第38話 嫌な予感

「何だこれ! ドラコンの肉ってこんなに旨いのか!」


 濃厚な脂なのにあっさりしていて、口の中に旨味だけが広がる。


 肉質だって柔らかすぎず、程よく弾力もあり……日本の牛より旨いぞ! ってか今までで食った肉の中で最強に旨い!


『乱道様、そんな慌てて口いっぱいに詰め込まなくても……肉は逃げませんよ? それに急いで食べると、喉に詰まりますよ?』


「もぐっ……ッテル! ゴキュッ! 分かってるよ! でも旨すぎて。ついな」


 夜に食べ損ねたドラゴンの肉を、我路が朝食として出してくれたんだが、旨すぎて箸が止まらない。


 ドラゴンがこんなに旨いとは……。


 ん? 箸? そういや何で異世界に箸があるんだ?


「なぁ我路? この箸はどうしたんだ?」

 

 俺は右手を上げて我路に箸を見せる。


『ああ。それは私が作りました。やはり乱道様には、母国で使っていた箸が必要かと思いまして、夜中に作ったんですよ。気に入って頂けましたか?』

 

 我路が他にも作った箸を、ジャラッと机に並べる。 

 どれも綺麗な模様が描かれていたり、細かな彫りまで入っている。それを夜に?

 我路はこんな事まで出来るのか。万能すぎるだろ。


「最高だよ。ありがとうな」

『ふふ。気に入って頂けて何よりです』


 我路は少し嬉しそうに微笑んだ。


『ムゥ……おはようでち』

「うゆう!」


 琥珀と稲荷が目を覚ました。


「おやよ、琥珀、稲荷」


 朝食を食べ終えたら準備をして、冒険者ギルドに向かうか。




★★★



 ギルドの扉を開けると、中に居た奴らが一斉に俺を見る。


 なんだ!? 驚いている?


「あんな奴がドラゴンを!?」

「ヒョロっちいのに!?」

「ほらっ? 狐の獣人と奇妙な虎を連れているじゃねーか」

「……そうだな。噂どうりだな」

「ワイバーンってAランク魔獣だよな?……マジかよ」

「オークの集団もだろ?!」

「…………ゴクッ」


 おいおいコソコソ話になってねーぞ? 全部俺に丸聞こえだか?


 どうやら昨日ドラゴンやらオークやらを討伐した噂話が、冒険者ギルドで広まっているみたいだな。


 狐獣人に……奇妙な虎!?

 


『なんでち?』


 隣に立つ琥珀を見ると、あざとく小首を傾げてキュルンっと見て来たが……!!


 しまった—————っ!!! やっちまった。


 せっかく琥珀にも服を買ったのに! 

 色々あって琥珀に着せるの忘れてた! 

 これじゃ露出狂の獣人か、謎の生物。


 確かに目立つわ! すまない琥珀。

 露出狂の変態獣人って思われたかも知れん!


『どうしたんでちか?』


 焦って琥珀をまともに見れない俺を、琥珀は瞳をキラキラさせてじっと見てくる。


 そんな風な目で見ないでくれ! 

 俺が悪かったってば!


「んっ、んん? なっ、何でもないさ。さてと……ギルマスに会うには……っと」


 俺は何事もないような顔でギルド内をキョロキョロと見回す。


 ギルドを見渡すがギルマスはいない。

 サラサにでも聞いてみるか。


 サラサの受け付けに歩いて行くと、長蛇の列が。

 すげえ……こんなの一時間待っても順番が回って来ねえ。

 隣のお姉さんは、ガラガラなのに。


 待つのは時間の無駄だからな。あのお姉さんに聞こう。


「すみません。ギルマスに用があって来たんだが……」

「……!! あなたは昨日のっ魔力なしなのに魔力が使えて……ドラゴンまで倒せて……近くで見ると意外に……かっ、ゴニョ」


 話しかけると、なぜかブツブツと独り言を言い、頬を染めて俯く。何だってんだ? 


「あのさ? ギルマスは?」

「あっ! すすっ、すみません。ワイバーン討伐の事を、王城に報告に行っていまして、もうすぐ帰ってくるかと」

「えっ? 報告!?」


 王城ってあの胸糞悪い奴らがいる所だろ!?


「Aランク魔獣や魔獣の大量発生スタンピードは、王様に報告しないといけませんので」


「…………そうなのか」


 何だろう……王城にいる奴らクソ野郎どもの話を聞くと、気分が悪い。


『乱道様? どうされましたか? この国の王と何か?』


 我路がそんな俺の様子を見て、心配そうに話しかけてきた。


「んん? 何でもない大丈夫だ」

『そうですか? いつでも言って下さいね? 私が排除いたします』


 我路がにこりと微笑んだ。


 何だろう……笑っているのに殺気を感じるのは気のせいだろうか?


「アッ……アリガトナ」

 

 我路と話していた時だった。


 ギルドの大きな二枚扉はバーンっ!っと盛大に開き。

 ゾロゾロと黒いローブを着た男達を引き連れギルマスが戻ってきた。


 あの黒いローブは……城にいた爺さん達じゃ!?


 あれっ!? 俺と一緒に召喚された男も居る? ええとルミ……なんて言ったかな?


 まぁ良いか。


 ……とりあえず、嫌な予感しかしないわな。


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