第32話 七海ショートストーリー:2
【七海ショートストーリー2】
『ボーリング』
私と七海はボーリング場に来ていた。たまたまテレビで芸能人対抗ボーリング大会が放送され、それを見た七海が興味を持ったのだ。
イヤな予感がしていた。イヤな予感しかしなかった。
七海はブルーのデニムのミニスカートにピンク色のTシャツを着ていた。Tシャツの前面には黒い文字で『鰻重』と書いてある。ネットで好きな文字をプリントできるTシャツを注文したのだ。ちなみに私のブルーのTシャツには『紫電改』の文字がプリントされている。
「七海、一番手前の真ん中のピンに当てるんだ」
「うん、わかった」
七海が球を後ろに高く振り上げ大きく前方に腕を振った。球は物凄いスピードで高さ30cmを飛び、ダイレクトにヘッドピンに当たった。ピンが弾け飛び、勢いを失った球がレーン落ちて大きな音が鳴った。
「キャハハ、ストライクなの! 嬉しいの」
「七海、何やってるんだ、転がすんだ! 他の人を見てみろ、投げてる人なんかいないぞ!」
「うん、わかった。次は転がすの。でもなんか非効率なの」
ボーリング場の係員が走って来た。
「あの、球はダイレクトに投げない下さい、ってどうやって投げたんですか? とにかくレーンが痛みますしピンセッターマシンが壊れてしまいますんで転がして下さい」
七海は反省する様子もなく、ボーリングの球を膝でリフティングしている。
「えっ、それ、痛くないんですか?」
係員は呆れながらも驚いている。他のレーンの客も私達を見ている。
私の番になったが周りの目が気になって投げにくい。七海のせいで皆が注目している。何とか投げたが8ピンだけでスペアーも取れなかった。
「タケル、転がさないとダメ?」
「当たり前だろ、そういうゲームなんだ」
七海は投球フォームに入った。球は物凄いスピードでレーンを転がりピンにぶつかった。ヘッドピンを外して3番ピンに当たったがピンが激しく飛び散りストライクとなった。
「全部ストライクになりそうなの。簡単すぎるの」
「球の威力が強すぎるんだよ、力を抜いたらどうなんだ?」
七海は球をレーンに置いた。
「七海、何やってるんだ?」
七海は球の後方から走りこむと、インサイドキックでボーリングの球を蹴った。足は見事に降り抜けている。
球は物凄いスピードで宙を飛んでダイレクトに一番ピンに当たった。轟音とともにピンが弾け飛んだ。
「キャハハハ、ストライクなの! おまけにゴールなの!」
「七海、何やってるんだ! 蹴ったらだめだ、手で転がすんだ!」
「サッカーの練習になるの」
ボーリング場の係員が走って来た。
「あの、球を蹴らないで下さい。ってどうやったらボーリングの球を蹴ってピンまで飛ばせるんですか?
とにかくレーンが痛みますしピンセッターマシンが壊れてしまいますんで手で転がして下さい」
七海は立てた人差し指の上でボーリングの球を回していた。バスケットボールの選手のようだ。
「それも、止めて下さい。なんか怖いです。でも、凄いですね」
七海は左右の両方の手ボーリングの球を持っている。
「七海、何をやる気だ?」
「二刀流なの」
七海はニコニコしながら言った。
[七海、普通にできないのか!!]
さすがに腹がったって、怒鳴ってしまった。
「今日のタケルはカッコイイの。イケメンなの、素敵なの」
「ごまかすな!」
私は七海をおいて帰ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます