第3話
コンビニや雑貨店、お土産品店など無人で放置されていた。どこも略奪の後だったが、菓子パンやお土産物のお菓子などが結構残っていた。口にして危険そうなものは取らずにおいて、缶詰や真空パックになっている物など日持ちする物を選んだ。それらを持てるだけ手にすると、手ごろな廃屋を見つけ上がりこんだ。驚いたことに、ラスティは本当にクッキーぐらいなら嚙み砕いて食べることができた。有機質の保持のため、いくらかそういった物を摂取する必要があるようだ。排泄の必要は無かった。そこの家に電気は通ってなかったが、ブレーカーを入れると使用できた。久しぶりに暖かいシャワーを浴びて、ハチロクもホッとした。ラスティもシャワーを浴びたがったので、浴びせてやった。子供のようにはしゃぐラスティを見てハチロクも笑った。錆は取れないが、汚れを落としてコーティングスプレーを吹きかけてやった。これでこれ以上錆びる事はないだろう。お土産物の菓子やクッキー、ソーセージにハム、ぬるい地ビールで腹を満たすと二人はその日、ぐっすり寝て休むことができた。
翌朝、ペットボトルの飲み物やお土産物や漬物だのソーセージなどをたんまりリュックに詰め込んで、二人は廃屋を出てまた街道へと向かった。
大通りへ向かっていると、車の集団がこちらへ向かって来る轟音がした。ハチロクは少し高台へ上がり、音のする方を確認した。
「まずいな・・・・。」
派手な旗を振り回しながら、車やバイクの集団がこちらへ向かってくる。「アース天狗党」と大書された大旗を振っている。他にも「愛国」だの「男気」だの「愛地球」だの書いてある。第一波後、世界中で民族主義が乱立し、秩序を乱して暴れていた。そんな集団の中の一つだろう。世界中どの集団も、地球を守ろうというスローガンの元集まり、その後外国人排斥やヘイト犯罪に走っていた。大馬鹿者の集まりにしか見えなかったが、ハチロクは警戒した。危険極まりない連中なのはパッと見でわかる。
「天狗党って・・・・・。」
水戸天狗党から取ったのだろうか。本家も悪い評判しか残さなかったが、100年以上前の悪党集団から名前を取るその根性もセンスも気に入らなかった。
寂れた観光地で暴れようというのか。ああゆう輩には関わらない方がいい。彼らの目につきそうな場所を迂回して進むべきか、と考えているとラスティがピョン!と側までやってきた。
「ハチロクさん、彼らの車、一台失敬しませんか?」
「ん?そりゃ危険だろう。」
「しかしあんな迷惑パレードする連中から盗むなら、良心の呵責も無いでしょう?任せて下さい。私、ちょっと行って車回しますから、ハチロクさんあの大通りと街道の交差する海のそばで待っててください。」
「いや待て、ラスティ危ないって、おい!」
「大丈夫大丈夫!ははは、それーー!」
あははははっと楽しそうにラスティは坂を下って行った。
「他人の話を聞かない奴だな・・・。仕方ない。」
ハチロクは慎重に進んで、車の集団から身を隠しながら近づいて行った。もし見つかっても逃げられる余裕を考えて距離をとった。集団は、町の広場、さっきラスティが言っていた大通りと街道の交差点にある大きな広場に集まり次々と車やバイクを止め、マシンから降り始めた。車が20台、バイクが32台、総勢100名ほどか。これは敵に回すと面倒だ。意外と年配の者が多い。若い頃にヤンキー憧れをこじらせたまま年を喰ってしまった中年デビュー、老年デビューと呼ばれる手合いだろう。若い者と年配の者が丁度半々、ぐらいのようだ。木刀や鉄パイプなどを振り回す者も目立った。「イエー!」「ヒュー!」「うおー!」口々に叫びながら店舗を破壊し始めた。店のショーウィンドウやショウケースを叩き割るガシャーン!パリーンとすごい音がする。破壊と略奪が始まったようだ。
あと5か月もしたら地球は滅亡する。今までの抑圧から放たれやりたい事をやってしまおう、となった時に集団で徒党を組んで暴れる。という方法を選んだ者達だ。ハチロクは腹が立ってきた。
「あ・・・・」
ツツツ~、と小さな丸い物が車やバイクが集まっている場所へ向けて動くのが見えた。
「ラスティ。」
たくみに放置自動車や路上配電盤などを利用し、障害物をすり抜けながら連中に近づいて行く。車のボンネットに腰掛けてビールを飲みながら談笑しているグループの一人がふいに振り返ったが、ラスティは絶妙のタイミングでササっと街路樹の影に隠れた。
「うまいな。」
ハチロクは笑ってしまった。
「あいつ、場慣れしてる。」
笑っている場合じゃなかった。ハチロクも急いで移動した。だが、あの場から車を盗んで抜け出すのは容易ではないはずだ。ハチロクは考えた。
「ラスティ、お前の作戦、少し修正するぞ。」
信用しない訳ではないが、車を盗んで走り出し、ラスティの言ったようにすぐそこで乗り込むような余裕は無いだろう。別の案が必要だ。
町で破壊と略奪を楽しむ者以外にも、車のところにたむろして騒いでいる連中も多く広場は騒がしかった。
