第33話 我路

 男が俺達に向かって、何かを言った。


《kembali》


「ん? 九尾の狐……なぜこちらに来ない?」


 男は不思議そうに首を傾げている。

 何を言ってるんだ? こちらに来ないって……稲荷がそっちに行くわけないだろ?

 こんなに嫌がってるんだぜ?

 稲荷は男に向かってずっと「がううっ」っと歯を剥き出しにして睨んでいる。 


《kembali》


 謎の言葉を何度も必死に言っている。

 なんだ? 魔法? でも何も起こらないしな。



「まっまさか本当に紋が!? 消えたのか!?」


 男がこっちにズカズカ歩いてきた。


「おいそこの男! その九尾の狐の紋を消したのか?」


 稲荷の紋!? あの辛そうしにていた紋のことか?


「あんな痛そうな紋は、俺が消してやったよ!」


「はぁぁ!? 消した? どうやって消したと言うんだ」


 消したと言ったら、大袈裟に男が動揺する。


 そんな驚くことなのか? 

 これは無闇矢鱈に、ペラペラと下手な事を言わねーほうが得策だな。


「どうやってっ……? お前らに教えねーよ」


 男と二人であーだこーだ言ってたら。


「おいおい!? 何をやっているんだ? さっさと九尾の狐を回収しろ!」


 もう一人の男まで、ドラゴンから降りて来た。


 男達が降りても、ドラゴンは大人しくしている。

 指示がないと、何もしないのか?


 ドラゴンって、あんな犬みたいに言うことを聞くもんなのか?


『これはアレですね。稲荷様の時と同じく、紋の力でドラゴンを操っていますね』

「我路……そんな事分かるのか?」


 俺がそう聞くと、我路は眉尻を下げフッと優しく笑う。


『私に分からない事などないですよ』

「そ……そうか。それは頼もしいな」


 なんだこの溢れ出るイケオジの魅力は!

 こんな時、琥珀なら「ワレは天才でちからぁ」ってドヤるんだろうな。

 何だろう、今は琥珀のドヤりがちょっと恋しい気分だ。


「ちなみにあの紋を消したら、稲荷の時みたいに、アイツらから解放されるのか?」

『そうですね。解放はされますが、野生のドラゴンになるだけでしょうね。アイツらは低ランクドラゴンなので、知性もないようですし』

「そうか……どのみち討伐しないといけないのか」

『まぁ乱道様でしたら、余裕ですよ。私の力をお使いください』


 我路は右手を心臓に当て、軽く頭を下げる。


「おっ……おう! 頼りにしてるぜ」


 だから魅力がダダ漏れだって……俺が女ならもう惚れてるな。

 イケオジ恐るべし。


「さぁ、その九尾の狐をさっさと渡せ。お前のような奴には勿体無い。そいつには利用価値が、たっぷりあるからな」

「そうだ! 九尾の狐には金では買えない、貴重な利用価値がな。ククク」

「さっさと渡さないと、あのドラゴン達の餌にするまでだ」


 男達が稲荷の事を物の様に言う。かなりイラッとするな。


「あのな? 利用価値とかそんなのどうだって良いんだよ! コイツは俺の大切な仲間だ!」

「はぁ? 仲間? ははははっ馬鹿なことを言う男だ。すぐに引き渡せば、命は助けてやったのにな」


 男が馬鹿にしたように笑う。


「わっ?」

 稲荷が俺の頬をペロッっと舐めた後、いつもの様ににちゃあっと笑う。


「なちゃま! なちゃま!」


 仲間って言いたいのか? そうか嬉しいんだよな稲荷。

 稲荷の頭をくしゃくしゃと撫でてやる。


「よし琥珀出て来てくれ!」


 そう言うと琥珀のタトゥーが光り輝く。

『テッテレ~琥珀様の登場でち!』


 琥珀は両手をバンザイし、足をクロスさせている。かっこいいでち? って表情を添えて……ったくまた変なポーズで登場しやがって。


「琥珀、稲荷を任せた」

『稲荷をでちか? 任せるでち』

 

 稲荷は何となく理解したのか、すんなり琥珀に肩車されていた。


「じゃあさっさとコイツらを殺って、九尾の狐を連れて帰るか」

「そうだな。まさかこんな簡単に会えるとは、俺たちラッキーだったな」


 男が手を上げて、ドラゴンに何かを言った。


 次の瞬間、ドラゴンが一目散に俺目掛けて突進して来た。


「我路! 頼んだぞ」

「はい! お任せ下さい」


 我路が日本刀の姿へと変化し、俺の手へとフワリと飛んで来た。


 日本刀からもの凄いエネルギーを感じる。

 これが我路の力? すげえ。

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