第10話 Chapter10 「Silent War」

ここからChapter12までは戦闘及び宇宙パートです。Chapter13で日常パートに戻ります。


Chapter10 「Silent War」


脳波通信が飛び交っている。MM星人はテレパシーを使用しての意思疎通が可能である。戦場では軍用フォーマットのテレパシーが使用されている。

《【発:第1中隊:ジョージ:大尉】【宛て:大隊本部】【同報:不可】

小マップ地点:G(ゴルフ).8(エイト)に移動完了。敵影無し。ただし遠距離からの敵ポング多数》

『ジョージ大尉は自分の所属する中隊の上部組織である大隊の司令部に単独行動中の状況を報告した』


《【発:大隊本部】【宛て:第1中隊:ジョージ:大尉】【同報:不可】

本部了解、30分後に小マップ地点:J(ジュリエット).11(イレブン)で第2小隊、第3小隊と合流せよ、送れ》

『ショージ大尉は自分が指揮する第2小隊と第3小隊に合流するよう大隊本部より命令を受けた』


《【発:第1中隊:ジョージ:大尉】【宛て:大隊本部】【同報:不可】

 了解》


 ジョージ大尉は岩影に座り強壮エナーシュを食べることにした。腕に装着した脳波残量計を見ると脳波エネルギーは80%を表示している、まだまだ十分に戦える。ミンクリック州のゴルドバス地区には強い風が吹いていた。地平線に1つ目の恒星アルファが昇り始めた。気温は摂氏マイナス45℃。2つ目の恒星ベータが現れるまであと約2時間、3つめの恒星シータが現れるまでは約6時間。恒星シータが昇り始めるまでに決着をつけたい。


 ジョージ大尉はゆっくりと前進を開始した。アボス(疑似脳波地雷)の位置は確認済みだ。小マップを確認しながら慎重に足を運ぶ。肩から吊るしたシールド発生装置は本作作戦用の試作機でジョージ大尉が指揮する第1中隊配下の第1小隊と第2小隊、第3小隊、偵察分隊に支給されている。

ジョージ大尉は政府軍に所属する軍人で階級は大尉だ。正式名はムスファ・イーキニヒル・ジョージフランクホマレ。戦闘経験は多く今回の遠征討伐任務は2223回目の作戦活動となる。ジョージ大尉のロール(役割)ネームは『ムスファ』。政府から任命された役割は軍事組織への従事だ。MM星人には様々なロールネームが存在する。ムスファは最上級の適性を持った軍人に与えられるロールネームだ。階級は関係なく戦闘能力のポテンシャルによって命名される。その割合は全軍人の0.001%。10個師団(約10万個体)に1個体の貴重な存在だ。軍人の称号の順位と構成比はムスファ(0.001%)>ムスク(0.1%)ムスカ(1%)>ムシト(8%)>ムシカ(10%)>ムサコ(80%)となっている。


 ジョージ大尉は合流地点で第2小隊と第3小隊に合流した。

「大尉、現在第2小隊と第3小隊ともに被害はありません、第1小隊は第2中隊支援のため移動中です」

第2小隊隊長のジャック少尉が報告した。脳波エネルギーの消耗を抑えるために音声を使っている。

「敵の連隊本部の存在を2時の方角に確認しました。大マップのB(ブラボー).5(ファイブ)になります」第3小隊隊長のメッサー少尉が敵の連隊本部の位置を報告する。

「ついに敵の連隊本部を見つけたか。第2政府直轄の親衛隊だな。今回の作戦にはガンビロンを使用する。成功すれば敵の連隊を殲滅できる」

「噂には聞いておりました。ついにガンビロンを使用するのですね」

「凄まじい破壊力だと聞いております」

「実戦では初めての使用だ。第2政府を倒す第一歩となるだろう。敵もガンビロン相当の高出力脳波を研究中だがまだ完成には至っていない。威力を見せつければ降伏もありえる」

