「走馬灯」


 ブレーキと間違えてアクセルをべた踏みしたのだろう車が、歩道に突っ込んできた。

 避ける暇もなく、俺は車の下敷きになってしまい――……意識が朦朧としている。

 動かそうとしても体がまったく動かなかった……あ、やばい……もう死ぬのだと分かった。


「――丈……ぶ、――すか……た――」


 と、駆け付けてくれた救急隊員が声をかけてくれているが、返事ができない。

 ギリギリ保っている糸が、そろそろぷつんと切れる頃だろう……冷たくなっていく……。


 視界が狭まっていく。


 頭の中で、これまでの人生の思い出が巡っている。これが走馬灯というやつか……やっぱり、死ぬ間際になると走馬灯が見られるというのは本当だったのか…………――あれ?


 違う。


 知らない。


 俺は――――こんな人生、送ってない!!


 たぶん……、



「――これ、俺の走馬灯じゃなくない!?」



 そして、俺は息を吹き返したのだった。



 …了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る