第61話 幸せからの…

『おいちぃでちねぇ♡ 』

「うゆっ」

『キャウウン』


 下民街の広場に座り、ニコニコとケーキを頬張っている琥珀達。


 その周りには下民街にいた小さな子供たちも座り幸せそうにケーキを食べている。


『キャロってば良い仕事をするでちなっ』

「えへへ。気に入って貰えたみたいでボクは嬉しい」


 キャロと琥珀が笑い合う。


「キャロ。無償でこんなに沢山のケーキを振る舞って大丈夫なのか?」

「ふふふ。もちろんですよ。あんな顔して固まっている琥珀様をそのままにして置けませんし。それにボクの商会は、これくらいの事ではなんの痛手にもなりません。なんせ大商会ですから! ドンっと頼ってください」


 キャロはそう言って、誇らしげに自分の胸をポンっと叩く。


「そうか。ありがとうな。キャロのおかげで琥珀の機嫌も直ったし、子供達の幸せそうな顔も見れて良かったよ」


 ニカっと笑いキャロの頭をくしゃっと撫でた。

「ひゃっ! っ!」

「あっごめっ。つい」

 背の低いキャロの頭は丁度いい位置にあり、つい小さな子を撫でるように撫ででしまった。


「いえっ……びっくりしただけで。あのっ……もっと撫ででくれても良いんですよ?」


 キャロが長い耳をピクピクと動かせ目を閉じる。

 ええと……これはもっと撫ででくれってことでいのか?

 少しだけ優しめに、キャロの頭を再び撫でた。

 たまに指に触れるもふもふの耳の感触が何とも心地よい。つい耳を重点的に触ってしまった。


「あっ……ひゃうん」

「わっ! 変な声急に出すなよ」

「だっだってえ……耳は獣人にとってそのっ……性感帯でもあるので。ゴニョ……」


 ———耳が性感帯だと? 知らないとはいえ、もしかして俺は獣人に変態的なことをしたのか?


「あのさっ。ごめんな? 俺知らなくて……」

「いえっ。乱道様になら……ゴニョ…ボクは何をされても良いんだけど」

「ん? なんて? 声が小さくって聞き取れなかった」

「なっ、何でもないです!」


 キャロは慌てて琥珀の所に走っていった。


 ……変なやつだな。


「ん?」


 右腕が急に引っ張られたので、見てみると口の周りにクリームをいっぱい付けたミントが笑っていた。


「ミント? 口にクリームがいっぱいついてるぞ?」

「ええっ? あっ、あれえ?」

「あははっ拭いてやるからこっちきな?」

 

 ミントの口をタオルで拭きながら思う。

 なんか小さな弟が出来たみたいだな。俺には兄弟もいなかったから、こう言うの新鮮でなんかいい。


「あの……それでね? 僕はお誘いに来たんだ。良かったら今日は僕のおうちに泊まって欲しいなって。狭いんだけど……一緒にいたくって。だって乱道様は明日にはこの街をでちゃうんでしょ? そしたらもう会えなく……う」


 ミントが泣きそうな顔で嬉しい事を言ってくれる。


 このクソな王国に来てから、いい事なんて何もなかったけど、この街に来てから……俺は楽しくって幸せだ。


「そうかミント嬉しいぜ。今日はお前の家でお泊まりさせてもらおうか」

「本当!?」

「ああ、本当だ」


 ミントを抱き上げ、ギュッと抱き締める。するとあまいクリームの匂いと何とも言えない子供特有の匂いが。


 そうか子供の匂いって癒されるんだな。などど感慨深く感じていると。


「ん?」


 ズボンの裾を引っ張られたので足元を見ると。

 稲荷が両手を広げ抱っこして欲しそうに俺をみる。

 ミントと同様にクリームをいっぱい付けて。


「あははっ」


 ったくお前らは……二人を抱き抱えていると、我路が静かに背後に立つ。


「乱道様。少しいいですか?」

「どうしたんだ? そんな神妙な顔をして?」


 ミントと稲荷を、キャロや琥珀がいる所に預けると

 下民街をでて、少し離れた静かな場所まで我路と二人で歩く。


「我路? それで?」

「はい。実は嫌な気配を感じまして、この街を目指してものすごいスピードでやって来ています。後三時間もすれば到達するかと」

「マジか? その言い方だと……近付いている奴らはいい感じがしねえっぽいな?」

 我路はコクリと頭をゆっくりと上下させ「この前乱道様に喧嘩を売った男。【召喚師ルミエール】と【王国の魔法師達】かと」と遠くを見て話す。


「マジか!? ルミ野郎が!?」


 あいつは俺と戦った時に、召喚獣を根こそぎ奪ってやったんだぞ?

 それがなんで、こんな辺境の地に? それに魔法師の爺さん達もだ。


「なぁ……我路? もしかしてだけど、ルミ野郎と爺さん達って俺の後を追って来てるのか?」

「はい。そうだと思います。理由は分かりませんが、きっと乱道様を王都に連れ戻すつもりかと」

「はぁ……やっぱそうだよなぁ」


 頭をクシャクシとかくと座り込む。


 爺さん達にモテてもなぁ。

 俺の事ポンコツ扱いしてたくせに。


 さてとどうすっかな。


「乱道様どうされますか?」

「そうだな。下民街ここでまた戦いになると迷惑かけっから……俺たちから向こうに会いに行ってやろうぜ?」

「分かりました。では少しだけお待ちくださいね? キャロ様や琥珀様達が心配しないように報告してきます」


 我路はそう言って下民街へと走って行く。


 ———なんて言うか……我路の奴は、ほんと気がきくな。


 数分もすると、我路は琥珀を抱き抱え走ってきた。

 何で琥珀も一緒?


『らんどーちゃま! あのクソ野郎どもを八つ裂きにするんでちよね? それならワレの力が必要でち。フンス』


 我路に抱き抱えられながらも、少し反り返りドヤる琥珀。




「……タヨリニシテマス」


 

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