第60話 ご褒美

『らんどーちゃま? どうでちか? ワレはすごいでち? ね? ね?』


 琥珀がいつものようにニチャァと笑い、俺の足に擦り寄ってくる。これはアレだな? ご褒美のケーキが欲しいんだな。


 ———あっ!?


 しまった。キャロを呼びに行った時についでに、甘い物を売っている店でケーキを買って帰ろうと思ってたのに……キャロが水問題で興奮して……急いで帰って来てしまった。


『ねぇ……らんどーちゃま?』


 今度はあざといキュルンの目をしてきやがった。くそう。琥珀め。

 よほどケーキをご所望の様子。

 今回は頑張ったんだ。だからもちろんご褒美のケーキをあげたいが……もうストックが一個もねぇ。


 ———これは褒めて話を変える作戦だ。


「琥珀! このさ? すっげえヤツな。せっかくだから俺に詳しく説明してくれよ」

『ええ? アレでちか? そんなにすごいでち?』


 琥珀の耳がピクリと動く。これは嬉しい時の反応だ。

 よし、あともう一押しだな。


「だってさ、俺にはこんなの考えもつかないからさぁ~……」


 そう言って琥珀を見ると、尻尾がプルプルと動き鼻の穴がプクッと膨らむ。


『そっ……そうでちねぇ。こんなのはワレにしか思い付かないでち! 折角なんでワレが案内するでち!』


 ———はいきた! 釣られましたな琥珀さんよ。


 調子に乗った琥珀は、右手で自分の胸を叩く。するとポフンッと何とも言えない音が……。

 本当はドンッとイカツイ音が出たら良かったのにな琥珀よ。


『じゃあ、らんどーちゃま? ワレの後からついてくるでち』


 琥珀がポニポニと肉球を鳴らせながら俺の前を歩く。

 その横を銀狼が歩き、稲荷はと言うと俺に抱っこしろと飛びついてくるので、仕方なしに抱っこしてやると、満足そうにニコニコ笑う稲荷。

 ……なんだよ可愛いな。


 近くまで歩いて行くと、まず目に入るのは圧巻の大きな門。そして下民街を守るように囲っている高い壁。


「これはすっげ……え」

『ふふふっ。これで驚いてもらっては困るでち。中の建物も見るでち』


 俺が驚く度に、琥珀のドヤり顔が俺をチラッと見てくる。その顔を見ると素直に褒めるのはちょっと悔しいんだが……本当にすごい。


 門から下民街の中に入ると。

 さっきまではいつ倒壊してもおかしくないような、薄っぺらい素材で作られた掘立て小屋だったのに、今は重厚な厚みのあるしっかりとした作りの壁で作られた建物へと進化を遂げていた。


 あの短期間でこれを作るとか……亀の召喚獣もすげえよな。タイタンだっけか?


『これら全てをワレが的確に指示を出し、ガメラがそれを再現したんでち。まぁワレとガメラのコンビネーションプレイというべきでちかねぇ』


 琥珀よ? だからな? タイタンな?


 終始ドヤりが止まらない。よほどに自信作ってのは重重に伝わったがな。


 俺の後を恐る恐るついて来ているキャロも、ずっと感嘆の叫び声を上げながら歩いている。

 それも大袈裟だと思うが、その気持ちも分からなくもない。


 だって下民街の横に並ぶ国境の街であるリモットの壁や建物よりも、良い壁で作られていて、これが街の奴らからバカにされていたはずの下民街なのか? って話になるからな。


 今ここに初めて訪れた人は、どっちがメインの街なのか迷うだろう。ってか下民街に集まるかもな。


『まぁこんな感じでちよ。それで? らんどーちゃま? ワレにご褒美は?』

 琥珀の奴め。とうとう直接的なアピールを。


 ———しまった!  引き伸ばした後の作戦を考えてなかったぜ。


「ええと……特になし?」


「えっ?!」


 琥珀は魂の叫びとも取れる悲痛な悲鳴をあげた後、固まってしまった。



 ———ごめん。琥珀。

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