第5話


「セカイを・・・?」


「そう。」


「どういう意味です?地球を?それとも何か別の意味で?自分の心の中の問題とか?」


「いや、そんな深い意味じゃない。なんていうか・・・・・。そうだな・・・・。」


ハチロクは少し考え込んだ。


「今は戦時中だ。」


「はい。Z星人との星間戦争中ですね。」


「そう。そして、俺は人の嘘がわかる。」


「は?はあ。」


「嘘をついている人間は見ればわかるんだ。」


「はい。あのう、わざと聞き間違えするボケを言ってもいいですか?」


「ボケ?ボケとツッコミのボケ?お笑い用語の?いま?」


「はい。思いついたので。『ついている』にかけて『ついている』関連で。」


「んーーーーー。今は遠慮してくれるかな。」


「はい、了解いたしました。」


ビシッと敬礼してラスティは答えた。少し気が削がれたが、「ヴッヴん!」と咳払いし、ハチロクは続けた。話を戻さねば。


「嘘ってのは必要な時もあるが、嘘が蔓延してしまうとこの社会は崩壊する。形骸化されたシステムは残されたまま、そこに生きる者達はお互いに信用できず、心がいびつになり苦しみと悲しみだらけになってしまう。」


「はい。人間がお互いの情報認識能力が低いということを良い事に、コミュニケーション手段の一つとして虚偽の申告や自己欺瞞を駆使し、かえって問題が複雑化する、とういう問題点があることは理解しています。」


「おお、そうだ。その通り。自分に都合の良いように自分を語り、問題を語り、事象を語る。」


「ホント人類て浅はかですよねえ。」


「うん。そうなんだ。そして、Z星人の第二波が来るってことは知ってるよな。」


「はい。なんでも半年後に・・・もうあと5か月後ぐらいですか。またやってくるとか。今度は前と違って完全武装の攻撃戦艦が何百隻もやって来るので、今度こそ地球はおしまいだとか言われてるようですね。」


「そうなんだ。そこで、だ。お前、今地球人が第二波を迎え撃つ有効な手立てを講じていると思うか?」


「ええっ?!世界各国で協力して計画を立ててるでしょ?何もしてないって事はないでしょう?」


「まあ、普通そう思うよな。」


「国連とかNATOとかNASAとか・・・・・」


「そうだよな。うん、凄い戦力の国や組織もあるし専門家達もたくさんいるしな。誰か頼りになる頭の良い人間達が、戦争の準備を着々と進めてくれている。と、普通なら考えるよな。」


「違うんですか?」


「嘘なんだ。」


「え?どどどど、どういうことです?うそ?とは?」


「うーーーん。どこかにまだ俺の知らない組織とか計画とかあれば別なんだが・・・・。」


ハチロクは説明を続けた。


「『対Z星人』について、テレビやインターネットで各国首脳が演説をしているのを片っ端から見たんだ。対策の内容も調べた。新兵器の発表や新戦略、作戦なんかもな。とにかく自分の足も使って、あちこち行って調べてみた。他国にも行ってみた。会ってくれるなら実際会って、話を聞いてみたりした。門前払い食う事も多かったけどね。2年ぐらいそんな事をずっとやってた。」


「それはそれは。大変そうですね。」


「うん。実際大変なんだ。何度も逮捕されたり逮捕されかけたりして大変だった。他国ではスパイ容疑をかけられたりして。第一波直後に旅に出て、もし第二波が来たらどうするか、と話して回った。第二波が半年後に来ると聞いたのはその旅の最後の頃だった。」


「うわ、それは大変ですね。」


「まあ、余談だがその頃、色々訳あって俺には指名手配もかけられている。何か国も。」


「えっ!!」


「この国でもな。」


「げっ!!マジすか!」


「余談だがな。」


「いやいやいや!それ大事ですよ!全然余計な談話じゃない!えー、ワタシ指名手配犯と一緒に旅してんですかー?あーだから今時珍しく現金払いなんか選んでたんですね。世界中どこ行っても官憲に追われる身なんですか?なんか嫌だなー。」


「官憲て・・・・・まあまあ、お前も人の事言えないじゃねえか。そこはいいだろ。続けるぞ。」


「良くないけど、どうぞ。」


「うん。でな、驚いたことに、みんな嘘をついてるんだ。」


「ええええええ。」


「『Z星人対策』『作戦』『新兵器』とか、新しい国際協力体制とか、語る者達がみんな嘘をついてるんだよ。特に、『必ず勝つから協力を』って言ってる連中な。第二波に勝てるとは誰も思って無いんだ。思って無いのに徴兵したり徴収したり増税したり建物接収したりしてるんだよ。世界中で。『昔のハリウッド映画みたいな大逆転の作戦を準備してないはずが無い』という考えを常識のように広め、その実何もあてが無い。というのが事実だと思う。」


「え・・・・・・、ええええええ!!!??」


「驚くよな。でも、第一波の時、地球側の攻撃は何一つ通用しなかった。Z星人側内部の反乱でZ星人の艦船が壊滅して収束したんだ。地球側は軍事大国を始め、どこのどの兵器も通用しなかった。急にその状況が変わると思うか?突然、科学力が向上することがあると思うか?」


