猫シティ

うざいネオン、繁華街。逆引きの手を払って私は一人歩いている。一緒に旅行に来てる友達は彼氏とラブホテルに泊まった。ありえない。ほんとクズ。


私はカラオケに泊まって夜をこの心からの怒りを歌に乗せてぶちまけていた。次の日のことなんて考えず。縁切りたい。それだけだった。


縁を切るべきなんだ。スランプなんて言葉はこいつらが生まれた時に一緒にきったねえ産道から産まれた言葉で私を今執筆から遠ざけている原因だ。


マイナスエネルギーで書いているところもあるから苦しまないといけないところもある。ところてん。


そう、スランプだ。ここまで筆者の経験で書いていたが以下からは怒りに身を任せて家に帰ったか殺すか、何だかんだあってみんな死んでしまう話にするのもいい。小説的にしていこうと思う。


むしゃくしゃな夜、眠れずに200曲のしかばねの上に朝が乗る。カラオケから私はダッシュで脱出(激面白ギャグ)。


朝を浴びた。日差しはドミノ倒しになってしまえばいいビル達を白くしていた。

私は始発で帰るために駅に向かっていた。猫、猫、路地裏、ゴキブリそして猫。人はまったく居ないのにやたらに猫が多い。金沢市内なのにこんなに生きている猫がいるのか。大抵が轢き殺されているものだろう。


誰もいない商店街には死んだ魚、貝ばっかりで駅まで2キロの看板が青い。大抵が青だがたまに緑もある。高速道路だったか。やはり好物、猫ばかり。黒猫、三毛猫、変な柄。まるで牛のよう。私はおかしな光景だ、頭がおかしくなったのだなと思うが呑気に深くも考えず、本来人がいるはずの魚市場の商店街を変な柄の猫を撫でながら歩いていた。家にいる犬こそ猫になっていてほしい、そう思った


私は猫が好きだけど犬を飼っている。理由と言えば好きなものばかり集めるとかえって愛想がつきて嫌いにはならないまでも無関心に近くなってしまうから。私は猫を日常にしたくない。


だからこの今、現在は私にとって天国に見せかけた地獄だった。


早く帰らなければ頭を飛び回るのはそれ一つだった。


写真はもちろん撮る、撮らなきゃ損だこんなに猫がいるのだから。縁石にずらりと並ぶこねこちゃんおうちはどこにあるのかな。この通りの光景が見渡す限り5つはあった、3匹1組で。


駅まで歩く間私の後ろには商店街の奴らもカラオケ屋の前にいた奴らもついてきていたから、大体100匹はいた。猫の恩返しを思い出して不安になる。猫になってしまいはしないかと。


やっとこさロータリーに着くと私は猫よりも好きなものを見つけてしまった。


少女だった。小さいでもちょうどいい、小学4、5年生くらいの少女。猫は少女に擦り寄り私にはあの変な柄の牛みたいにデブの猫しか残っていなかった。


泣いていた、少女ではなく私が。あまりに絵的な光景に美しさに涙した。


ひどく小柄ででも活発そうで私の目は猫をみすぎたせいか猫っぽいと感想を弾き出した。


服に関しては知識がないからヒラヒラとして色違いの不思議の国のアリスって感じだ。


私はしばらく話しかけずに猫たちと遊ぶ少女を見ていた。膝の上で喉を鳴らすデブ猫に愛着も湧いてきた。


「お姉さん、その子も可愛いね。触ってもいい?」

「いいよ、存分に触りな。変な柄じゃないこの猫。」

「牛みたいで面白いと思うけれど、お姉さんの格好のが変だよ」

そう私はパンクファッションだったのだ。チェーンじゃらじゃら。ピアスばちばち23歳。親には許されていない。どうやら私は変態らしい。類は友を呼ぶという奴だ。


「ええ、可愛くない?それよりさ君可愛いねアリスっぽい。よく似合ってるしお姉さん好みだなぁ、ねえ一緒に帰らない?君にとっては旅行か、もういっそ一緒に住んじゃおうよ。」

