第24話 冒険者ギルド


「どこにあるんだ?」


 服屋のねーちゃんが言うには、まっすぐ行った先に、黒くて大きな建物があり、上には目立つ看板あるから分かるって言ってたのに。


「うゆ?」


 小さな稲荷の手を繋ぎ、一緒に歩いて冒険者ギルドを探しているんだが、そんな看板はどこにもない。

 まず黒くて大きな建物がない。


 手を繋ぎながら歩くのは、俺としては恥ずかしい。

 だが稲荷が手を握るのを気に入っちまって、離してくれない。


「らんちゃ!」


 稲荷が急に手を強く引っ張る。


「ん? どうしたんだ稲荷?」


「らんちゃ!」


「うわっ!? っちょ稲荷!?」


 何処かへと誘導するかのように、凄い力で俺を引っ張っていく。

 さすがは九尾の狐。俺は振り回されないようについて行くので精一杯だ。


「がう!」

「えっ?」


 引っ張られた先に居たのは大きな熊獣人二人と、ペタリと座り込み震える女の人。


 もしや稲荷はこの女を助けようと?


「がうぅ!」


 稲荷を見ると、熊獣人に怒っている。


「何だぁお前ら? 今俺たちは取り込み中なんだよ? 分かったら

さっさと何処かに行け!」


 声に気付いた熊獣人が振り向き俺達を威嚇する。


「たっ……助けっ」


 俺に気付いた女が助けを求めて俺を見る。


 はぁ……俺は別にいい人じゃねーけど。知っていて無視出来るほど悪人でもねーんだわ。


「稲荷? お前は助けたいんだよな?」

「うゆ!」


 俺よりだいぶデカイ熊獣人、どう戦う? 普通に戦って勝ち目はねーよな。

 日本にいた時は、売られた喧嘩なら負けなかったけど、それとコレは次元が違う。


「お前らその子に嫌な事してるんだろ? 悪りぃけど見過ごせねーわ」


「おい? そんなヒョロイ体で俺達とやるってか?」

「ガハハハッ! 馬鹿がいるわ!」


 熊獣人二人が、俺を馬鹿にして嘲笑う。まぁそりゃそうだよな。

 俺もそう思うわ。


 さてとどう戦いますか。


「ニイチャンよう? さっさとかかってこいよ?」

「グハハハッ。ビビっちまって足が動かねーんじゃねーの?」


 いちいち癇に障るクマだな。コレはあれを試してみるか?

 俺、魔法使えちゃったからな。


 火魔法が使えるのは分かったんだ。次は違う種類をこのクマさんで試してみますか。


 何にしよう? 風か? 氷か? 雷……いいな。雷魔法を試してみるか!


 俺は大きな雷をイメージして唱えた。


《サンダー》


「ギャァァアアアアア!!」


 俺の想像を遥かに超えた大きな雷が、熊獣人の一人に落ちる。

 もう一人はどうにか逃げ延びたみたいだが、腰を抜かしたのか真っ青な顔で俺をみる。


「…………マジかよ!?」


 雷魔法が直撃した熊獣人は、黒こげになりピクッピクッと体を震わせ、辛うじて生きているのが分かる。


「ったたっ助けっ……」


 熊獣人が黒こげの仲間を担ぎ上げ、震えながら俺をみる。

 さっきの威勢は何処に行ったんだよ。


 しっかし……こんなに威力があるなんて思わなかった。

 俺……もしかして最強じゃね?


「らんちゃ! らんちゃ!」


 稲荷が俺の足にくっ付いてニチャアっと笑う。はいはい嬉しいんだよな。

 俺は稲荷を抱き上げる。


「お前達もうこんな事するんじゃねーぞ?」

「ははっはい! まさか大魔法師様と知らず! 失礼しました!」


 熊獣人はグッタリした仲間を担ぎ上げ大急ぎで去っていった。

 なぜか俺を大魔法師とやらと勘違いして……。


「はぁーっどうにかなった!」

「うゆ?」


 お俺は稲荷を抱いたまま座り込む。一気に張り詰めていた緊張がほぐれる。


「らんちゃ! らんちゃ!」

「ちょっ稲荷! 腹の上で暴れるなっ」


 興奮した稲荷が腹の上で飛び跳ねる。


「うゆ?」


 そんな俺に恐る恐る、女が話しかけてきた。


「あっありがとうございました! 前からアイツらには絡まれて、困っていたのです。私にできる事でしたら、ぜひ何かお礼をさせて下さい!」


「いや……お礼は大丈夫だよ。助けたのだって偶々だしな。それに俺は、この後いろいろと予定があってさ」


「でっでも……」


 女は助けてくれた御礼がしたいと、どうしても引き下がらない。

 困ったな。お礼なんてほんと要らないんだが。


 あっそうだ! 


 冒険者ギルドの場所を教えて貰おう。


「あのさ? ならお礼は冒険者ギルドに案内してくれねーか?」

「冒険者ギルドですか! それなら任せてください! 私は冒険者ギルドそこでお仕事をしているのです」


 女が目を輝かせながら胸を叩く。


「私はイスカンダル冒険者ギルドで受付をしております、サラサと言います」


 女はサラサと名乗り、俺に向かって深くお辞儀をした。


「俺は乱道だ。コイツは稲荷、よろしくな」

「しゅ!」


「乱道様に稲荷ちゃんですね。よろしくお願いします」


 なんと助けた女はギルドの職員だった。

 偶然だが、これで冒険者ギルドに行けるようになった。

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