資源開発省

 ついに到着してしまった。エントランスをくぐり抜ける前から自分に気合を入れて背筋を伸ばしキビキビとした行動で受付へと向かう。受付嬢と目が合ったが逸らされた。そのまま構わず目が合った受付嬢の前に行く。


「本日から資源開発省でお世話になる者ですが、こちらに伺うよう聞いているのですが・・・」


受付嬢はこちらをちらっと見てすぐ手元の資料に視線を戻した。億劫そうに質問の答えが返ってきた。


「あー話は聞いています。新人少尉が本日から配属されると、えーとあれ?なんか直接執務室にくるようになっているので、そこへ向かって下さい。右手のエレベーターにのって最上階です。」


 受付嬢は、しっしっとハエを払うようなしぐさをするとまたすぐ手元の資料に視線を戻した。これでよく公的機関の受付嬢が勤まるなと逆に感心すると指示された場所へと向かった。エレベーターへと向かいながらエントランスを観察したが閑散としていた。一般の人が用があって訪れるような場所ではないからだろう。エレベーターが到着するまで待っていると背後から足音が聞こえてきた。ちらりと見ると金髪の少女がこちらを睨んでいる。慌てて視線を反らし正面を見た、だれ?知らない人だよな?そんな事を考えているとエレベーターが到着したので乗り込む。最上階のボタンを押して少女に何階ですかと訪ねた。


「・・・・・・そのまま」


 そのまま?なるほど行き先は一緒だと。となると可能性は2つ、上司、または同期の可能性だ、上司はこの見た目の少女だ、まずないだろう。となると同期になるが?ちらっと彼女の顔を見る、やや幼さの残った整った顔立ち、世間一般で美少女と言われる部類に入るだろう(俺の守備範囲外だが)だが軍学校にこのような同期はいなかった。となると一体何者だ?そんな事を考えていると最上階に到着した。エレベーターを出ると彼女はそのまま何処かへ行ってしまった。とりあえず執務室へ行こうと部屋を探していると扉に書いてあった。クロトの執務室♡なんかすごいノックしたくないと葛藤したが、意を決してコンコンとノックした。部屋の中から女性が入るよう促す声が聞こえてきた。


「失礼します、本日から資源開発省に配属となりました。よろしくおねがいします。」


 入室と同時に軍式の敬礼をし、頭を下げ徐々に正面を見ていくと人目で高級品だと分かる本物の木材を使用した執務机の席に座っていた人物が見えてきた。彼女は人懐っこい表情をしながらこちらを興味深そうに見ていた。


「あらあらあらあら、ふふふ姉さんから聞いていたとおりイケメンさんねぇ。ようこそいらっしゃいました。資源開発省はあなたを歓迎いたします。本当は色々事務作業があるのだけど後でいいでしょう。それよりあなたの顔をよく見せてください」


 彼女が近くまで近づきマジマジと見られる。なんだこのプレイっと恥ずかしい思いをしているとふとさっきの言葉を思い出した。姉さんから聞いていたとおりっと、ということはこの人もしや腐れの姉妹か!


「もしやと思いますが、シスターの姉妹ですか?少しシスターの面影があり美人な人だなと思いましたが。」


彼女は俺の発言が面白かったのか笑い出した。そんなおかしなことを言ったつもりはなかったのだが?


「ええそうよ、孤児院のシスターが私の姉ね本当の姉妹ってわけじゃないんだけど私達はそういう設計コンセプトを元に開発されたのよ。だから外見も少し似ているわ、あと一人姉妹がいるのだけど、まぁこの話はまた今度ね。それじゃあそろそろ仕事の話を始めましょう。貴方いえ少尉はこの資源開発省が具体的になにをしているところなのか理解している?」


 首を傾げた資源開発省は、方舟で使用する各種資源の採取を目的として設立されたはずだ、実際資源開発省の広告映像などもそれを謳っている。一般に知られている事以外になにかあるのだろうか?


「困惑しているようね、あなたも知っているでしょうが資源開発省は、方舟で使用される資源の発見、採取を目的としています。これは広く知られています。ほとんど知られていませんがもっと重要な任務があるのです。それは、奴等がどこで生産されているのか突き止めることなのです。奴等いえ正式名称 魔導機械生命体ウォーカー達がどこから現れたのかまだ分かっていません。ですが、ウォーカー達の死骸を採取したところ一部を除いてこの世界にある物質で構成されているのは確認できました。これは、ウォーカー達、魔導機械生命体がどこかで作られている証拠です。」


 奴等、ウォーカー達は様々な種類がいる。なぜそれほど多様性に溢れているのかいまだに分かっていないが、ただ一つ確実に分かっているのは、人間を敵視していることだ。軍学校で過去の戦闘映像を見たがウォーカーの心臓部であるクリスタルを破壊しない限りこちらを殺そうと動き続ける、どれだけ身体を破壊されようと虎視眈々と機を伺っているのだ、実際、戦闘映像では、クリスタルの破壊を免れたが身体がボロボロのウォーカーが近くを通ったレイブンに襲いかかって手傷を負わせていた、クリスタルを破壊しなければ決して安心できない化け物だ、そんなウォーカーがこの世界のどこかで作られているという話は正直驚いた。


「驚いているようね、誰でも驚くはでもこの話しを一般に広めることはできません。むやみに今の秩序を乱すことになるからです。それは、ノアも望んでいないわ。だからあくまで資源開発省でも一部の関係者しか知らないようになっています。くれぐれも口外しないように。」


 なるほどと頷く、今方舟の中は安定しているのは、間違いない。人口も順調に増えウォーカーによる襲撃もここ数十年ない、人々はこの方舟が出来た200年で環境に適応し新しい統治機構に慣れた。今の生活が当たり前になっているのだ。それを無闇に壊す必要はないだろう。だがなぜそんな重要機密を俺に教える?


「とても驚きました。ですがよろしいのですか?私のような新米に教えてしまって。人の口に戸は立てられぬといいますし、教えなくてもよかったのでは?」


 クロトが苦笑いを浮かべながら答えた


「どうせほとんど次の日に死ぬのだから死ななくても戦場でのストレスで常人は精神に異常をきたすから誰も話をまともに聞かないのよ、だから教えても問題なし」


 これには俺も苦笑いを浮かべた、事前に聞いていた資源開発省の話よりハードな業務になりそうだ。ルミス、お兄ちゃん明日生きて帰れないかもしれない。トホホ


「暗い話しはこれまでにしましょう。少尉には明日から業務に携わってもらいます。今日は、少尉の部隊メンバーとの顔合わせ、ミーティングをしてもらいます。あとこの施設の案内などをしてもらいなさい。じゃあミーティングルームに移動しましょう。全員揃っているはずよ」


 








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