「大尉殿、シールドテントの設営は完了しております、準備をお願いいたします」


《【発:第2中隊:ケイト:大尉】【宛て:大隊本部】【同報:全て】

 現在第2中隊は敵ポングスト(砲撃レベルの脳派攻撃)を受けつつあり。第1小隊全滅。第2、第3小隊死者多数、現在確認中》

『第2中隊は敵のポングストの攻撃を受けて大きな被害が出ている』


戦況はおもわしくない。第2中隊が敵のポングストの狙い撃ちにあってる。ポングが銃ならポングストは大砲のような役割だ、一撃で5~20体のMM星人が脳を破壊され、損傷が大きければ死に至る。ポングストを使うには脳波の増幅装置が必要だ。


《【発:大隊本部】【宛て:第2中隊:ケイト:大尉】【同報:全て】

 現在地点を維持せよ。敵攻撃地点を補足・特定した。第3中隊にポングストの支援を要請、15分後に攻撃開始。それまで現在地にて待機せよ、送れ》


《【発:第2中隊:ケイト:大尉】【宛て:大隊本部】【同報:全て】

 了解、第2中隊待機》

『大隊本部は第3中隊に第2中隊への支援を命令した』


「第2中隊がかなりやられてるようだな、損耗率70%だ、全滅に近い」

「敵は出力のかなり強いポングスト(砲撃)を使ってるみたいだ。それに今回の敵は第2政府直轄の親衛隊だ、非常に手ごわい、ムスファ級の将校が5個体配属されているらしい。第3中隊が報復攻撃でやられなければいいのだが」

「それは凄いな、5個体か、どこから集めてきたんだ。それよりガンビロンは大丈夫なのか?味方に被害が出るようなことはないよな」

「俺たちの第1中隊と偵察分隊は対ガンビロンの試作シールド発生装置を支給されたから大丈夫だよ。第2中隊と第3中隊も一つ前のバージョンだが35型を装備しているから問題ないさ」

ジャック少尉とメッサー少尉は戦況について語り合っていた。

ジョージ大尉はシールドテントに入って準備を開始した。テントといってもテニスコートぐらいの広さがある。テントには最新式の脳波増強装置マークマックス11型が設置されいる。ジョージ大尉は脳波増強装置に接続されたヘルメットを被り調整に入る。ヘルメットは重く、頭を締め付けてくる。


《【発:第2中隊:ケイト:大尉】【宛て:大隊本部】【同報:全て】

 敵が現在地に侵入、ポングで応戦中。形勢不利。尚敵との交戦距離近し、支援のポングストの誤射に注意されたし》

『第2中隊は敵の侵入を許し苦戦している』


《【発:大隊本部】【宛て:第1中隊:ジョージ:大尉】【同報:不可】

 ガンビロンの準備急げ。送れ》


《【発:第1中隊:ジョージ:大尉】【宛て:大隊本部】【同報:不可】

 了解》

『ジョージ大尉に大隊本部よりガンビロンの準備の督促が入る』


 ジョージ大尉はシャブレーゼの錠剤を2錠服用した。腕に着けた脳波残量計の数字がどんどん

上がっていく。シャブレーゼの効果は絶大だ。戦場では必需品だが乱用すると脳がダーメジを受け、寿命を縮めることになる。兵士や職業軍人の寿命が短いのはシャブレーゼの乱用によるところが大きい。