ラスティはblue toothを飛ばして周囲を探った。反応が少ない。こんなに自動車があるのに。旧車が多いからだろうか。電子錠を備えた車は少ないようだ。しっかり反応した自動車に忍び寄る。自動車の下に入り込むと早速解錠した。アラームは鳴らない。周囲を警戒しながら這い出し、アームを伸ばしてドアを少し開けると素早く乗り込みまた閉める。閉めた時の音が大きかったのでまた周囲を伺った。注意は引かなかったようだ。なんと、今時ボタンやリモコンではなく鍵を差し込んでひねるタイプのスターターだ。アームの先端を精密作業用に変形させる。
「ふふふ、ラスティ様をなめるな、よ、と。」
アーム更に二本出し、アクセルとブレーキまで伸ばして上に置いた。変形可能にしたアームをエンジンキーの鍵穴に差し込むと、内部で再変形させて手ごたえを掴む。ひねってエンジンをスタートさせた。ブオン!と一度噴かした。アイドリング状態になった。ハンドルを掴み、ギアをRへ変えススっと動かした。
たむろして酒を飲んでいた連中の一人が、車が動き出した事に気づいた。運転席に人影が無い。無人の車がバックしているのを不思議に思いボーっと眺めていたが、方向転換して走り出した時に、はっと気づいた。
「おい!あれ!」
一斉にそちらを見たが、彼らには運転者が見えない。全員固まって車を見ていた。
「あれ、誰の車だっけ?」
「え?ああ、確かタカのじゃね?」
そこへ、当の本人が両手のコンビニ袋一杯に酒を持ってきた。
「おーい、みんなお待たせ。かっぱらって来たぜー。」
「タカ、お前のくるま・・・・・。」
「はあ?」
みんなが指さす方向を見ると、自分の車がゆっくり車止めを乗り越えて自分から離れて行こうとしている。道路までゆっくり走っていたが、道路に出た途端スピードを上げた。無人にしか見えないが、どこからか「キャッホー!!」と声が聞こえた。
「おいおいおいおい!!」
持っていたコンビニ袋を全て落とし、いくつも缶が破裂してブシューと噴き出した。タカと呼ばれた男は慌てて喚きながら走り出した。
「俺の車が!おい止まれ!止めろ!誰か止めてくれ俺の車!」
仲間達は彼を眺めていたが、その周辺にいた20名ほどが事情を察し、急いで車やバイクに乗り込んだ。次々とタイヤを軋ませ発車する。その他の者達が何事かと近づいてきた。数名残って説明している。詳細は誰もわからなかったが、とりあえず仲間の車が勝手に走り出した、盗まれたかもしれない、ということは伝わって大勢が自分の車やバイクへ乗り込み、次々と後を追った。
「なにぃ~?ふざけた野郎だ!天狗党に手を出して無事で済むと思ってんのか!おい!お前ら、とっ捕まえてぶっ殺すぞ!」
ガチャガチャと古めかしい具足を身に着けたリーダーらしき大男が右腕を振り回し号令したことで、ほぼ全員がラスティを追って出発した。
砂ぼこりのつむじ風がいくつも舞い、あとはガランと空いた広場に、既に酔っ払って座り込んだり寝そべったり、薬でも決めてしまったのか興味無さそうにボーっと眺めていたりする者が数名残っていた。
ハチロクはそこへゆっくり出て来た。1000ccの走りやすそうなバイクに近寄る。ハーレーだった。キーが刺さったままだ。タンデムシートに大きなサンドバッグ式のバッグにキャンプ用品が高々と積み上げられて縛り付けてある。近くに酔っ払って座り込んでいる男がいた。周りに酒瓶がいくつも転がっている。ハチロクは何本か見繕って拾うと自分のリュックに入れた。そしてハーレーのタンデムシートから大きなバッグとキャンプ用品などを降ろし、自分のリュックを軽く留めた。男に近づき軽く頭を足で小突いた。
「おい、あのバイクお前のか?おい。」
小突かれた男はつらそうに顔を上げると質問の意味を考えた。
「あ?ああ。あ?ああ、そう。そうだ。あれは俺の・・・・は?なんだお前?」
「悪いな。いただくぞ。」
バイクにまたがりエンジンスタートさせるまで、何を言われたか理解していなかったようだが、気が付いて喚きながらヨロヨロと掴みかかって来た。
「俺のバイクをなにしやがるら!おりろれ!おまえられらろれ#@*&!!!」
ハチロクは無視して発射し、方向転換して男の腹を蹴り飛ばした。バイクのスピードも乗っていたので、男は4~5メートルは吹っ飛んだ。ハチロクはラスティを追ってスピードを上げた。
「ひぃいいえええええ!!」
ラスティは悲鳴を上げながら車を必死で走らせた。車を奪取して交差点まで行った時、自分の見立てが甘かった事を悟った。ハチロクは居なかったが、ハチロクが居たとしても、彼を乗せるため一時停止などできない状況だった。追いまくられて必死で逃走した。天狗党の連中は、これが仲間の車だということもお構いなしで攻撃してくる。横並びになった車がガンガン当たってくる。木刀や鉄パイプでフロントガラスをバンバン叩かれ、ヒビだらけになって前が見えなかった。もう一度鉄パイプがフロントガラスを突き破ってきて剥がれ落ち、前が見えるようになった。天狗党の連中も、最初は無人の車が走っていることで、何か得たいの知れないものがいるのかと恐れていたが、ハンドルにしがみ付いているラスティを見て笑い出し、遠慮なく攻撃をしてくるようになった。
「たあすけてえええええ!!」
アクセルを目いっぱい踏み込みながら、ラスティは叫んだ。
END
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