第10話 琥珀の力

 琥珀はどうだ凄いだろうっと俺をみる。

 だがな琥珀さんよ? お前はまだ何にもしてねーぜ?


 兎に角だ、さっきの懐中電灯の件があるからな、ぬか喜びしないようにしないと。


『ゲフン! ではそろそろワレの力を見せるでち!』


 そう言いながらも、俺に褒めて欲しそうにチラチラと見てくる琥珀。


 ええと琥珀さん? 早くその凄い力とやらを見せてくんねーかな?

 だが何かする気配は全くない琥珀。

 もしやこれは……俺の褒め待ちか?


「サスガ琥珀ダ。めっちゃ楽シミダゼ、ハハハ」


 棒読みになったのは否めないが、俺は琥珀を誉めた。

 とにかく褒めた。


『もう仕方ないでちね? らんどーちゃまは待てないんでちから』


 琥珀はフンスっと鼻を膨らませると、次の瞬間高くジャンプした。


   《変化》


「なっ!?」


 何だこの姿は? 琥珀が奇妙な形に変化した。

 見ようによっちゃあ、俺がタトゥーを入れる時に使う道具にも見えるが……?


『ふふふ? 気付いちゃいまちた? ワレのこの姿に』


 奇妙な道具の形になった琥珀が、ふわふわと俺の周りを飛び回る。


「えっ? 気付く?」

『またまたぁ? とぼけちゃってぇ? わかってるんでち?』


 琥珀が奇妙な姿のまま俺の体をツンツンとつつく。

 いや全く可愛くない。

 琥珀のあざとさは、ぬいぐるみ姿の時にしか適用しないな。


「マジでお前が言いたい事がわからねえ」

『ふぇ?! 嘘でち? 絶対に分かるでちよ』


 奇妙な道具姿の琥珀がプルプルと震える。

 やばっこれは泣く手前だ!

 ええ~。何の姿なんだよ? 

 まさかタトゥーマシーンのつもりなのか?

 イヤ……でも違う可能性も。これはミスれないぞ。考えろ俺!


 集中集中!


 琥珀の姿を先から細かく見て行く……あっ!? あの先端はタトゥーマシーンの先の形にソックリだ! ほかは全く違うがな。間違いない!


「…………タトゥーマシーン?」


 俺が不安げにそう言うと、高速で俺の周りをグルグルと回り出した。

 これは合ってたのか? 間違ってたのか? どっちだ?


『さすがでち! ワレのこの美しいフォルムはそれにしか見えないでち! これはコハクDXタトゥーマシーンでち!』


 うっうわぁ……道具の姿なのに、ドヤってるのが分かる。何だよ、そのDQNネームは。


『さぁ! このコハクDXタトゥーマシーンでその下民紋を消すでち!』


「えっ? 消す?」


『そうでち、ワレはタトゥーを描くことも消すこともできるでち!』


 消したり描いたり出来るって!? そんな夢のようなマシーンないぞ?

 しかも俺の首にあるのは、タトゥーじゃなくて紋なんだが消せるのか?


「ゴクッ……」


 俺は琥珀を手に持ち先端を首に当てた。


「あっ?」


 首が暖かくて気持ちいい、ふわふわと優しい何かに包まれているみたいだ。


『どうでちか? キレーに消えたでち? ワレ凄いでち?』


「…………消えた?」


 琥珀が消えたという。嘘だろ? あんなのでか?

 自分の手で首を恐る恐る触る。


「!?」


 さっきまであった何とも言えない、ザリザリとした気持ち悪い感覚がない。


「消えてる!」


『でちょう?』


 いつの間にかぬいぐるみ姿になった琥珀が、得意げに俺を見上げていた。


「すげーよ琥珀! 本当は疑ってたんだけどさ、まさか本当に消せるなんて! お前最高だ!」


『ぬ? 疑ってた? ワレを?』

 

 琥珀が眉をしかめ俺を睨みそうだったので、琥珀を抱き上げギュッと抱きしめた。


「ありがとうな琥珀」


 俺は琥珀のふわふわの腹毛に顔を埋めた。ちょっと泣きそうだったからとかじゃないからな。


『ふふ……くすぐったいでち』


 これでもうあいつらの言うことを聞かなくていい! 

 

 本当よかった。


★★★


次の更新は十八時十一分です

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