第7話 もふもふ召喚

 何だ今の声は? 幻聴か?

 名前を呼ばれた気がしたが……?

 

『らんどーちゃま! ワレでち。コハクでちよ。こっちを見てくだちゃい』


「えっ?」


 声のする方を見ると、体調五十センチほどのなんとも間抜けな生き物が、二足歩行で立っていた。


「なっ、なんだコイツは!」


『なんだコイツとは酷いでちな? ワレを呼んだのは、らんどーちゃまでち!』


 そう言って不思議な生物は、前足で俺の膝をぽにぽにと叩く。

 ふわふわの肉球の感触がなんとも心地よい。


 可愛いじゃねーか!


「呼んだって言われてもだな? 俺はお前の事なんて知らねーし……」


 こんな二頭身姿の、アニメに出て来そうな知り合いはいねぇ。


『なっ!? 酷いでち! いつもワレに愛の言葉を囁いてくれるでちのにぃ!』


「ブッッ!?」


 この変な生物は何を言い出しやがんだ! 俺にだって好みくらいあるわ! 何を好き好んでこんな頭でっかちに。


『まさか!? らんどーちゃま、ワレが分からないでちか? ほら? この雄々しくって強そうな見た目! コハクでち!』


「えっ?」


 コイツ今なんて言った?


『だーかーらー。ワレは白虎のコハクでち!』


「琥珀? お前が?」


『そうでちよ? どこからどう見てもイケてるコハクでち!』


 二足歩行の自称琥珀と名乗る生物が、ドヤァ~っと虎が威嚇するようなポーズを決める。

 多分だが強いだろう? アピールだと思うのだが。

 その姿はもはやギャグでしかない。


「あははっ、なんだよっお前は! ははっ」


 さっきまで泣きそうだったのに、俺はいつの間にか声を荒げて笑っていた。


『何で笑うでちか! 酷いでち!』


 前足で俺の足をポニポニと高速で叩いた後。

 自称琥珀は口を尖らせてるみたいに拗ねる。人みたいに表情が豊かだ。


『ワレがコハクだと、分かってくれまちたか?』


 あざとくキュルンっと小首をかしげる自称琥珀。


 俺の琥珀はこんなあざとくねーぞ! もっと雄々しいはずだ。



「いや……それはちょっとまだ。信じられないって言うか」


『なら左ふくらはぎを見てみるでち!』


 え? ふくらはぎを見る? 何を言って。

 ズボンをたくし上げふくらはぎを見ると。


「うおっ! マジか!? 琥珀が消えた!」


『消えたんじゃなくて、今ここに召喚されて出て来たんでち』


「本当にお前が琥珀……」


 驚き目を見開いていると、琥珀があざとく片目を閉じ、ウインクしてきた。

 

 かっ、可愛いけど……俺が望んでたのは、イカツイ琥珀なんだよ!


 ……これが琥珀とか。


「ショック過ぎるだろうよ! 何で俺の描いたカッコいい白虎が、こんな謎の二足歩行の生物なんだよ! もっとカッコイイ白虎を想像してたよ! それが……動物園で売っているようなぬいぐるみ姿……ってか色が青ければタヌキのロボットじゃねーか……くそっ」


 あっしまった! つい本音が声に出てた……!

 流石に言い過ぎだ。


 ふと琥珀を見ると、大きな瞳からポロポロと涙を流している。


『うっ、ううっ……っひどいでち』


「ちっ、違うんだよ琥珀! お前があまりにも可愛すぎてだな? ビックリしただけでな?」


 俺はフワフワの琥珀の頭をそっと撫でる。


『ホントでちか? ワレが可愛いと?』


「そうだよ! その上イカチイとか最高すぎだよな?」


 琥珀の尻尾がぷりぷりと揺れる。


『ワレが最高? でちと?』


「最高だ!」 


 俺は思いっきり琥珀に抱きついた。ふわふわの毛並みがなんとも心地よい。


『らんどーちゃまは甘えん坊でちね』


 琥珀がペロリと俺の頬を舐めた。


 側から見ると、フワフワのぬいぐるみに抱きつく、変な男なんだろうがもう良い。

 不安だった異世界に、俺の友達が来てくれたんだ。

 どんな見た目であろうが、琥珀だったら良いじゃねーか!


 良かった。

 

 琥珀がいるだけで、この最悪の異世界でやっていける気がして来た。


★★★



読んで頂きありがとうございます。ここまで読んで少しでも面白い、続きが見たいと思って頂けたなら、ブクマや★レビューなどして頂けますと嬉しいです!


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