第23話 稲荷の服選び

 城下町の街道を、稲荷を抱きながら歩いていく。


 あんまりキョロキョロしたらダメなんだが、つい町の景観や色んな種族の人々を見てしまう。


「うゆ?」


 その気持ちは稲荷も同じなのか、腕の隙間からひょこっと顔を出し、不思議そうに見ている。


 街道の真ん中の道を馬車が勢い良く行き交っている。

 なんだろう古い映画のワンシーンみたいだ。

 魔法や召喚って不思議な力があるのに、化学の力がないからか、この世界の生活基盤はかなり地球より遅れている様に思う。魔法に頼っているせいか?


 人を観察していると、獣人にも二種類あるようで、琥珀みたいな姿の獣人がいることも分かった。

 姿はまんまライオンなんだが、二足歩行で服を着て歩いている。

 なんとも不思議な感じだが、誰も注目していないので普通なんだろう。

 これなら琥珀にも服を買ってやれば、獣人として見てもらえるかもだな。

 ちょっと見た目のバランス悪っ……ぬいぐるみっぽいのは、仕方ないとして。


「おっ? これって服屋じゃ?」


 ショーウィンドウに鞄や靴に服などが並べられている、一軒の路面店が目に入る。

 

 子供の服があるのかは分からないが、入って見るか。


 ドアを開けると、カランっと鐘の音が店内に鳴り響く。

 すると店内にいた客が一斉に俺に注目する。ちょっと勘弁して欲しい。


 これは……女性服のお店なのか? 周りには女性客しか居ない。


 明らかに男の俺は異質だ。ジロジロと変な目で見られているのを感じる。


 これはちょっと恥ずかしいぞ。


「何か探されているんですか?」


 俺が立ち尽くし困っていると、一人の女性店員が話しかけて来た。


「おおっ、助かったぜ。女性客ばかりでどうしようかと思ってたんだよ。コイツに合うサイズの服はあるか?」


 俺は抱いている稲荷を女性店員に見せる。

 稲荷が頭をブルルっと横に振ったせいで、隠していた耳が出てきた。


「まぁ! なんて可愛いんでしょう。桃色髪の獣人なんて、初めて見ましたわ。この子は何獣人ですか?」


 何獣人? 原則的には獣人じゃねーんだが。困ったな。九尾の狐だから……。


「…………ええとだな? 狐獣人だ」

「狐獣人にこんな珍しい見た目の子がいるんですね。大体の狐獣人の毛色は、赤茶色ですので」


 そう言って店員は、稲荷の頭を触ろうとするが、それを手で薙ぎ払う稲荷。


「がう!」


 どうやら触られるのが嫌なのか、俺にしがみついて来た。


「稲荷? 大丈夫だ」

 俺は稲荷の頭をそっと撫でてやる。

「うゆっ。らんちゃ……」


 こうすると、気持ちよさそうに目を閉じる稲荷。

 どうやら俺に撫でられるのは好きみたいだ。可愛いな。


「コイツちょっと人見知りだからな。とりあえず、早く服を見せてくれないか?」


「はぁい。……ではこちらについて来てください」


 店員は稲荷に触れる事が出来なくて、少し残念そうに肩を落とす。


 案内された奥のコーナーに子供服が置いてあった。

 数はそんなに無いが、色んなタイプの服が置いてある。


 どこに着ていくんだ? って豪華なドレスから、見慣れたTシャツにトレーナーもあるんだが、どこか異世界っぽい。


「稲荷お前の服だぞ? 欲しい物あるか?」

「ほち?」


 俺は稲荷を下ろし、選ばせて見た。

 稲荷は何の事だか分かってない様だが、マントを引き摺り店内を歩く。

 すると一枚の服を取って来た。


「うゆ!」

「えっ? これが欲しいのか?」

「ほち!」


 稲荷は頭を上下させる。


 欲しいの意味分かってるのか?


 持って来た服は何だろう? 巫女服みたいな白い変わった形の服。ちょっとサイズが大きい様な気もするが……。


「ほち!」


 稲荷が欲しいと何度も言う。分かったよそれがいいんだな。


「ええとこれを下さい」


 俺は店員に稲荷が握っている服を指した。


「まぁ! こちらの服は異国の服で、最近入荷したなかりなんですよ! お目が高いですわ。でもサイズが少し大きそうなので、すぐにお直しさせていただきますね」


「がう!」


 そう言って店員が稲荷から服を取ろうとしたら、稲荷が服を渡さない。

 よほど気に入ったのか?


「稲荷? これはお前のだから? でも大きくてサイズが合わないから、お前のサイズに直してくれるんだよ? だから渡してくれるか?」


 俺は身振り手振りをしながら必死に伝える。

 すると伝わったのか、稲荷は俺に服を差し出してくれた。


「あい! らんちゃ」

「ありがとな稲荷」


 意外と言葉を理解するのが早い。稲荷は賢いのかもな。

 店員が直してくれている間に、他にも数点服を選びカウンターに置いていく。

 稲荷はあの服以外に興味を示さなかったので、残りの服は俺が適当に選んだけど。


 後は琥珀が着れそうな服も買ってと。アイツの体型ちょっと特殊だからな……合うサイズあるか? 

 そうだ。ベストならサイズが合わなくても着れるだろ。

 パンツも尻尾が出せる獣人用ってのを売っていたので、それも買ってと……。

 気がつくとカウンターの上は俺が選んだ服で溢れていた。


 服を直して戻ってきた店員は、大量の服がカウンターに並られていたので、目をまん丸にして驚いていた。

 まぁ流石に買いすぎかもだが、しょっちゅう買いに来れないかもしれねーからな。


 あまりの服の量に、本当に支払えるの? っと不審に見られたが、金貨を出してお釣りはいらねーっと言うと、店員総出でニコニコと送り出してくれた。

 分かりやすくゲンキンな奴らだ。


「うゆ!」


 稲荷は自分サイズに直してくれた服を着て、俺の回りをクルクルとご機嫌に走り回っている。


「らんちゃ!」

「はいよ」

「らんちゃ! らんちゃ!」

「はいはい」

「らんちゃっ!」

「ははっ、なんだよ?」


 稲荷が足に抱きつき俺の名前を連呼する。

 よほど嬉しかったんだな。


 変わった服が好きとか、幻獣族ってのは不思議な種族なんだな。


 さぁ次は冒険者ギルドに行って身分証を作ってもらうぞ!

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