてすぐには見えないよう隠すことができた。ラスティの元に歩いて戻る。ラスティは街路樹によじ登って街を見渡していた。その姿はまるで大きな虫のようでハチロクは笑ってしまった。ラスティは何事かつぶやいて一人で「フムフム。」「うんうん。」と納得している。




「どうしたラスティ。」




「この街はゴーストタウンでは無いようですね。人間もたくさん生息しているし、活発に経済活動も行われている。感心ですね。生き物としてこの星の表面を元気に右往左往するのは、人間の数少ない取柄の一つと言っても良いでしょう。ご覧なさいホラ、あんなにチョロチョロしちゃって、みんなとても愛らしいですねえ。」




「わははは!神かお前は!どんな立場だ!」




だが、ラスティの言う通りだった。その港町は第一波以前とほとんど変わらない様子だった。海を見れば沖の方に沈没した船が何隻も船首や船尾が水面から突き出て見えるし、街を見れば何か所か破壊の跡があったが、街としては存続していた。




「どうですかハチロクさん。ここでならゆっくり休めるんじゃないですか?」




「うーん、そうだな。」




「美人の2~3人も呼んでみんなで温泉入ってそのまま宴会しましょう!」




「いや、そんなの昭和の悪党がやることだぞ。しかしよくそんな事知ってるな。感心するよ。」




「ね。ですから・・・・」




「ね、じゃねえよ。無理だな。」




「え!?なぜでしょうか?あっ、そうか。男性の方がお好みでしたら・・・」




「いやいやいや、まず金が無い。」




「アウッ・・・・・・・」




ラスティはガックリうなだれた。頭しかないのに器用な奴だ、とハチロクは思った。




「まず、そんな事に使う金が無い。食事をして、そうだな安い宿に泊まるぐらいが関の山だな。」




「うな重ぐらいは食べられるのでしょうか?」




「またえらい贅沢だな・・・・。んー・・・海鮮丼・・・ぐらいかな。それに、俺には目的がある。人探しだ。あまりのんびりしている暇は無い。」




「ううっ・・・・。そうでした。そういえばそんな事おっしゃってました。」




「おやあ?まさかラスティさん。お忘れだったのですか?」




「まっまさか!!忘れる?ワタクシが?この高性能の私が一度メモリに入れた事は何一つ忘れたりしませんよ!?ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ優先順位を変更していただけです・・・・・。」




「だよなあ。これは失礼した。さ、とりあえず宿を探そうぜ。」




「あんな怖い思いしたのに・・・・・。」




ラスティはブツブツ言っていたが、ハチロクは小さなホテルや旅館に何件かあたることにした。みるからに妖しい宿が目に留まり、受付へ進んだ。古い建物だ。タバコの煙や酒の臭いの染み付いた古い建物独特の臭いがする。スキンヘッドの年配の男、70歳代中ごろか。受付に座って今時珍しく紙の週刊誌らしき物を読んでいる。やたらと人相が悪い。




「すみません。一泊お願いしたいんですが。」




男は無言でチラっと顔を上げると宿帳をバサっと置いた。




「あ、はいはい。宿帳ね。」




ハチロクはせっせと記入して渡した。老人はじろりとハチロクの記入を眺めると、鍵を差し出した。




「支払いはカード?現金?」




「現金で。」




「そのビートルヘッドも一人分だよ。」




「え!ああ、そうですか。」




「そりゃそうだ。知ってるぞ。どうせ食事とか充電とかするんだろう?風呂にも入れるんだろう?風呂場汚さないようにね。」




「なんですと?!」




ラスティが反応していきりたち甲高い声を出したので、急いで押さえてさえぎった。




「はいわかりましたー!気を付けます。」




「注意事項よく見て守って。迷惑かけないようにちゃんと守ってね。部屋の水道で洗濯しないでね。流し台を風呂替わりに使わないで。小動物は付き添い無しで部屋から出さないように。」




「しょ、しょしょしょ、しょうどうぶつ??!!!」




「あーーっ!はい!承知しました!ありがとうございます!」




前払い分をさっさと支払い、モガモガ暴れるラスティを抱えて、ハチロクは部屋へ移動した。




「まったく!失礼な!!まるでが私がしつけされてない犬か猫みたいに。」




「まあまあ。意外といい部屋じゃないか。」




ラスティは怒りが収まらない様子だったが、ハチロクは座ってリラックスした。




「一休みしたら、外に飯でも食いに行こうぜ。港町だ。海鮮丼食おう。そうだ、しらす丼なんかもいいな。」




「しらす丼?」




ラスティが反応した。




「それ食べた事ないです。おいしいんですか?」




「ああ、おいしいよ。ちょっと待ってな。」




ハチロクは荷物からスマホとタブレットを出した。




「おや、そんな物扱えるんですか。」




「ああ、当たり前だ。おいおいここ、ちゃんとwifiが使えるじゃないか。お前は?ネット利用できないのか?」




「できますけど、節約のため普段は繋いでません。情報が際限なく入るのも面倒臭いし。各企業からの宣伝メールや、私の製造メーカーからのお知らせも多くて鬱陶しいので。メンテナンスメンテナンスってうるさいんですよ。」




「なるほど。賢明だな。」




ハチロクはタブレットで「しらす丼」を検索して、画像をラスティに見せた。




「ほおほおほお!これは小さな魚がたくさんご飯の上に乗っかっている?こんなにたくさんの小さな命が、一つのどんぶりに入っているのですか?」




「そうだよ。」




「これは・・・・素晴らしい。有機生命体の生命を、高等機械生命体であるこの私がこんなにたくさん、一度に摂取できるとは。しかも柔らかくて良いエネルギーに変換できそうです。ぜひこれを食べたいです。わたし。」




「よっし!決まりだな!」




ラスティの機嫌が直ったようでハチロクはホッとした。




「ところで、ハチロクさん。」




「ん?なんだ?」




「人探しの旅だって言ってましたが、なんでその人探してるんですか?生き別れた兄弟とか?クーさん、でしたっけ。」




「ああ。」




「なんでその人探してるんです?」




ハチロクは笑顔で答えた。




「世界を救うのさ。」








END


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