第41話 琥珀の怒り


『お前達は…………ほんっと~にっ! バカでちねぇ』

「うゆ!」

 

 琥珀は、短い腕でどうにか腕組みをすると、足をドンッと踏み鳴らす。

 その横で稲荷も、キッとルミ何とかを睨みつける。


「なっなんだ!? この奇妙は生き物は!?」

「獣人だろ!?」

「こんな虎獣人か? 初めて見たぞ……」


 みんなが琥珀を不思議そうに見る。……まぁそうだろうな。

 せめて服さえ着せていればと悔やまれる。


 ーーってそんな事考えてる場合じゃねぇ。


 とにかくアイツを止めないと! 何をやらかすつもりなのか、全く見当がつかない。


「琥珀……気持ちは嬉しいよ。とりあえずこっちに戻ってこい」


 俺は琥珀に向かって手招きする。


『らんどーちゃま! このバカどもにはお仕置きが必要でちよ! ワレが成敗して分からせてやるでち! そこでちょっと待っとくでち』

「あい!」


 琥珀が鼻息あらく俺に話すんだが……大丈夫か?

 稲荷もその言葉に大き頷く。

 このコンビ信じていいの?


『行くでち稲荷!』

「うゆ!」


 琥珀は稲荷を背負ったまま、ルミなんとかまで一直線に走っていった。


 おいおい大丈夫なんか!?

 

『思い知るがいいでち! 琥珀スペシャルパーンチ!』


 ポヨン。ポフポフポフン。


 琥珀が、ルミなんとかの腹を必死に殴るが、何とも心地よい音が響く。

 

「あはははっ。さすが偽物ポンコツの仲間だ! 何がしたいんだ? マッサージしてくれているのか?」


 ルミ何とかが、バカにしたように琥珀の頭に手を伸ばすと、ガシッと掴んだ。

 すると、琥珀の短い手が届かなくなり、グルグル空を切る。パンチを回す音だけが虚しく響く。


『なっ……なんで当たらないでち!?』

 

 それはな琥珀よ? お前の頭を抑えられているからだ。


「はっ飛んだ茶番聞だったな」


『なっなんでちっ! わっ!?』

 

 ルミなんとかが、琥珀を蹴り上げた。その反動で宙に浮く琥珀と稲荷。

 それを我路が、さっと抱き止めた。


『あっありがとでち!』

「うゆ」

『どういたしまして』


 我路は、琥珀と稲荷を抱きしめたまま優しく笑うと、俺の方を見て『これ以上は許せませんね』とルミなんとかを睨む。


 稲荷と琥珀を下に下ろすと、日本刀を再び構える我路。


 一瞬でこの場にいる者たち全てを、斬り殺せる気を放っている。

 そんな気合いを放つ我路の手に、ぽにっと琥珀の柔らかな肉球が触れる。


『我路……ここはワレに任せて欲しいでち。ワレはいっぱいバカにされて悔しいでち。このまま終われないでち』


 琥珀はいつものあざといキュルンでは無く、闘志溢れる瞳で我路をジッと見つめる。


『琥珀様………………分かりました。ここは譲ります』


『我路! ありがとうでち』


 琥珀は我路の手をギュッと握りしめた後、俺を見て『さぁ、らんどーちゃまワレを使うでち!』っと闘志漲る目で見てきた。


 その姿はまるで、背中に大きな炎を背負っているようだ。


 ———でもな琥珀? 


 お前の力って、どう考えても戦闘向きじゃないよな?


 そんな俺たちの姿を見て、腹を抱えて笑うルミなんとか。


 琥珀をそこまでバカにされ、流石に俺も腹が立ってきた。


 やってやりますか。


 俺はタトゥーマシーンの姿となった琥珀を右手に握りしめた。


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