第36話 宿屋

「……良いタイミングのご帰還で」

 

 呆れたように声をかけると。


「おいっ! あのドラゴンは何処に行ったんだ? ドラゴンに乗っていた男達も!」


 ギルマスが俺の嫌味を無視して、一方的に質問してくる。……ったく人の話くらいちゃんと聞けっつーの。


「はぁ……っ。ドラゴンは俺が倒したよ」


 そうぶっきらぼうに言うと、ギルマスはギギギっと動きの悪い人形のように、ゆっくりと首を回し俺をみる。


「はあああああああああ!?」


「うおっ!? 急にデカい声出すなよ! 心臓に悪いだろ? ったく」


「そう言う問題じゃなくてだな! あれはAランク魔獣なんだよ! Aランク冒険者やAランク魔法師が、十人集まっても勝てるかどうかってくらいヤバイ魔獣なんだよ! 一体でだぞ? それが二体も居たんだ!」


 ギルマスが暑苦しい顔を近づけてきて、声を荒げる。


 これ以上は頼むから近寄んないで。マジ勘弁。


「それをお前一人で片付けたとか!? すんなり受け入れられる訳ねーだろ!」


「……そんなキャンキャン大声で喚かなくても聞こえてるよ!」


「乱道様。このバカにでも分かるように魔石を見せたらどうですか?」


 ギルマスと俺の間に我路が割って入ってきた。


「魔石?」


 我路の言葉に、ギルマスの眉がピクリと上がる。我路は俺を見て優しく微笑む。


 なるほどな、魔石を見せたら討伐したのも一目瞭然だな。


「ほらっ! これで納得したか?」


 俺は大きな魔石を二つギルマスに見せた。


「…………!! これはっ……ゴクッ」


 ワイバーンの魔石を見てギルマスが生唾を飲み込む。


「こんなに大きな魔石……長年ギルマスをやっているが初めて見た。ワイバーンの魔石の中でも極上最高レベル……ゴクッ」

 

 ギルマスが目を見開き、瞬きするのも忘れ驚いている。


「ってことで理解してもらえた?」

「…………ぐぬぬ。せざるをえない」

『乱道様良かったですね』


 会話を静かに聞いていた我路が、そう言ってニコリっと微笑む。


 時間がかかったが、やっと理解して貰えた。


 これで、冒険者証(身分証)を作って貰える。


「じゃあ俺の事は、魔力なしではないって事も、理解してもらえたな? 身分証を作ってくれよ?」


「……もちろん分かっている。だが今日は、いきなり現れた魔獣の処理もあるし、明日ちゃんと発行しよう」


 ギルマスがそう言うと、他の奴らのところへと歩いて行く。

 

 はぁ……長い1日だったぜ。俺は大きなため息を吐いた後、両手を伸ばした。



★★★





 城下町イスカンダルにある、冒険者ギルドにみんなで戻ってくると、サラサが俺に向かって慌てて走ってきた。


「乱道様! お疲れ様です。魔獣討伐は大丈夫でしたか?」


 サラサが心配げに聞いてくる。


 まぁもちろん何もなかったので、大丈夫だとサラサを安心させる。

 俺のどんでもないヤラかしの事は触れずに、どうだったかサラサに話す。


「なぁサラサ? この街にある宿屋で、調理器具が部屋にある所か、調理場所を貸してくれる宿屋を知らねーか?」


 我路が料理を作ってくれると言っていたからな。ドラゴンの味も気になるし……


「……それなら。【六花亭】がオススメですね。調理場がついている部屋もあります。このギルドを出て右に真っ過ぐに歩いて行くとあります」


「そうか。ありがとな、早速行って見るよ」


 報告も終わり、ギルドを出てサラサが教えてくれた六花亭を目指して歩いていく。


「……これはなんて豪華な」


 六花亭は俺の想像を遥かに超え、豪華な宿屋だった。


 イメージは高級な旅館って感じだな。

 だがその見た目に反して、宿泊代金は意外と安くて驚いた。

 サラサに良い宿屋を紹介してくれてありがとうって後で礼をいわなきゃだな。


「ふぅ~疲れたな」


『乱道様は少し寛いで居てくださいね。チャチャっと料理をお作りしますので』


 我路が部屋に備え付けられた調理場に立ち微笑む。


 その姿は何ともカッコイイ。

 何をやっても絵になるとか、イケおじめ! ずるい。


 などど一人考えていたら……急に体に衝撃が!


「あが!? かっ体が!?」


 俺はあまりの痛さと怠さに、床に倒れ込んだ。


『らんどーちゃま!? どうしたでち!?」

「らんちゃ!?」



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