第35話 魔石と解体

『これは転移の魔道具ですね』


 我路は男達が座っていた場所に落ちていた、丸い手のひらサイズの石のような物を拾うと、それを転移の魔道具だと言った。


「転移の魔道具?」

 何だそれは? そんな便利な道具があるのか?


「これを使って、どこかに転移したんでしょうね。使い切りのようで、これはもう使えませんが」

「そんなんで何処かに瞬間移動出来るのか!?」


 ただの丸っこい石にしか見えないが。

 我路から【転移の魔道具】とやらを受け取り見せてもらった。


 よく見ると中央に大きな石が埋め込まれている。

 これが魔石と言って、色々な力が宿っている石なんだとか。

 そこに魔力や魔法の力を込めると、魔道具という色々な力を秘めた道具が完成するらしい。


 魔道具は魔導師と呼ばれる専門職の奴らが、作ってるんだとか。


 我路よ、何でお前はそんなに詳しいんだ。もとは俺のタトゥーだろ?


『さっ乱道様。ワイバーンの魔石を取りに行きましょう』

「魔石? え?」


『さっき話した魔石とは、魔獣の核です。すなわち心臓。強い魔獣ほど、大きな魔石を持ってますからね。ワイバーンの魔石なら期待できますね』


 我路はドラゴンを見ながら、少し口角を上げて笑う。そんな顔も悔しいがかっこいいぞ。

 

 あのドラゴンはワイバーンっていうのか。


『らんどーちゃま! 終わったでちか?』


 琥珀が稲荷を肩車したまま、こっちに向かって走ってきた。


「琥珀、稲荷を見ててくれてありがとな?」

『そんなの余裕でちよ!』

「うゆ!」

 俺は琥珀と稲荷の頭をくしゃっと撫でる。


『これは肉祭りでちね?』


 琥珀が肉祭りとか言い出した。

 おいおいドラゴンを食う気かよ? 

 どう見ても旨そうに見えねーぞ?


『そうですね。ワイバーンの肉は、極上に美味しいですからね。後で私が調理いたしますね』


 我路までもが琥珀と同じようなことを言って、うっとりとワイバーンを見る。

 そうなのか……見た目グロいが、アイツは旨いのか。


『では乱道様。解体しに行きましょう』


 我路が嬉しそうに、ドラゴンの死骸に向かって歩いて行く。

 その横をヨダレを垂らした琥珀が、テチテチとあざとく肉球を鳴らして歩く。

 琥珀よ死骸見てヨダレを垂らすとか、大概だな。

 ん? 稲荷もヨダレがダダ漏れじゃねーか。

 肩車している琥珀の頭に、ポトポトと雫が落ちていく。

 琥珀のふわふわの毛が……あーあ。



「こんな大きなワイバーンをどうやって解体するんだ?」


 近くで見るとやっぱりデカい。四メートルくらいあるか? それ以上かも。


『乱道様、私を使ってください』


 我路が再び日本刀の姿になった。

 ええっ? 俺が解体するのか? 

 てっきり我路がチャチャっとやってくれるのかと思ってたぜ。


 俺は再び我路の柄を握りしめた。

 この力が巡ってくる感覚、さっきの時よりも体に馴染んでいるのが分かる。

 感覚が研ぎ澄まされていく。


『では解体します』

「おおっ!?」


 自分じゃないような動きで体が勝手に動き、ワイバーンが綺麗に切り刻まれていく。

 何だこの華麗なる動きは。

 物の数分でワイバーンの解体が終わった。


『ではこの肉塊や骨など全て、アイテムボックスに収納してください』

「え? 肉だけで良いんじゃねーのか?」

『ドラゴン種は、全ての部位が貴重なんです。どの部位も高値で取引されていますよ?』


 ……なるほどな。勉強にナリマス。

 しっかし我路の知識は何処から得てるんだろう。不思議だ。


 だがこんなにいっぱい入るのか?


 試しに、アイテムボックスに入れる想像をして見ると、目の前にある肉塊や骨と全てが消えた。

 そして目の前に画面が現れ、何が収納されたのか分かるように、綺麗に並んでいた。


 アイテムボックスの凄さに感動していると。


「おおっ! 静かになったと思ったら。やっぱりドラゴンがいなくなっているな」

「いきなりワイバーンが現れた時は、どうしようかと思いましたね」


 聞き覚えのある。すごく耳障りな声が、後方から聞こえてきた。

 声のする方を見ると……やはりな。


 ワイバーンを見て、一目散に逃げたギルマス達が、仲間を引き連れゾロゾロと戻ってきていた。


 

 ……タイミングの良い登場でナニヨリ。

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