第6話 下民紋

「まぁ帰してやりたくても、転移魔法を使える魔法師がおらんからな。なんせお主らをこの世界に転移する時に、八人いた魔法師のうち四人が、魔力切れを起こし死んだ。生き残った残り四人も今も瀕死状態じゃ」


 なんだって!? 俺たちをこの世界に転移させるために、魔法師が死んだだと!?


 そんなリスクを犯してまで、この国は召喚師が欲しかったのか?


「分かるか? なのにこんなポンコツが来おって」


 驚いている俺に、お前のせいだとでも言っている様に、爺さんが俺をみる。


 俺のせいみたいに見るな! 

 俺はこんな世界に来たくて、来たんじゃないんだからな!


「まぁ魔法師が生きていたとしても、帰してやる事など出来んがの?」

「はぁ?!」

「じゃってお主らの世界など知らんからの。どこに帰していいか分からんわ。あははは」


 そう言って爺さんが、声を荒げて楽しそうに笑うが、全く笑えねーよ? 


 何が楽しんだよ?


 人を馬鹿にするのも大概にしろよ?


「ああそうじゃのう? 魔力があれば魔法師にでもして使ってやるか」

 

 爺さんがそう言うと、奥から丸い玉を持った青いローブを羽織った男が、俺に向かって歩いて来た。

 何だろう? 嫌な予感しかしないんだが?


「さあその水晶に触れ、お前の魔力数値を測って貰うといい」

「え? これに?」


 躊躇していると、俺に向かって水晶を押し付けてきた。


「この魔力測定装置の上に手をかざしてください」

「え? 手を?」


 なかなか触れないでいると、俺の事なんか無視して、水晶を持って来た男が勝手に右手を取り、丸い球に乗せた。


 少しの沈黙の後。


「なんと……これはっ、ブッッッ」


 俺を測定した男が結果を見て吹いた。


「こいつ魔力なしですよ! 測定不可能なんて書いてあるの初めて見ました! 下民でさえ十~二十程度の少しの魔力はあると言うのに……プクク」

「なっ!? 魔力なし!? 此奴はポンのコツで魔力もないと!?」

「これじゃあ此奴を呼び寄せるために死んでいった魔法師が報われん」


 爺さん達の会話を聞いた会場にいた奴らまで、俺をバカにしたように嘲笑う。


 何、勝手なことを言ってるんだ? 


 俺はこの国に召喚してほしいなんて、一言も言った覚えねーからな?

 なんでこんなにバカにされないといけねーんだよ!


「まさかポンコツ以下とはのう。魔法師を呼べ!」

「はっ!」


 爺さんが魔法師を呼べと手を上に上げると。

 奥から真っ黒のローブを羽織った男が歩いてきた。


「此奴に下民の紋を」

「分かりました」


 なんだ? 今何て言った? 下民の紋って聞こえたんだが!?


 男が何やら聞いた事のない呪文のような言葉を言うと……!!


「あぐっ!?」


 急に首が焼けるように熱い……まさかあの呪文は、俺に向けて言っていたのか?


「はっ、はぁ……」


 首が締め付けられる。


「よし紋が完成したな? お主はこれで一生下民じゃ! せいぜいワシらの為に生涯働け!」


 爺さんがいきなり俺を蹴り飛ばした。


「なっ、何するんだよ! あがっ」


 思わず殴り返そうとしたら、首に電気がビリリっと流れ、余りの痛みに顔が歪む。


「なっ?」


「ははは痛いじゃろう? お前の首には下民の紋が入ったのじゃよ。その紋がある限りお前ら下民は、我らに逆らうことなど出来ん」


 何だって!? そんなこと勝手に!? 


 だから俺をこの部屋に案内してくれたおっさん達が、下民は奴隷の様だと言っていたのか! 

 でもな? 奴隷のようだじゃなくて、これはもう奴隷だろうが!


「ではの? この場所から出て行け! ここはお前のような下民がくる場所ではないからの? グハハハ」


「イダっ!」


 俺は両腕を掴まれ乱暴に宴の広間から放り出された。


 バタンっとドアの閉まる音が聞こえる。


 くそ! くそ! 何だってんだよ。何でこんなことに。

 日本に帰してくれよ! まだまだ描きたい絵がいっぱいあるんだ。

 それなのに……。


 ふと足に描かれている琥珀が目に入る。


「はぁー琥珀。大変なことになっちまったぜ……」


 俺は琥珀が描かれた足を撫でながら、いつものように話しかける。


 すると琥珀が光り輝く……何だ!?


「眩しっ!」


 目が開けられないほどに眩しい光が落ち着くと


『やっとワレを呼んでくれまちたね? らんどーちゃま』


 なんとも間抜けな声が聞こえてきた。

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