「きもいですよ。お姉さん、上手い返しが思いつかないので言いますけど、わたしの名前はアリスでも君でもないです。やまめです。」

「魚みたいな名前だね。」

「気にしてる一点を的確に撃ち抜く天才ですか?お姉さんこそ彼氏できたことなさそうですねそんな服装、この歳まで続けたらもうできないですよ。可哀想にご愁傷様。」


「じゃあやまめちゃんと籍、入れるね。スイスだかカナダだかに渡米して。結婚しよう。一目惚れだったよ。だから泣いたの、喜びが目からあふれてたんだよ。あれは。」


「不審者とは結婚しませんよ。ただ他に人もいないので今だけ一緒にいてあげますよ。バカ変態さん。」


「さびしんぼなんでしょ本当は。魚は群れで生活するものだからね。仕方ないよね〜。」


「じゃ行きましょもうすぐ始発列車ですよ。変態さん。」


始発列車、猫が運転するのだろうか人が運転するのだろうか。そもそも朝4時にこんな場所に小学生。私は持ち前の考えの無さで。何も考えず走る少女を追いかけた。


駅のホームにも改札にも駅員も誰もいなかった。田舎の駅じゃあるまいしこんなことはおかしい、わかりきっていたが。到着した列車のインパクトに全て吹き飛ばされた。到着のチャイムは黒猫のタンゴ、少ししたあとけむくじゃらがレールを走る。そう電車は電車ではなく猫だった。いわばトトロのネコバスの電車バージョンだ。少女と猫たちに背中を押されて私はこのキモかわいい列車に乗り込んだ。


座り心地も猫だった。

行き先はどこなんだろう、それだけが今は心配だった。可愛い少女と猫たちの寝顔を写真に写すとそんな考え吹き飛んで、消えた。


そして私は眠りに落ちた。


目を覚ますと猫ではない、電車に乗っていた。デブ猫は膝に乗っていたし、少女もすうすうと寝息を立てていたがさっきとは明確に違うところが一つ。この電車には人ばかりだ。猫なんて私の膝の1匹だけ、あんなにいっぱいいたのに。少女やまめが目を覚ますのが楽しみで待ち遠しかった。


目を覚ましたやまめは私に眠りを帯びた微笑みをみせてくれて、それだけで救われた。あれは白昼夢だったのかもしれないが私にはこの膝の重みと少女との関係が確かに残っている。


「お姉さん、どこまで行くんですか?」

「どこまでも、どこだって一緒に行きたいね。」

「じゃあ、猫カフェ。」

「猫はもういいよ、ほら膝の上にいるし。」

「え、連れて帰ってきちゃったんですか。」

「そ、だから一回家に帰らなきゃだね。」

「家どこなんですか?」

「ちょっとまってね、23駅戻らないといけないみたいだわ。今調べたら。」

「やっぱりクソバカなんですか?」

「やまめちゃんも寝てたじゃん」

「やまめ?私はさくらですよ。」

私は背筋が冷たくなった。さっきまでのは夢だったのか?私の脳みその働きによって生み出された幻覚だったのか。

「でも初め、やまめって、え、どういうこと、もう、やめてよ。いや、みんな。え。わからない、わからない。」

「ごめんなさい、偽名です。やまめはあまりに怪しかったので。でもいい人だってわかったので大丈夫ですよ、お姉さん。大丈夫。ずっと一緒ですよ。」

「ほんとに?私めちゃめちゃ好きだよ。えっとやまめちゃんの事。」

「知ってますよ。」


家出少女、鬱憤だらけの二人。私たちは案外似た者同士だったのかもしれないなと猫を撫でながら考える。まだまだ家まで遠いけどその間交わされるつまらないのに幸せな会話は私たちの仲を補強するに至った。

やまめちゃん、もといさくらちゃんはお父さんと二人暮らしで逃げて来たのだという。その先は聞かなかったし、聞きたくなかった。23駅なんてあっという間に過ぎてしまいそうで実際一駅過ぎてもう歩くことにした。


デブ猫、アリス少女、パンク女の組み合わせはまるで出来の悪い悪役みたいでガラスに姿が映るたび可笑しかった。気球でも飛ばして帰りたくなるくらい。

途中やまめちゃんの髪に触れて手触りがあまり良くなかったものだから、近場のスーパーに入りたこ焼きの用意と上等なシャンプーを買い。家路を辿った。帰り道も口数が減らず私たちはほんとの家族よりずっと仲良しだった。と思う。


家、アパートに帰ると犬が出迎えてくれた。名前はつけていない、名前をつけるとお別れに悲しさがやたらにトッピングされるものだから。だからやまめとさくら、二つの名前を知ってしまったからにはお別れする時きっと私は泣いて泣いて空っぽになってしまうだろう。だけど今は考えない、持ち前の考えなさを発揮してたこ焼きパーティーとこれからの日々をお別れが辛いものになろうが全力で楽しもうと思う。


それまで私はこの幸せな夢を見ていたい。


夢を見るためのひとまずのお別れをここに。

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