第63話 魅了

 我路が止めてくれなかったら危なかった。

 命令されるがまま、爺さん達の所に歩いていっていた。

 魅了魔法恐るべし。

 だが我路に触れられたとたんパチンっと何かが切れ、頭がはっきりした。


 なんでだ?


『乱道様、私たち召喚獣にとって魅了は効果がありません』

「……そっそうか」


 我路が俺の心の声を見透かしたように、俺が今一番欲しい答えをくれる。

 有能執事というか……………怖え。


『乱道様。私はかなり腹が立っております。我が主乱道様を、魅了如きで操ろうとするなど……召喚獣如きが許すまじ。私を使ってください。切り刻んでやります。私を使っている間は魅了は効果がありませんので、何も抵抗出来ないでしょう』


 我路がそう言って微笑むんだが、味方の俺でも怖え。笑ってるのに怖え。


「ゴクッ……分かった俺に任せろ」


 なぜルミ野郎の召喚獣が、新たに復活したのかも気になるし、我路はサイの召喚獣に対して怒っている。

 ターゲットはアイツだな。


 俺は我路を抜刀した。


 次の瞬間俺の腕に、我路の魔力がとぐろを巻いて絡んでくる。

 相変わらずだが、すげえ力だ。

 刀を持っているだけなのにドンドン力が溢れてくるのが分かる。


「いくぞ我路!」

『任せてください!』


 刀を振り上げ、サイの体を斜め上から下に向かって一閃した。

 次の瞬間。サイの体がズズズッと横にズレ地に着いたかと思った瞬間、光の粒子となりサイ野郎の体は消滅した。

 なんとも呆気ない。


 ルミ野郎はというと乗っていたサイが急に消えて、ドスンっと地面に落ちてキョロキョロと辺りを見回している。


「え? なんで急に召喚獣が消えたんだ!?」

「はぁ? あのな? おバカなお前にも分かるように教えてやろうか? 俺がこの刀で消滅させたんだ」

「な? 何を言って? 召喚獣を消滅!?」

「そのままの意味だよ。お前のサイか? の召喚獣は俺が消滅させた。この刀でな」


 俺はそう言って我路をルミ野郎の顔前に突きつける。


「ひっ!」


 すぐさま爺さん達の所に走って行き、その背に隠れるルミ野郎。

 ったく。相変わらずの小者っぷり。


「で? 爺さん達は他に何か言うことは?」


 俺は我路の刃先をを爺さん達に向ける。


「ひっ! ヒィいいっ!」


 爺さん達は一目散に乗って来ていた馬の魔獣に乗り、ドタバタと来た道を戻っていった。



 ……何がしたかったんだよ。酷すぎないかこの展開は。


『なんという弱さ! この琥珀様に恐れをなしたでちね。しゅっ! しゅしゅっ!』

「ウン。ソウダナ」

 琥珀がパンチを繰り出す。気分はさながらボクサーって感じか。


 取り敢えずは、解決でいいんだよな。

 ……ったく。

 しつこい爺さん達だったぜ。


『乱道様、お疲れ様でした。中々の剣捌きでしたよ? 上達しているようで私は嬉しいです』

「そっそうか……それは嬉しいぜ」

『ただ……なぜルミエールが再び召喚獣を持てたのか、気になる所ではあります』

「確かにな」


 だって、ルミ野郎の得ていた全ての召喚獣を奪ったはずなのに、また新たな召喚獣を得ていた。

 きっとこの謎にも何かあるような気もするが……今日はもう疲れた。頭が考えることを拒否している。


「帰るか」

『はい』


 俺たちは下民街へと戻っていった。

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