第37話 反動

「なっ何だってんだ……はっはぁ」


 やべえ……起き上がりたいのに、それすらできねぇ。

 体が鉛に入れ替わったんじゃねーかってくらいに重たい。


 何だって急にこんな事になるんだよ。


『らんどーちゃま! 大丈夫でちか?!』

「らんちゃ! らんちゃ!」


「あぐっ!」


 琥珀と稲荷が心配し、倒れた俺の背中に乗ってきた。

 いつもならこれくらい何ともないんだが、今はクッソ大きな石が、背中にふたつ乗っているみたいだ。


 琥珀の柔らかい肉球までもが、ポニポニする度に痛く感じる。


『これは……私を使った反動ですね』


 そんな俺の姿を我路が見て、顎に手を当てクスリッと微笑む。


 おいおい何だって!? 


「……はんっ……動って!?」


 くそっ、声を出すのもきつい。


『緊急事態でしたので、説明を省かせて頂きましたが。私の力は、乱道様の生気や体力のエネルギーを使って、発動する事が出来るのです」

「はっ? 俺の生気や体力? ……だと?」

『はい。ですから乱道様のレベルや筋力値が低い場合は、今のように後で力の反動が起きます』


 そう我路は淡々と話す。


 確かに言うように、緊急事態だったのは分かる。


 …………だがな我路よ? 


 解体の時には、もう落ち着いてたんじゃねーのか?


 あれがトドメになって、俺は床と抱き合ってるんじゃねーのか?


 なぁ我路さんよぉ? お前もしやわざとこの状況になるようにしたんじゃ?


「お前なぁ……そんなっ……重要な話。一番……っ初めに言ってくれよ……」


『申し訳ありません。我が崇拝する主、乱道様なら反動など起きないと思っていましたので』


 我路はそう言って、申し訳なさそうに眉尻を下げ、腰をおり深々と頭を下げる。


「ぐっ……」


 そう言われたら何も言えねぇ。


『明日からは、私を使いこなせるようになるための、修行が必要ですね』

「えっ……修行?」

『ええ。乱道様にはもっと強くなっていただかないと』


 我路は口角を少し上げてふんわりと笑う。

 そして家事をすると言って調理台に戻っていった。


 やっぱりその顔は身をもって分からせたかったんだろ!?

 今の俺は体力も筋力もねーって!


 分かったよ!やってやんよ!


 ……だけど、なぜだろう。明日から始まる修行の事を考えると、少しゾクッとするのは。


 ……うん。きっと気のせいだ。



★★★




『おはようございます乱道様』


 ———もう朝なのか? 


「……ん? ああ。我路おはよう」


 朝っぱらから、イケオジは眩しいな。


『お体の調子はどうですか?』


 我路が少し心配そうに俺を見る。


「……体?」


 ———そうだ。


 昨日は全く動けなくって……ああああっ! 思い出したくない事を思い出しちまった!


 俺、我路にお姫様抱っこされて、このベットまで運ばれたんだった!


 もうこのまま床で寝るって言ったのに!『主を床で寝さすのなんて以ての外』とか言ってさ。


 くそう。イケオジに抱っこされるとか! 一生の不覚。


 その後……俺はそのまま倒れて寝ちゃってたのか?


 そういや肉祭りはどうなったんだ?


 そんな事を考えていると、腹の音が盛大に腹が減ったとアピールしてくる。

 

『お腹空いていますよね。昨日は疲れはてて何も食べず、倒れるように眠りにつかれましたから』


 何も食べないで……よほど体力を奪われたんだな。


 我路の力は最強だが、気軽には使えないなと身をもって体感した。


『では私は朝食を用意しますね』と我路は奥にある調理台に歩いていった。


 我路のやつは、なんて出来る男なんだ。

 男じゃなかったら嫁にもらってる。


『うう~ん。むにゃ……もう食べれないでちよう』

「……うゆ」


 俺の横で盛大なイビキをかきながら寝ている、虎の王である白虎の琥珀は、まだ気持ちよさそうに夢の中。

 その横で稲荷も気持ち良さそうに寝ている。


 クククっ何とも間抜けな白虎様だ。


「むにゅむゆっ……」


 どうやら稲荷も夢の中で、何か食べているみたいだな。自分の尻尾を舐めている。


 俺は二匹を起こさないようにそっと静かにベットから降りた。


 さて今日こそ身分証を作って貰うぞ!

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