第4話 ウソだろ!?


 歓喜に満ちた大歓声の中。


 俺の目の前には体長十メートルはあるんじゃなかってくらいの、大きな亀が威風堂々と姿を現した。


「嘘だろ……!? なんであいつは召喚できるんだよ?」


 あいつも俺と同じで、デタラメを言ったんじゃなかったのか? 


 カメを見た爺さん達は、抱き合って喜んでいる。

 召喚した本人が一番びっくりしているのか、クソでかいカメを呆然と見つめていた。


「おいお前! なんで詠唱の言葉が分かるんだよ!」


 俺は思わず男の所に走り寄り「なんでだよ」と問いかけた。


「わっ……私にもよく分からないのですが、腹に描かれているカメを召喚したいと思ったら、目の前に詠唱の文字が浮かび上がってきたのです。それをそのまま読んだら……召喚できました」

「なっ!? マジで?」

「はい」

 

 嘘だろ? 目の前に文字が浮かび上がる? 俺の時はそんな事なかったぞ?


 やはり俺のは偽物だからか? ただのタトゥーじゃ召喚できないってか。

 くそっ、異世界チートはなかったんかぁ!


「うおっ? 痛っ!?」


 爺さんたちが押し寄せ、俺にぶつかってきた。


 男の横で茫然自失となっていた俺を、爺さん達がまるで要らないものを捨てるように、邪魔だと押し退ける。


「さぁ大召喚士様! 次は足に描かれている狼を召喚してください」

「亀の召喚獣は過去にもいましたが、こんなに大きいのは初めて見ました」


 男の所に続々と人が集まり、俺はドンドン端に追いやられて行く。


 なんだってんだよ。俺の扱い雑すぎ。


「はぁ……」


 異世界に来てこの扱い、この先嫌な予感しかしないんだが。

 用無しの俺は、この後ちゃんと日本に帰してくれるんだよな?


 俺は端っこに座り込むと、ひと時の間爺さん達と男のやりとりを、ただ黙って見ていた。



★★★



「クシュン!」


 ううっ、さみぃ~。


 あれ? 俺はいつの間にか寝ちゃってたのか?


 ただっ広いホールの端っこで、どうやら俺は上半身裸で眠っていたらしい。


 ……そりゃ寒いはずだ。


 辺りを見渡すと、あんなにたくさん居た爺さん達の集団が誰一人いない。

 俺一人が、広いホールに取り残されたらしい。


「はぁ!? なんで誰もいないんだよ!?」


 誰もいないホールに、俺の声だけが虚しく響く。

 ちょっと待ってくれ! みんな何処に行ったんだよ?

 いつの間にいなくなったんだ!? 何処かに移動するなら俺も連れて行ってくれよ!


「……困ったな。こんな全く知らない場所、それも異世界で無闇矢鱈と動き回るもんじゃねーよな」


 ん? 

 

 どうしたら良いもんかと困っていたら、掃除道具を持った三人の男が扉を開け入ってきた。


 ———よっしゃ! 


 アイツらに聞いたら何か知ってるかも!

 


「よしっ」


 気合を入れて立ち上がると。

 男達がいる場所へと、一目散に走って行った。


「おおーい! ちょっと教えてくれねー……ませんか?」


「「「えっ!?」」」


 走りながら声をかけると、一斉に男たちが俺を見て固まった。

 なんだ? 様子が変だぞ。


「聖印が……」

「上半身だけで四つも! こんな凄いの見た事ねー!」

「大召喚士様!」


 男たちは床に頭を擦りつけるようにして、俺に向かって平伏した。


 なんでだよ! 

 

 もしかして……このタトゥーを見て、大召喚士様とやらと勘違いされたのか? さっきの爺さんたちと同じパターンじゃねーか。


「ちょっと待ってくれ! そんなことしなくって良いから! 顔を上げて普通にしてくれ!」


 なんったって、俺はさっきポンコツの烙印を押されたばっかだし。


「ですが我らは、なんの力もない最下級の下民・・です。大召喚士様の前で、普通になんて出来ません」


 男たちは震えながらにできないと言う。

 なんだよ最下級の下民って? 酷すぎるだろ? この国にはそんな階級制度があるのか?


「……最下級の下民って、酷い言葉だな。俺は大召喚士様とやらじゃねぇから、普通にしてくれ」


「大召喚士様じゃない? そんな馬鹿な」


 男たちは俺の言う事を全く信じちゃくれねぇ。それほどにこの世界では、このタトゥーの威力が凄いんだな。


「まぁ信じてくれなくても、そうなんだよ! そんでな? ちょっとこの国の事を、教えてくれねーか? 俺は異世界人なんだ。さっきこの国に転移して来たばっかでよ。よく分かんねーんだわ」


 そう言うと、一人の男が顔を上げた。


「異世界人様でしたか! そのお話は長老様たちが話していたのを偶然聞きました。沢山の魔導師を使って異世界人を呼び寄せると」


「そうなのか。それだよ、それで俺はこの世界に転移して来たんだよ」

「やはりそうでしたか。その体に描かれた沢山の紋も異世界人様なら納得です」


 男が一人勝手に納得して、うんうんと頷いている。


 ちょっと違うぞ? 俺のは聖印じゃなくてただのタトゥーだからな。そんな憧れの目で見ないでくれ。俺は何も召喚できないんだから。

 自分で言って虚しくなっちまう。


「で……その爺さっ、長老とやらはさ、何処に行ったんだ? さっきまで俺と一緒に、この部屋にいたんだよ」


「ああ、それなら今は異世界人様とうたげの最中だと思います。宴の会場はこの塔の隣になります」


 そう言って男は、俺を窓に連れて行くとそこから見える塔を指差した。


「まさか異世界人様がもう一人いたなんて、我らが会場まで案内いたします」

「そうか……それは助かるよ。ありがとうな」


 俺は男達に連れられこのだだっ広いホールを後にした。

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