「む、難しいでしょうね・・・・。」


「そう、みんなそう思ってるんだ。そして世界の指導者達はみんな嘘をついている。俺はな、嘘つきが嘘をついている時、必ずわかるんだ。為政者達が今、Z星人第二波対策について語る時に必ず嘘をついてるんだよ。」


「うわ・・・・・。」


「半年後、地球は壊滅する。多分、中世時代ぐらいまで文明は後退するだろう。為政者や富裕層なんかは、Z星人の攻撃の際一時的に地球から脱出する計画でも立ててるんだろう。圧倒的に科学力で負けている文明と全面的に惑星間戦争するより、少数で逃げた方が安上がりだし現実的だからな。」


「じゃあ、ハチロクさんは・・・・?」


「うん。この未来をなんとかしたいと考えてる。俺が間違っている事を願いながらな。」


「具体的には?なにか計画はあるんですか?」


「今、口にするには途方もない事だから・・・具体的な事はまだ何も言えない。そんなことありえないと笑われても、今はその通りだ。だから、今はまず人探しだ。クーに会えなければこの計画は何も始まらない。まず、クーの生存確認からだ。」


「なるほど・・・・・。雲を掴むような話、というのは正にこのことですな。」


「なんかちょっと違う気がするなあ。あ、おいラスティ、他言するなよ。」


「はい。まあ、言ったところで誰も信じないでしょうね。『地球を救うつもりだ!』なんて。バカみたいに聞こえますし。」


「ふふふ。ホントにな。あと、垂れ込みもすんなよな。」


「懸賞金はかかってるんですか?」


「いや?それは無いだろうな。」


「じゃあ垂れ込みも密告もしません。」


「なんだ?俺が賞金首なら売ろうってのか?」


「いやいや。しませんしません。命の恩人ですから。ポリ公どもにハチロクさんを売ったりしませんよ。それにさっきハチロクさんも言ったように、私もさんざん悪事を働いたんですよ。どこかで私の映像も抑えられているかもしれません。私も指名手配されててもおかしくないです。」


「ポリ・・・・はははは!そうか、そうだな。お前もスーパーバッドアスロボだもんな。じゃ、お互いワル同士。これからもよろしく頼むぞ。」


「お任せください。ところでハチロクさん。」


「なんだ?」


「急にすごくしゃべりましたね。」


「おっ・・・・、」


確かに、しゃべった。ここ数年ずっと頭にあった事を一気に喋った。ハチロクは少し気恥ずかしい思いがした。ラスティのとりとめのないおしゃべりには適当に相槌を打って、あまり長い会話はしなかったが、自分もかなり話し好きのようだ。


「そうだな!急にしゃべったな!ははははは!!」


「ははははは!」


二人ともシャワーを浴びさっぱりすると、また身支度をした。ラスティは小躍りしている。ボックスを踏んでいるのか、四角を描いてリズミカルに鼻歌を歌っている。よほど楽しみなのだろう。


「では、しらす丼を食べに行きましょう!」


「おう!」


二人は連れだって宿を出た。受付の老人がうさんくさそうに見ていた。ハチロクはスマホで店を調べ、良さそうな店を何軒か見つけた。ラスティはずっと小躍りしながら鼻歌を歌っている。


「よし、実際に何軒か見てみよう。」


「ひゃっほー!レッツゴー!!」


ラスティはいつものようにペラペラとしゃべりながら、ハチロクの周囲をチョロチョロ動きながら付いて来る。


「ハチロクさんって名前、数字ですよね。面白いですね。私が高性能とはいえロボットなのに、『ラスティ』という名前をいただき、人間であるあなたは数字で『ハチロク』とは。8と6ですか?由来はなんですかね?由来といえば、『羊羹』の由来知ってます?昔、羊羹が渡来した時に、羊の肉と間違えたって話らしいですよ。不思議ですよね?現物見ずに目録だけみてたんですかね?」


「へええ。ラスティさんは物知りだなあ。」


三軒ほど見て回り、気に入った店に入ることにした。ラスティが興奮し始めた。


「ふふふふ!いよいよ私が有機生命体を征服する時が来ましたね!命を!生命を!このワタシが!ふはははははは!!」


「なんか、悪の組織の首領みたいだな。はははは。おい、店の前で騒いでいると迷惑だから、早く入ろうぜ。」


「ふはははっ・・・・・。はい!」


二人は入店した。その頃、少し離れた街道を走る車群がいた。たまに通る対向車線の車も脇へ避けて彼らが通り過ぎるのを待った。車群中央に巨大な4WDが走っている。その荷台に特別にあしらわれた座席に、甲冑姿のリーダーがふんぞりかえって座っている。スマホに向かってどなっている。


「だ~か~ら~!今言った物を全部用意しとけって言ってんだろ!ひとつでも欠けてたらてめえの街、どうなっても知らねえぞ!俺は良くてもな~、どこかのボケに攻撃されて、今部下共がイライラしてんだよ!暴れたがってるから、俺の言うこと聞かねえかもな!街が滅茶苦茶になってもいいのか!?いいな!わかったな!」


プッとスマホを切る。


「クソが・・・・・・。」



「何者か知らんが、ロボットをおとりに、アース天狗党を攻撃したあのクソ野郎。絶対に許さん!」


拡声器を取って、周囲に命令を出した。


「おらあ!てめえら!次の街で『仕事』だあ!!気合入れろおっ!!」


「おおおおーう!!!」


車群は気勢を上げ、一丸となって街へと近づいていた。





END

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