第59話 新しい下民街

 慌てて待ち合わせの場所に行くと、キャロがウロウロとしながら立っていた。


 その姿はかなり心配しているように見える。


 やべえな。すっげえ心配かけたんじゃ。


 慌ててキャロの所に駆け寄って行く。


「キャロー! 遅れてごめんなっ。ちょっと色々あってな」


「乱道様! 心配したんですよ。何かあったんじゃないかと……」


 キャロがいきなり俺に飛びついてきた。


「うおっ?!」


「全く知らない街ですし、迷子や誘拐されたのかと」


 いやいや大の大人が誘拐されるとか……我路とか琥珀達もいるんだぜ? 稲荷が誘拐されるってんなら分かるがな。可愛いし。


「ってか! いつまで俺に抱きついてんだキャロ! 良い加減離れろ」


「ええっ!? そんな冷たい。ボクは心配して……」


「はいはい。その気持ちは有難いんだがな? 大事な話がしずらいから離れてくれ」


 そう言って無理やり引き剥がすと、キャロは渋々「はぁい。で? お話とは?」とやっと話を聞く気になってくれた。


「実はだな…………」


 俺はこの街に起きている下民紋についての酷い仕打ち、さらにはコップの水と宿木の葉の交換についてなど、色々と知る限りの全てをキャロに話した。


「宿木の葉とコップ二杯の水を交換なんて有り得ません! あれは売れば葉一枚で銀貨一枚の価値があります」

「そうなんだよ!」

「……これは何やら深い闇を感じますね。ふむ」


 キャロは急に黙り込んでしまった。何かを考えているんだろう。



「乱道様。下民街に行きましょう!」

「ん? おっおう」


 急にすくっと立ち上がると、キャロは下民街の方に向かってスタスタと歩き出した。

 なんだかその姿は、メラメラとやる気の炎が漲っているようにも見える。


「下民街に行って何をするんだ?」


「ええ! そんなにも水に困っているんなら、ボクが持っているだけの水を分けてあげられたらと。その前に現場を見て回らないと」


 あっしまった。水問題は解決したんだよな。


 それ言うの忘れてた!


 スタスタと早歩きで歩いていくキャロに、その事を話そうと横に並び話しかける。


「キャロ! その水問題だがな?」


「ええ! ボクにまかせて下さい。こんな弱いものイジメみたいなの、ボクは一番嫌いなんですよ!」


「——いやっ。だからな? そうじゃなくて」


「安心して下さい。こう見えてボクの商会は、我が国じゃあ一番大きな商会なんです! フンスッ」


「そうなのか。それはすごいな。でも水問題は」

「心配性ですね? 乱道様は…………って!? えええええええええええ!?」


 説明する間もなく下民街についてしまい。

 キャロは新しく生まれ変わった下民街を見て、驚き腰を抜かしてしまった。


「あっ、あっ、あのっ……こっこれは!?」


「いやぁ……俺もこんなのは知らない……」


 俺が少しの間下民街を離れていた間にも、さらに下民街が発展していた。


 下民街を覆う高さ五メートルはある土壁がかなり広範囲に広がり、まるで新しい街が一つ出来上がった様に見える。

 下民街に入る為の入り口となる、大きな門まで造られている。


「すげえ……な」


 俺が呆然と立ち尽くし、その新たな下民街を見ていたら。


『らんどーちゃま! どうでち? すごいでち? ワレが考えたんでちよ?』

「わえ。きゃふふ♪」

『キャンキャン』


 琥珀が鼻息荒くして、俺の所に走ってきた。その横を稲荷と銀狼が楽しそうに走っている。


 なるほどな……これはお前の仕業か。琥珀。

 なかなかやるじゃねーか。


「あっあの乱道様? 僕は夢か幻を見ているのかな?」

「……その気持ち分かるよ」

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