第3話 神龍召喚

「さぁ大召喚士様、詠唱し神龍を召喚してください」


「……だからな? そんな目で見られても、俺は召喚の仕方が分かんないんだってば」


「またまたご謙遜を。さぁ早く、皆が待ってますよ」


 無理だって、知らねーっていってんのに全く話を聞かねぇ爺さん。

 これどーすんの。俺なんかしないといけないわけ?


 さっき唱えてた厨二病的な言葉も知らねーし。


 魔法ゲームっぽい、それらしいの言ったら良いのか? 

 あんまゲームとかしなかったからなぁ。


 詠唱って……近所のガキが魔法ゴッコとかしてる時に、言ってたやつだよな。

 無理矢理アイツらに付き合わされて、言わされた事もあるから……なんとなくニュアンスは分かるけど……。


 てか、そもそも俺が描いた聖印タトゥーだぜ? それで召喚出来る訳ないと思うんだが……。


 でも、もしかして師匠が描いてくれた神龍ならありえるのか? どうやらここは異世界みたいだし。ゲームでいうチート能力的な? が俺にもあるかもだよな。


 俺が一人どうしようか考えこんでる最中も、周りからの熱い視線が突き刺さる。


 とりあえず何かしないと収まらない感じだな。


 ……はぁ。


「……わかったよ。希望に添えなくても知らねーからな?」


 ———いくぞ?


 俺は先ほどの子供と同じ様に、両手を天にかざしそれっぽい詠唱を言ってみる。


「地の底に眠りし聖なる神龍よ、古の眠り覚ましその使命を果たせ。目覚めよ神龍!」





 ん?





 …………全く何も起きねぇな。






 コレじゃダメか? ならもういっちょ。


「魔空の時に生まれし蒼き龍よ。現世の光を力にし我が力とならん。力を貸してくれ神龍!!」




「「「「「・・・・・・」」」」」」



 適当に作った詠唱で、神龍が現れる訳もなく。

 広い空間に、俺の恥ずかしい詠唱の声だけが響き渡る。



「んん? あれっ、おっかしいなぁ?」


 なにも出てこないから、少し怪しんだ目で俺を見ているのが分かる。

 やっぱ適当にそれっぽい事を言ったんじゃダメか。


 ここは異世界とやらだしさ? 

 もしかしてチート能力発動とかの力でさ? 

 自分で描いた模様もいけるんじゃねぇ? 


 ……なんて、ちょっとだけ期待しちゃったじゃねーか!!


 なのにさ!


 ただただ恥ずかしいセリフを大声で言わされただけじゃん。


 やだっ! 思い出すだけで恥ずかしい!

 

 出来ることならこの場から立ち去りたい。


「あのう……大召喚士様。ふざけてないで、早く神龍を召喚してくれないですか?」


 痺れを切らした白ひげ爺さんが、早く神龍を召喚しろと少しイラつき気味に言ってきた。


「あのさ? ふざけてる訳じゃなくて、俺は召喚とかできねーよ。だってさ? この体に描かれた模様は全て自分で描いたんだからな、あっ背中の神龍ちゃんは師匠の作品だけどな」


「ふぇ!? 今なんと?」


 俺の話を聞いた爺さんが固まる。


「だーかーらー! この体に描かれている模様は聖印とやらではなくてだな? 自分で描いたの! タトゥー・・・・だよ! タ・ト・ゥー分かる?」


「「「「えーーーっ!!」」」」


 俺がそう言うと、爺さんは膝から崩れ落ちヘナヘナとその場に座り込む。周りの奴らは目をこれでもかと見開き、ワナワナと体を震わせている。


「ああっ! なんたる事! 自分で聖印を描くなんて神への冒涜だ! 我らはなんて奴を異世界から呼び寄せてしまったんだ」


 いやいや爺さんよ? そっちが勝手に呼んどいてそれは酷くないか? 

 爺さんの声を皮切りに、俺を囲っていた男たちが一斉にぎゃあぎゃあと騒ぎ出す。


「何だって!? 自分で描いただと!?」

「じゃあ大召喚士様でも何でもないじゃねーか! 偽物ポンコツを異世界から呼び寄せてしまった」

「ああああああっなんたる事だ!」

偽物ポンコツを呼び寄せるのに、どれだけのにえを使ったと思ってるんだ」


 おいおい……あのなぁ? 俺は来たくてこの世界に来た訳じゃねーんだぞ? 


 ポンコツポンコツ言うんならな? とっとと元の世界に帰してくれ!


「落ち込むのはまだ早い、もう一人召喚しているではありませんか!」


 誰かがもう一人いるぞと、俺の横にいた男を引っ張り立たせる。


 横に立っている男は、急に自分が話題の中心になり、困惑しているのが分かる。


「えっ!? ちょっ待って下さい! 何するんですか!」


 三人のジーさん達が男に集まり服を脱げ脱げと迫っている。

 とうとう無理やり服を脱がせようとしている。正直見てて良いもんじゃない。


「あははっ、何やってるんだよ」


 思わず笑ってしまったが、パンイチ姿にされた男の体には腹の辺りに亀? 太ももに狼の様な獣、そして胸の辺りに鳥のタトゥー……じゃなくて聖印が描かれていた。


「えっ!? 私の体に模様が!? いつの間に!? なんだこれは!?」


 男は驚き、自分の体に触れると、描かれた聖印を不思議そうに見ている。


 どうやらこの男も、初めて気付いたみたいだな。って事は俺みたいに自分で絵をいれてないって事だよな。


「おおおっ、聖印が三紋も入っている!」

「素晴らしい!」

「なんと見事な聖印」

「良かった……こちらが本物でしたか」


 男を祭りあげ、大喜びするエスメラルダ帝国の奴ら。俺の存在なんて初めから無かったかのように……無視して。


 本物が登場ですか、もう偽物ポンコツにようは無い感じだな。

 でもな? そいつだって召喚の仕方は分からないと思うぞ? 


 だってさ? そいつだってなんて詠唱したら召喚獣が現れるとか、俺と一緒で知らないだろうからな。

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