孤児院

 孤児院は、3大企業が出資し運営を行っている慈善事業だ。親を亡くした孤児を引き取り育てている。自分の意識が芽生えた時には、この施設で生活をしていた。施設が出来たのがいつ頃なのかわからないが、外観はまだマシだが中はボロボロだ。今まで育てたクソガキ共がした数々の悪行のあとがそこかしこに残されている。ちなみに俺も残した。今でもシスターの悲鳴が鮮明に思い出せる。愉悦、非常に愉悦


「う~ん相変わらずボロい。実に愛着が湧く」


孤児院の正門前で外観を見ながらブツブツ呟いていると、入り口から幼女が顔を出してこちらを見ている。俺だと気づいたのだろう。顔をへにょんとさせて猛然と俺に向けて駆け出した。


「あんちゃんおかーえりー!」


我が義妹、孤児院の麗しきプリンセス、ルミス!そんなに走ったら転んでしまうぞと心配していると案の定駆け出した勢いのまま自分の目の前で躓いた。彼女が生み出した運動エネルギー全てが彼女の頭頂部に集約され狙いすましたかのように我が愛しきマイサンへ向けて飛び込んでくる実に完璧な角度だ!。この天才的頭脳を使って回避方法を計算したが今から回避行動をしても間に合わない、ここはマイサンを犠牲にしてルミスが怪我をしないよう受け止めねば。


「ただいまルミぐふぁーーーース」


男は耐えねばならぬ時があるのだ。ルミスに頼りないお兄ちゃんの姿を見せられない。うぉーーーーーー!無理!想像以上の痛みが全身を襲っている。俺はその場に崩れ落ちた。ルミス!お兄ちゃんを木の棒で突くのやめなさい。


 痛みを堪えてなんとか立ち上がり、そばにいるルミスの頭を撫でた。こそばゆそうに身を捩り振りほどいて手を繋いでくる。


「ルミス今シスターは居るかい?ちょっと大事な話があるんだ」


首をコテンと可愛らしく傾げながら顔を上下にコクコクと動かしている。


「今お姉ちゃんお祈り中だよ〜教会にいるよ〜」


お姉ちゃんという言葉に引っかかりを覚えたが、とりあえず二人で教会部屋へと向かった。




 一心不乱に神へと祈りを捧げている彼女、傍から見ると聖女ようだと人々は見るだろう、そんな彼女の口元からぶつぶつと呪詛のような言葉が出ているとは誰も思うまい。  


 「もうなんであそこで穴が飛び込んでくるのよ!2−5をボックスで買っておけば良かった、そしたらいまごろ推しメンのところに飲みに行ってたのに!もう神様たまには御加護をください!この役立たず!」


 本当にシスターなのかと思うほど俗物に塗れている。俺は部屋の扉からシスターを冷めた目で見ていた。この女また孤児院の運営費に手を付けたのではなかろうか?処す?このシスター処す?

 欲望全開で神に愚痴を言っているシスターの背後取り、頭を鷲掴みにする。このまま潰して床に投げ捨てて赤いシミにしてくれようか。


「シスターただいま、何?また賭け事したの?処されたいの?とりあえず1回赤い染みになろうか」


万力ように徐々に力を込めていくシスターがどんなに暴れても決して離すものか!!ちねーこの腐れ聖職者!


「イダイイダイ!マジ潰れる!ミシミシ耳の奥から音してるって!してないしてない天地神明に誓って賭け事してないから離して〜」


 この腐れ聖職者まだ嘘を言うか!と更に力を込めようとした瞬間いつの間にか俺から離れて対面していた。くっ不覚潰しそこねたかと思っていると腐れがこちらを見ながら微笑んでいる。


「おかえりなさい、どうでした?無事に配属先決まりました?私はこうして神にあなたがいい配属先になるよう祈っていたのですよ。ふふふ私のおかげですね!」


 俺はハッと息を呑んだその瞬間察したのだ、眼の前でドヤ顔をしながら鼻をふくらませているこの腐れが全ての元凶だったのだと。怒りで全身が震えていると腐れの眼の前にルミスが入ってきて両手を広げていた。