《【発:第2中隊:ケイト:大尉】【宛て:大隊本部】【同報:全て】

 形勢は不利、敵の侵入個体200、第2小隊小隊長戦死。小マップ:E(エコー).9(ナイン)への移動許可を求む》


《【発:大隊本部】【宛て:第2中隊:ケイト:大尉】【同報:全て】

 許可せず。現在地点を死守せよ。送れ》


《【発:第2中隊:ケイト:大尉】【宛て:大隊本部】【同報:全て】

 了解、現在地点死守》

『第2中隊は移動許可を求めたが大隊本部が認めない』


 マークマックスのスイッチ入れるとパイロットランプが赤く点滅し、やがて緑色に点灯した。ジョージ大尉はこの1年間、軍のガンビロン開発チームとともに訓練を行ってきた。ガンビロンは非常に危険で開発中の事故で研究者や軍職員が大勢殉職した。ガンビロンは攻撃脳波を極限まで増幅し、拡散角度も360度となる。ガンビロンの影響半径は地球の単位でいえば半径40Kmに強い影響を与える。ガンビロンの攻撃を受けると脳が委縮し、その個体は植物状態となり自らの意思では何もできなくなる。放置すればやがて呼吸機能も停止し72時間で死に至る。治療を行っても延命以外の方法はなく、人工呼吸器や栄養補給器を装着し寝たきりの生活を余なくされる。ガンビロンの恐ろしいところは即座に死にに至らしめないところだ。大量の植物状態の個体を作り出す。個体の延命のために多くの労力と費用が必要となり敵の経済を疲弊させる。またその威力を見せつけることで恐怖を植え付け厭戦気分を作り出すのだ。


《【発:第1中隊:ジョージ:大尉】【宛て:大隊本部】【同報:不可】

 ガンビロン攻撃準備完了》


《【発:大隊本部】【宛て:第1中隊:ジョージ:大尉】【同報:不可】

 了解。攻撃命令まで待機せよ。》

『ジョージ大尉はガンビロンの攻撃準備を完了した』


 ジョージ大尉は脳波残量計を確認した。脳波残量は350%。ガンビロンの攻撃に必要な脳波の量を上回った。


《【発:大隊本部】【宛て:全て】【同報:全て】

 全中隊に告ぐ、これより暗号文による送信を行う。暗号解析コードのパターンはFTTA、フォックス.タンゴ.タンゴ.アルファ。繰り返す、暗号解析コードのパターンはFTTA、フォックス.タンゴ.タンゴ.アルファ、解読後は中隊毎に返信送れ》


《【暗号文】【発:大隊本部】【宛て:全て】【同報:全て】

 コラステミヨ#ジュクネネロ。ルーバニ%デデムエゴ!マカロニホウレンソウオモシロカッタカルミハノ@284-112。レテマサ$オオバクミコカワイカッタメクァ¥テヤンデイコチトラエドッコデイ&=*TTM》

