恋人の死体

海、波、さざなみ、水死体。カモメ、カモメ、カモメ、ウミネコ、波の音、ぽたり、漁船、ぽたり、灯台、カモメ、漁船、波の音、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、砂の音、雨の音、また、ざざと砂の音、ぼとぼとぼとぼと、砂に落ちる臓物、それを食べるカモメ、ウミネコ。


砂浜、流木を枕にして眠っている女の子。


眠るように死んでいる。


僕の目の前で水死体が食われてる。


美しい、と思った。


どこかで見た宗教画、中世の貴族が処刑される様子によく似ている。バイオレンスな浦島太郎。僕は死んでるのに助けるなんておかしいけど助けることにした。なにせ美人だったから、ブスならそのまま餌にした。僕も捕食者だったのかもしれない。面食い、それが当てはまる。幸い顔は食われていない。ただ内臓が撒き散らされて白い砂浜は赤く染まり上がっている。


服を着ていない死体、強姦されて海に捨てられた死体。首は変色して紫色、致命傷がある。行為の最中に殺されたのか妙に色っぽい、僕はこの子を殺した人たちに感謝して天を見つめた。青空は血潮の赤と対照的に澄み渡るほどブルー。


まだ成長期もきていないような女の子。そんな子が砂浜で鳥の餌になっている。コウノトリに運ばれてきてから少ししか経っていないのに死んでいる。と僕は言葉を並び立てて同情をしてみた、この子を理解したかったから。僕は球になっている鳥の群に叫びながら突撃して、戦争映画で負傷した仲間を助けるようにおんぶした。


おんぶをすると兄妹の様に見えるだろうか、ただ僕はそんな妹をクーラーボックスに詰め込むのだが、海釣りにきていて良かったじゃなきゃ連れて帰ろうなんて考えなかったから。釣竿を小脇に抱えて少女の入ったクーラーボックスを持ち上げる。両手でやっと持てる重さだ28キロくらいで箱の重さもある。だから魚も釣れなくて良かった。夕飯に魚を食べたかったのはある。メバルやタイが釣れればいい酒の肴になる。刺身にしてポン酢で食べるのが僕は好きだ。


だけど今はこの死体の活用方法だ。そこで僕は今、思いついた。風呂に一緒に入ろう、海に浮かんでいたのだから水がよく似合う。もしかしたらこの子は死体じゃなくて人魚なのかもしれない。


家に着いても誰も出迎えてくれない、だけど寂しさはないだって僕には妹ができたのだから。


風呂に湯を貯めて、腹からたらりとカモメに引っ張り出された腸をまず湯に入れる。次に寝かすように体を入れると塩の匂いと血の匂いがした。僕は塩の匂いに女の薫りを思い出して性器を勃起させる。死体で興奮するなんて正気じゃない。そんなことは分かっているだけど我慢できず吸い込まれる。湯の温かさが腰を包み、女の子と一つになる。ひんやりとして動きもない、ただ未熟な性器は僕を喜ばせた。涙していた。こんな小さな女の子と生きている時に出会えなかった事に、こんな素敵な女性の生きている姿を見られなかった事に、何も反応しない膨らみのない胸、乳首を口に含む、塩の味がしてまた悲しくなる。立ち上る生きている僕の命の源が母になる機能もないまま死んでしまった少女に注がれる。僕はあまりの絶頂に乳首を噛み切ってしまった、噛み締めると微かに少女が笑った気がして僕は垂れ下がった首を風呂のふちに乗せてあげた。飲み込み、片側の乳房を見て想像するしかなくなってしまった片割れに謝りたくなった。僕が食いちぎった乳首からは血がとろとろと流れ出て、小川から漏れ出てかどうかして山の道路を流れる水のように見えた。


僕は湯を抜いて体を洗い、少女に接吻をして笑い掛けて、風呂を出た。その夜は麦畑で白いワンピースに麦わら帽子を被った死体の少女を追いかけて、追いかけて首を刺して殺す夢を見た。

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