「あんちゃんダメだよ〜今日は、とってもいい日なんだよ〜みんなであんちゃんのために準備したの!ねぇ〜お姉ちゃん!」


「そ、そうですよ、あなたが今日孤児院に挨拶しにくると手紙で知らせてくれたからみんなで食事の準備をしたのよ。さ、さぁ食堂に行きましょう」


 二人から両手を掴まれて食堂に向けて歩きだした、隣で歩いているシスターから小声で話しかけられた。


「私に大事な話があるのでしょう?あなたの顔を見たらすぐに分かりました。でも今はみんなであなたのお祝いをしたいのです。あとで私の執務室で話をしましょう。」


 それから孤児院のチビ達が飾り付けをした食堂で俺の配属先が決まったお祝いパーティーをしてくれた、普段は食べられないような食事をありつけてチビ達がとても喜んでいるその姿を見れて正直嬉しかった。出世してもっと美味しいものを食べさせてあげよう、もっといい服を着させてやろう、もっと、もっと、そのためにも必ず生きて帰って来なければと決心した。



 執務室でシスターは通信映像を前に話をしていた。相手はわざわざ秘匿回線を使用し連絡をしてきている。


「誰かと思ったら久しぶりですね。ノアあなたが連絡をしてくるのはいつぶりでしょうか?どうせ彼の事でしょう?随分思い切った事をするのですね。どういうつもりですか?」


ノアが表情を変えることもなくことの経緯を説明した。


「なるほどそれで彼をあそこに配属したのですね。私は正直あなたが正気を失ったのではないかと思いましたよ、話はわかりました。これから彼と話があるので失礼させてもらいますね、ええ分かっています、それでは」


 通信を切りふぅっと息を吐き出すとちょうど扉をノックする音が響いた。気持ちを切り替えてどうぞと声をかける。張り詰めた表情をした彼が入室してきた。ソファーへ座るように促す、どちらから言葉を発すことなく静寂だけがその場を支配した。彼が言葉を発しようとした時シスターが先に話を始めた。


「あまり思い詰めなくてよいのですよ?資源開発省でしょう?配属先になったの。あそこは確かに過酷な場所です。ですがあそこに常駐しているレイブン達は非常に優秀な個体達です。よほどのへまを貴方がしない限り命の危険になることはないでしょう。それに私の姉妹がいます。何かあったら頼るといいでしょう。話を通しておきます。」


 彼が驚いた表情をしながらこちらを見ている。だが次第にその顔に影が差し落ち込んでいるようだ。彼がポツポツ話し始めた。


「俺がガキの頃からシスターの姿がずっと変わらないから人間ではないだろうとおもっていた。配属先の情報がリークされることは上級貴族にもない。されていたらフラムが知っていたはずだからな。そうなるとシスターは上級貴族より上に立つ存在になる。この方舟でそんな存在は一握りしかいない神話級レイブンだ」


やはり彼は頭の回転がはやい、少しの情報で私の正体を見破いてくる。だがそれならなぜ?なぜそんな暗い顔をしているのだろうか?私のような存在がバックアップすると言っているのに。


「今なぜ俺が暗い表情をしているのだと思っているだろう。よく考えてほしい普段から孤児院の運営費を横領し、その金でギャンブルをして夜な夜な男の店に飲みに行くそんなシスターの姉妹がいるから大丈夫だと?不安しかないわ!」


「うわー明日から仕事なのに余計に不安になってきた。もういい!寝る!じゃあな腐れ聖職者俺がくたばらないように祈ってろ」



 彼がげんなりとした顔で退室していった、私は窓から月を眺めながらふぅと息を吐き出す。身から出た錆かと黄昏れていそいそと出掛ける準備をする。さて今日も飲みに行きますか!



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