第62話 ルミ野郎
『この速度で走っていけば後十五分ほどで敵に出会しますね』
「おっ意外に早かったな」
『ふふっ時速何キロで走っていると思ってるんですか』
「ん? 六十キロくらいか?」
『その倍ですね』
「マジか!」
我路から聞いて、マジでびっくりした。倍ってことは百二十キロって事だろ? 体感的には、そんな速度で走ってるつもりは全くなかったら、驚きだ。
俺もなかなか成長したもんだなと。
毎日の我路の厳しい鍛錬に耐えて頑張った成果が出てる。
それは嬉しい事なんだが。
あと少しであの胸糞悪い爺さん達にまた会うことになる訳で……。
……はぁ。
こんなにも嬉しくない再会があって良いものか。
『らんどーちゃま! ワレは今回もやってやるでちよ? ワレのマッスルパンチが火をふくでち』
我路に抱えられた琥珀が、ファイティンングポーズをとりパンチをくり出す。
『しゅっ! しゅしゅっ』
「それは……キタイシテルゼ」
『任せるでち! ドゴッ! グガアアッ! っとかましてやるでち』
強そうなソレっぽい音を口で言ってるけど、効果音はポニポニだと思うがな?
『見えてきましたね。この辺で待ちますか』
「おっ、あれか!」
我路が指差した先で土煙が上がっている。すごい勢いで走って来ているからだろう。
俺たちの姿が目視できる所まで走ってきたら、勢いがピタッと止まる。
待ち伏せされた事に驚き対応を考えてるんだろうか?
まぁ、どんな対策を考えた所で今更無駄だと思うがな。
土煙がおさまると……見えてきたのは。
「あれは……サイ?」
『確かに見た目はサイのようですね。ですが召喚獣のようです」
「サイの上に乗っているのはルミ野郎じゃ……」
『そのようですね』
通常のサイの三倍近くはあるな。そんな大きな召喚獣の上にルミ野郎は誇らしげに立ち、こちらにゆっくりと向かって来ている。
その周りをツノの生えた馬の魔獣に乗った爺さん達が、ゾロゾロと後から来る。
やはり……あの距離感がバグってる爺さん達だな。
あの召喚獣はルミ野郎の? いやっそんな訳ないよな。
あいつの召喚獣は琥珀が全部奪ったんだからな。
じゃあ……あのサイは別のやつの召喚獣か。
『あれ!? 何でアイツがまた召喚獣を!? おかしいでち』
琥珀がルミ野郎を不思議そうに見ている。
———まさか? あの召喚獣はルミ野郎の?
「はははっ。まさか私たちをお前が迎えに来るなんてね。そんなに待ちきれないほどに会いたかったのかい?」
「……ソウデスネ」
ルミ野郎が高笑いをしながら俺を見下げてくる。くそう高い所から偉そうに。
「よく分かったな? 私たちが来ていることを」
「……本当にタマタマにしてはタイミングが良すぎる……」
爺さん達も何で俺たちがここで待ち構えていたのか不思議そうだ。偶然にしては良過ぎるタイミングだからな。流石にそこまで馬鹿じゃないか。
「お前達が来てるのが分かったから、俺から会いに来てやったんだよ。何の用だ」
すると爺さんが前に出て「それはもちろん、乱道様を迎えに来たんですよ。王都に戻ってもらうためにね」と言い放った。
はぁ……何を誇らしげに言ってるんだこの爺さんは。俺は嫌だとキッパリ断っただろうよ?
何でそれを再びオッケーして貰えると思えるのか、こいつらの脳内心理が全く理解出来ない。
「あのさ? だから嫌だと言っただろ?」
「ふふ……ですが今回は断れないと思いますよ?」
爺さんはそう言って不敵に笑うと、サイの召喚獣を見た。
よほどサイの召喚獣に自信があるようだ。
だがな? その召喚獣がどれほど強えのかは分かんねーが、我路には勝てないと思うぜ? 琥珀で再び奪っても良いしな。
などど考えていた次の瞬間。
「あがっ!? なっ何だこれっ……」
体の自由が効かない……!?
何だこの声は!?
サイから超音波のような音が……この音は嫌だ。
「乱道よ。私たちと一緒に王都に帰りましょう」
「………………はい」
———はっ!? 何で口が勝手に。
『乱道様!』
体が勝手に爺さん達の所に歩いて行こうとするのを、我路が引き止めてくれた。
『乱道様。これは魅了ですね』
———え?
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