『ガンビロンの攻撃が暗号文で各部隊に通知された』


《【発:第1中隊:ジャック:少尉】【宛て:大隊本部】【同報:全て】

 第1中隊 解読、了解》


《【発:第2中隊:ケイト:大尉】【宛て:大隊本部】【同報:全て】

 第2中隊 解読、了解》


《【発:第3中隊:トニー:大尉】【宛て:大隊本部】【同報:全て】

第3中隊 解読、了解》


《【発:偵察分隊:マッキー:曹長】【宛て:大隊本部】【同報:全て】

偵察分隊 解読、了解》

『各部隊が暗号電文を解読した』


 重要命令は伝達された。ガンビロンの使用に際して各位がシールド装置を使用するよう警告したのである。


《【発:第2中隊:ケイト:大尉】【宛て:大隊本部】【同報:全て】

 一部白兵戦に突入。我が方白兵戦強し! 第1中隊第1小隊の支援により敵を撃退しつつあり》


《【発:大隊本部】【宛て:第2中隊:ケイト:大尉】【同報:全て】

 本部了解。暗号文の指示に従え。送れ》


《【発:第2中隊:ケイト:大尉】【宛て:大隊本部】【同報:全て】

 了解》

『第1中隊の第1小隊が第2中隊の支援に入り白兵戦で敵を蹴散らしている』


 「第1小隊の支援が間に合ったな。第1小隊の白兵戦能力は相変わらず凄いな」

「ジョージ大尉の直伝だ、小隊長のジーク少尉も格闘術のエキスパートだ。大尉に仕込まれたんだ。第1小隊は白兵戦大会での優勝常連部隊だ」

「大尉はそんなに強いのか?」

「大尉は白兵戦で今までに1200個体以上の敵を葬っているらしい。恐ろしく強い。それに脳波戦にもめっぽう強い。だからガンビロンの習得を命じられたんだ」

「1200個体か。凄いな、俺なんか白兵戦ではまだ30個体だぜ。大尉は戦うために生まれてきたような個体だな」

「ああ、だから『ムスファ』なんだ、俺たち『ムシト』とは適性も格も違うんだよ」

「味方でよかったな」

「本当だ、大尉が敵じゃなくてよかったよ」


《【発:大隊本部】【宛て:第1中隊:ジョージ:大尉】【同報:不可】

 攻撃を開始せよ、繰り返す、攻撃を開始せよ。送れ》

『攻撃命令がが下令された』


 ジョージ大尉は口を大きく開け、深呼吸をした。訓練の成果が試される。

《【発:ジョージ:大尉】【宛て:大隊本部】【同報:不可】

 了解。攻撃開始》

『ついにガンビロンの攻撃が開始された』


 ジョージ大尉は目をつぶり、全神経を脳に集中させた。そしてガンビロンを放った。脳をもの凄い衝撃が襲った。目の前が白くなり、気を失った。


《―――――――――――――――――――れ》

《―――――――――――――――――――・・・・・・況送れ》

《――――――----------ジョージ:大尉】【同報:不可】状況送れ》

《【発:第2小隊:ジャック:少尉】【宛て:第1中隊:ジョージ:大尉】【同報:不可】

 状況送れ》


《【平文】【発:第2小隊ジャック:少尉】【宛て:第1中隊:ジョージ:大尉】【同報:不可】

 大尉、どうかしましたか? 返信してください》

『ジャック少尉がジョージ大尉を探している』


ジョージ大尉は目を開けた。気を失っていたのは1時間程だ。


《【発:第1中隊:ジョージ:大尉】【宛て:第2小隊:ジャック:少尉】【同報:第3小隊】

 異常なし。状況送れ》


《【発:第2小隊:ジャック:少尉】【宛て:第1中隊:ジョージ:大尉】【同報:第3小隊】

 大隊本部、第2中隊、第3中隊との連絡とれず》

 

《【発:第1中隊:ジョージ:大尉】【宛て:第2小隊:ジャック:少尉】【同報:第3小隊】

 大隊本部の状況を直接確認せよ。送れ》


《【発:第2小隊:ジャック:少尉】【宛て:第1中隊:ジョージ:大尉】【同報:第3小隊】

 了解。第2小隊、大隊本部へ向かう》


《【緊急】【発:1小隊:ジーク:少尉】【宛て:第1中隊:ジョージ:大尉】【同報:全て】

 第2中隊被害大。全ての個体意識無し。救護求む。我が小隊は被害無し》

『ジョージ大尉は無事を知らせるが、第1中隊以外は連絡がとれないようだ。ジョージ大尉は第2小隊に大隊本部へ行くよう指示を出した。支援を行った第1小隊によると第2中隊は被害甚大』


 ジョージ大尉はまだ意識が朦朧としていた。テレパシーも遠くの声のように感じる。確かにガンビロンを発射した実感はある。脳波残量計を見た。残量は6%。予想以上に脳波を消費していた。慌ててシャブレーゼのシートをポケットから取り出し、2錠を服用した。

「大尉、入ります」

メッサー少尉がテントに入って来た。

「報告します。敵の脳波通信を傍受しました。ガンビロンは敵にかなりの被害を与えたようです。敵の連隊本部は沈黙しています。それ以外の敵の脳派通信が『平文』で飛び交っています。脳波通信以外に無線機も使用しています。敵は相当混乱していると思われます。状況の分析を急がせます。マッキー曹長の偵察分隊を敵連隊本部へ向かわせています」


《【発:偵察分隊:マッキー:曹長】【宛て:第1中隊:ジョージ:大尉】【同報:第2小隊:ジャック:少尉、第3小隊:メッサー:少尉】

 敵連隊本部に侵入成功。敵の攻撃無し。敵連隊本部の意識不明個体100個体以上、途中通過した敵陣地も意識不明個体を多数確認、その数500個体以上。現在まで敵健常個体との遭遇無し。ガンビロンの効果認む、効果絶大なり》

『ガンビロンにより敵の連隊本部は壊滅した模様』


《【至急】【発:第2小隊:ジャック:少尉】【宛て:第1中隊:ジョージ:大尉】【同報:不可】

 大隊本部に到着。大隊本部の全個体意識無し、植物状態。大隊長意識無し。繰り返す、大隊本部の全個体意識無し、植物状態。大隊長意識無し。指示求む。連隊本部と師団本部へ転送されたし》

『大隊本部でいったい何が?』

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